012 - 目覚めと依頼
「……んっ、朝……?」
小鳥の囀り音と共に、目が覚める。
隣の布団を見てみると、香さんはまだ寝息を立てていた。
まだ起きるには早い時間のようだったので、どうせなら二度寝でもしてしまおうかと思ったが、これが中々 寝付けない。
仕方ないから散歩でもしようかと一度立ち上がる。
「んにゃ……レインくん……?」
しまった。
なるべく静かに立ち上がったつもりだったのだが、どうやら彼女を起こしてしまったようだ。
「あっ、ごめんなさい香さん。
起こしちゃいました……?」
「あっ、ううん。
いつもこの位に起きるんだ。
……そういえば、ぼくが昨日言った事、忘れちゃった?」
昨日言った事?
特に身に覚えがなく、はてなマークが浮かぶ。
「……忘れちゃったみたいだね。
寝る時に言ったでしょ? ぼくに敬語は使わないで、って」
ああ、思い返せばそんな事を言われた……気がする。
「ごめんなさ、えっと……
ごめん、香さん」
「ふふっ、いーよ。
さて、今朝はどうする? 取り敢えずご飯にする?」
「ご飯……もいいけど……」
「……精霊の所?
でも彼女の所へ行くのは、お昼ちょっと前くらいがいいんじゃないかな……
多分だけど、まだ寝てるよ」
「えっ、精霊も寝るの……?」
想像よりも意外と人間的で少し衝撃だった。
完全に勝手なイメージだけど精霊というくらいなので、およそ人間が想像も出来ないような生活をしているのかとばかり……。
「うん、そりゃ精霊といえど、完全な存在って訳じゃないらしいから。
……それに、夜通し治療して魔力も少なくなってるかもだし
魔力回復はしないと、だと思う」
成程、確かに言われてみれば魔力は食事や睡眠をとれば回復するもの……
精霊といえど、魔力も無尽蔵って訳じゃないんだ。
「じゃぁ、よければ朝ごはん……にしてもいい?」
「いいともさ!」
香さんは一つ返事でキッチンまで案内してくれた。
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「そういえば、レインくんって料理とか出来る?」
「あっ、それが……実はサッパリで……」
いつもクロードが作ってくれていたから、実は料理が全く出来ない。
いやはや生活力のなさが恥ずかしい……。
「そっか、いや大丈夫 大丈夫!
実はね……じゃん!! こんなのがあるんだ!」
そう言うと、香さんは戸棚から銀色の小さな袋を取り出した。
「ふふふ、これね……なんだと思う?」
笑顔で袋を見せつけてくる香さん。
中身が見えないような銀色の袋……となると、中に何かヤバいものでも入っているのだろうか?
でもこのタイミングで出してくるという事はないだろう……となると……
「……なんらかの魔術が入っていたり……?」
「ブブーッ! 残念!
……っていうか魔術って袋に詰めれるの!?
そっちの方が驚きだよ!!」
「いやごめん、分からなかったから当てずっぽうなだけ……
そんなことより、その中には何が入ってるの?」
「フフフ……これね、中に食べ物が入ってるんだ。
カレーっていうの!!」
かれー?
初めて聞く名前の食べ物に思わず小首をかしげる。
でもあの中に食べ物が入ってるという事は、袋をあけたらすぐに ご飯が食べれるって事!? 凄い!
「じゃぁ早速 食べようよ!」
「あっ、でもこれ……実はすぐに食べられないんだ。
いくつかやる事があって……
というわけで彩道シェフの楽しいお料理教室!!」
突然なにか始まった!?
まぁ香さんはノリノリで楽しそうだし、暫く聞いていよう……。
「まずは鍋を用意します!」
そう言って香さんは別の戸棚から鍋を取り出した。
「お鍋……」
「鍋に水を入れて、そして火をおこし強火で温めます!」
「温める」
「暫く待ちます!」
「待つ……」
香シェフに"待て"と言われたので素直に数分間 待ってみる。
すると、鍋の水が次第にグツグツしてきた。
「そして最後に……温めた袋を取り出します!
この時、火傷しないように気をつけましょう!」
「あ、熱そう……」
「そして、予め用意しておいたお皿に
袋の中身をぶちまけて……」
シェフは袋の中から、茶色の液体を皿に出す。
中々凄い色だけど、あれを更に加工するのかな……?
「完成です!!」
「えっ完成!?」
あまりにも手軽すぎて驚いた……いや、それよりも あんな色の物を食べれるのだろうか。
意表をつかれて流石に戸惑ってしまう。
……でも、何だか食欲をそそる良い匂いがする。
「ふっふっふー、凄いでしょう!!
穀物も用意してあるから、食べよう食べよう!」
「え、えーっと……
じゃぁ、いただきます!」
見た事もない食べ物に、未だ戸惑いを隠せないけども、折角 香さんが用意してくれたんだ。
黙って ありがたく頂く事にした。
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「香さん!
さっきのかれー! すごくおいしかった!!」
あの後、恐る恐る かれーを口にしたけれど、思いのほか凄く美味しい食べ物で、ぺろりと完食してしまった。
見た目は凄くアレだけど、匂いも良くて味も良い……穀物と一緒に食べるのにも相性が良く、物凄い食べ物だった。
「それはよかった。
それにしてもレインくんって……その、犬みたいだね」
「えっ……いぬ……?」
不意に香さんに そんな事を言われ、少し恥ずかしくなる。
まさか犬とは……。
「ふふ、ごめん。可愛らしさが犬みたいで、つい。
さて! 予定時間まで もう少しあるけど やる事もないし
散歩でもしながら ゆっくり向かっちゃう?」
いい提案だ、ちょっとだけこの森の事も知っておきたかったし。
「じゃぁ、ちょっと森を散歩してもいいですか?」
「おっけー!
昨日 洗ったレインくんの洋服も乾いただろうし、持ってくるね」
なんと。
昨日 洗い場に服がないと思ったんだけれど、香さん わざわざ洗ってくれたんだ!
思えば、彼女には昨日から本当にお世話になりっぱなしで正直 頭が上がらない……。
久々にクロード以外の人の温かさを感じ、思わずジーン……としてしまう。
「……何してるの、レインくん」
「あっ、ちょっと人のぬくもりを感じて……」
「へ? ぬくもり?」
「いやなんでもない! なんでもないデス!」
感動で暫く固まっていた間に、服を持ってきてくれたようだ。
ただただ 棒立ちで硬直していただけに、そんな様子を見られて ちょっと恥ずかしい……。
僕は顔を真っ赤にしながら服を受け取った。
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あの後、僕達は予定通り家を出て 偶に寄り道をはさみながら湖へと向かっていた。
この辺りはモンスターも出現せず、散歩するには最適な場所だった。
因みに、何故モンスターが出てこないのかというと 香さん曰く、湖から ある程度の範囲は特殊な結界が張られており、並大抵のモンスターは近づけないらしい。
何だかんだ言いつつ、やっぱり精霊って凄い存在だと再認識した……。
そして暫く歩いていると見覚えのある湖が見えてきた。
そこには森の精霊の姿があり、隣には見慣れた人物も立っている。
あれは……僕の相棒の――
「レイン!!」
相棒は僕の顔を見ると元気そうな声で名前を呼ぶ。
思わず、僕も反射的に返事をしてしまう。
「クロード!!
目が覚めてよかった……! 本当に良かった!!」
彼の元気そうな顔を見て、思わず涙が零れた。
次第に、その涙は止まらなくなる。
「ありがとう、ありがとうございます精霊さん!
うわぁぁぁん! クロードぉ!!」
「ちょ、人前で抱き付くなヨ……ちょっと恥ずかしいじゃないか……
……って、うわっ! ボクの服で鼻をかむな! 汚い!!」
「だって! だってぇ!!」
「……ふふっ、感動の再開だね。
流石は精霊、いい仕事するぅ」
「やめてください、香。
こっちまで恥ずかしいじゃないですか。
……そんな事よりも……
レインさん、ちょっと……よろしいですか?」
「ふぇっ?」
突然、精霊に名前を呼ばれ、彼女の方を振り向く。
すると、彼女は真剣な顔をしながら僕の方を見ていた。
「レインさん……
こんなタイミングで言うのは 少々申し訳ないのですが……
ちょっと、よろしいですか?
「ぐすっ……なんでしょう?」
「貴方は何でも屋なるものをやっていると
クロードさんから伺いました。
それは本当ですか?」
「はい、やっていますよ。 ずびーっ」
「だからボクの服で鼻をかむな!」
「……では、よければこの 森の精霊の依頼を
どうか受けてくれないでしょうか?」
「い、依頼ですか!?
はっ、はい! どんな依頼でも喜んで受けます!」
まさかの森の精霊からの直々の依頼に驚き、涙が引っ込んでしまった。
クロードの恩人でもある彼女の頼みだ、断る理由はない。
「ありがとうございます。報酬は……そうですね
レインさんに"私の精霊としての力を少しだけ授ける"
ということで、どうでしょうか?」
「精霊としての力を!?
それは禁忌だって聞いた覚えがあるヨ!?」
精霊の言葉を聞いたクロードは、大声をあげて驚いていた。
でもそうだよね、そんな精霊の力を簡単に渡しちゃ 世界の均衡がおかしく……そもそも力って、そんな簡単に受け渡せるものなのかな? 少し疑問だ。
「本当に物知りなのですね、クロードさん。
ですが、これは依頼内容に見合った報酬です。
それに……」
精霊さんは何か、言葉に詰まっているようだった。
「ともあれ、これは中々に難しい依頼となります。
本当によろしいですね?」
「精霊さんならどんな依頼でも聞き届けますよ!
何でも言ってください!」
「ありがとうございます。
では、依頼内容は……
クロードさんをこんな状態にした者を倒す事。
期限は問いません」
「……えっ」
……"何でも言ってください"とは言ったが、これは中々に酷な依頼がとんできた……。




