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何でもする人は楽じゃナイ!  作者: 氷上 冷嗚
第01章:盗賊団
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010 - 訪問


 精霊に言われた通り森の奥へ進むと、木造の小さな家が現れた。

 もう何時かは分からないが、辺りはすっかり暗くなっている。


 ひとまず、目の前にあるこの家がカオルという人物の家だろうか……?

 そのままドアの前まで来てみたが、知らない人の家に尋ねる時って何を言えばいいんだろう……

 取り敢えずドアを叩いてみた。


「ンドゥオッ!? 何故ドアから音が!?

 インターホンを鳴らさないという事は、精霊ではないな!?

 えーっと!……どなた?」


「あの、すみません!

 レインって言う者ですが……」


 ここで僕は、さっき精霊に教えてもらった合言葉を思い出し、口にする。


「……げ、げーじゅつえんじぇる!」


「どぅおおおッ!? その言葉、どこでッ!?」


 大声と共に、ドアから茶髪ショートヘアーの中性的な人が勢いよく飛び出してきた。

 声からして男性のようだが……ここの家主であろうか……?


「あっ……えーっと、あはは……どうも」


 家から いきなり出てきた人物の慌てた様子を見て、僕は思わず愛想笑いをしてしまう。


「あっ、どーも……

 ……その単語を知ってるという事は、精霊の知り合いかな?」


「まぁ、そんな所です」


「それならどうぞ、あがってあがって!

 散らかってるけどお茶くらいは出すよ。

 というか貴方さえ良ければ泊まっていってもいいよ」


 これは驚いた。

 まさか事情も説明せず一つ返事で宿泊許可をもらえるとは……森に住んでいるからって、あまりにも無防備すぎじゃない!?


「えっ、そんな……いいんです?

 まだお互い自己紹介もしてないのに……」


「ああ、そういえばそうだったね……

 じゃぁ改めて、ぼくは(かおる)彩道(さいどう) (かおる)

 "(いろどり)"のサイに"(みち)"のドウ、最後に(かおり)のカオルでサイドウ カオル。

 趣味は絵画関係と音楽関係と……

 あっ、絵画は描くのも見るのも好きだよ。

 音楽も聴いたり演奏したり――


 見た目に似合わず、意外と賑やかな人かな?と思っていたけれど、話をするのも好きな人らしい。

 これは暫く語りそうな空気だぞ……!


-----------------------


「――って感じ」


「ソ、ソーナンデスネ」


 流石に長くてびっくりした……。

 まさか自己紹介をはさみながら、彼の絵画室で絵を描くコツを教えてもらったり、演奏室でピアノ演奏のコツを教わる事になろうとは……。


「……ところで、貴方は何て名前?

 よければ教えてもらえると嬉しいな」


「あっ、僕はレイン。

 下級魔術士(ウィザード)をやってます」


「へぇ~魔術士(ウィザード)……って事はあれかい?

 魔法とか使えるのかい!?」


 妙に"魔術士(ウィザード)"という単語に食いつく(かおる)さん。

 そんな珍しいものでもないとは思うんだけれど……。


「つ、使えますけど……

 ……よければ、見てみます?」


「ホント!? 見たい! 魔法使ってる所、見たい!」


 突然、(かおる)さんはぴょんぴょんと跳ねながら子供のようにはしゃぎ出した。

 冗談で言ったつもりなんだけれど、まさかこんなに興奮されるとは思わなかった。

 こんなに期待されては見せないわけにもいかないかな。


「じゃぁ、よければ外で……

 あっ、でも"下級"の名の通り凄い魔法は使えないので、期待はしないでくださいね」


 そう言いながら僕は玄関へと向かう。


「いや! こっちの世界じゃ魔法自体 見るの初めてだから

 どんな魔法でもすご……あっ」


 んん?"こっちの世界"……? 何かとても気になる単語が出てきた気がしたけど、聞き間違いだろうか?

 後ろを振り返ると、(かおる)さんは明らかに焦った様子だった。

 多分だけど、本人は言ってはいけない事なのだろう。わざわざ聞き返して気まずくなるのも嫌だし、()かないでおこう……。



-----------------------



 というわけで、僕と(かおる)さんは彼の自宅前へと移動し、氷呪文を撃つ準備をしていた。


「じゃぁこれから呪文を撃ちますけど……

 本当にあの方向なら撃っても問題ないのですね?」


「うん! どかーん!とやって、どかーん!と!」


「えっと……残念ながら氷呪文しか扱えないのですけど……

 まぁいいや! いきます! 凍り付く錠前(フリーズ・ロック)!!」


 お得意の拘束氷呪文を目の前の木に唱えた。

 続けて……


冷気爆破(コールド・バーン)!!」


 遠くに向けて冷気を作り出し、その冷気を一気に爆発させる。

 実はこの呪文、自分の周りだけじゃなく任意の場所に冷気を作り出す事も可能なのだ。


 まぁこんな夜にフリーズバーンは近所迷惑になるだろうけど、幸いにも ここは森の奥。

 遠慮なく撃てるというものである。


「す……すごーい!!

 レインさん凄い!! 本物の魔術士(ウィザード)だ! 魔法だー!」


「そ、そうですか? そう言ってもらえると、なんだか嬉しいな」


 呪文で褒められた事はないので素直に嬉しい。

 何だか照れるな……。


「いやーっ、良い物を見せてもらったよ! ホントありがと!

 今夜は思う存分、ウチでゆっくりしていって!

 というか貴方さえ良ければ今日は語り合おう!

 こんな所で暮らしてるせいで、最近は真面に人と会話してないから

 色々と話したいし話を聞きたいんだ!」


 (かおる)さんは より一層ハキハキとした話し方をする。

 そんな楽しそうな彼の様子を見て、僕まで笑顔になってきた。


「僕でよければ」


「やったね!

 さて、今夜は冷えるから、一回 家に戻ろ?」


「は、はい!」


 言われてみると。今日は確かに寒い……気がする。

 基本的に暑がりなせいで寒さを感じない自分だが、一般人からしたら とても冷えるかもしれない。

 (まが)いなりにも何でも屋をやってる身なんだから もっと人に気を使える人間にならなくちゃ、そう思った。


 ……何でも屋と云えば、仕事相棒のクロードはちゃんと精霊さんに治療してもらえているだろうか?

 また相棒と仕事が出来たらいいのだけれど……そんな事を思っていたら、急に寂しくなってきた。


 そんな僕の寂しさを()いてくれるかの如く、(かおる)さんが声をかける。


「レインさーん!? 来ないの~!?

 そんな所にいたら凍え死んじゃうよ~!!」


 ……不安になっても、直接 僕がどうにか出来る訳じゃないから悩んでも考えても仕方ないかな……。

 ひとまず、この寂しい想いを押し殺し、(かおる)さんの家へと戻った。



-----------------------



 あの後は(かおる)さんの家へと戻り、2人で色々な事を語り合った。

 今まで旅をしてきたこと、どうしてこの森にきたのかという事等、色々な事を。

 といっても、(かおる)さんは絵や音楽の事ばかりだったけど……でも良い勉強になった。

 いつかこの関係の仕事依頼が来たら受けてみようと思う。……といっても、今まで来たことがないんだけども。


「んー! やっぱり人と話すっていいね!

 今日は来てくれてありがとうレインさん!

 気づけばこんな夜更けだし、もうそろそろ寝る?」


「あっ、そうさせてもらいます。

 ……その前に、あの……泊めて頂く上にこんな事を言うのは

 厚かましいかもしれないのですが……


 お風呂、ってありますか?」


「お、お風呂!? えっ、まさかレインさんって……

 実は"第三世界"出身の人だったりするの……!?」


 何故か"お風呂"という単語一つで思い切り驚かれてしまった。

 こちらの地方にはお風呂という概念がないのだろうか?

 いや、そんな事より第三世界とは一体……?

 疑問に思う事だらけで、思わず首を傾げる。


「……あっ、あーっ……えーっと……

 ごめんレインさん。なんでもないよ、今のは忘れて。

 悪いんだけど、ウチにはお風呂がなくて……流し場ならあるんだけれど……。

 というか、この辺の村や街には"お風呂"という概念はないんじゃないかな?

 いや精霊が言ってた事だから、本当かどうかは分からないけれど……」


「わ、分かりました。

 こちらこそすみません」


 この辺の村や街にはお風呂という概念がない?……おかしい、じゃぁ何故カラック村の人はお風呂の存在を知っていたのだろうか……

 あの村はこの森と近いわけだし、これでは辻褄(つじつま)が合わない……。


 気になる事は山積みではあったが、流石に今日は色々な事がありすぎて もうそろそろ休みたい気分だった。


「じゃぁ、すみませんが流し場で

 汗だけ流させてもらってもいいですか?」


「あっ、うん! いいよ!

 こっちにあるからついてきて」


 そういうと(かおる)さんは流し場まで案内してくれた。



-----------------------



 ――あの後、僕は流し場で体を洗った。

 お風呂はなくとも、汗を流してさっぱり出来るからありがたい。

 取り敢えず、充分に体を洗う事は出来たから そろそろ上がろう……としたのだが……


 ……ない。

 タオルはあるけども、僕の服がないのだ。


 お、おかしい……確か そこの小さい(かご)に入れた筈なんだけれど……。

 流石にタオル一枚のまま、他人の家で一晩明かしたくない……のだが、着る服がない今、このままでは身動きが取れない。


 こうなったら(かおる)さんを呼んでしまおうか?そんな事を思った矢先、目の前のドアが開く。

 そこには服を持った(かおる)さんが……顔を真っ赤にして立っていた。


「あっ……あわわわわ!! ごめん!!

 ごめんなさい! 悪気はないんだ!! ぼくはただ服を持ってきただけで!!

 まさかこんなに上がるのが早いとは思わず!

 ()()()()()()()()()()()()とか、そんなわけじゃなかったんだ!

 えーっと! これ!ぼくの服だけど良ければ着て! ここに置いとくから!

 じゃ!!」


 そう言うと(かおる)さんは手に持っていた服だけ置き、物凄い勢いでドアを閉めていった。その勢いはまるで嵐のようで、寧ろこっちの方がビックリする。

 まぁ流石に、突然 他人の裸を見るのは多少 驚くとは思うけれど、そんなに取り乱すほどのものだろうか? こればかりは自分自身が経験しなきゃ分からないや……。


 ひとまずここにずっといるわけにもいかず、タオルで体の水気を拭き取り 用意してもらった((シャツ))を着た。



-----------------------



 部屋に戻ると(かおる)さんは僕の顔を見た途端、申し訳なさそうな顔をして一言……。


「あっ、レインさん……その、さっきはごめん!

 悪気はなかったんだけど……」


「いや! こちらこそごめんなさい!

 流石にビックリしますよね……

 えっと……洋服、用意してくれてありがとうございます!」


「う、うん……」


 ……と、ここでお互いに会話が途切れる。

 気まずい、流石にこの空気は凄く気まずいぞ。

 こういう場合、なんと声をかければいいものか……。

 良い言葉が思いつかず、暫く沈黙が続く。こういう時間ってやけに長く感じる……。

 そんな事を思っていると、沈黙に耐え切れなかったのか(かおる)さんが一言


「えっと……

 レインさん、ぼくもちょっと汗を流してくるね」


「は、はい……」


 そう言って(かおる)さんは流し場へと足を運んだ。

 ひとまず、彼が戻ってくるまで 大人しく待っていよう……


 ……いや、まてよ……これはチャンスだ。


 この空いた時間に彼の好きな絵を描けば、戻ってきた時に この気まずさを打ち消すような話題になるんじゃないか?

 これは名案だ!と思ったのだが、生憎(あいにく) 手元に絵を描ける道具がない。

 確か自己紹介の時に案内された絵画室なら、道具一式があったと思うが……でも勝手に部屋に行って道具を借りるのは流石に……。


 悩むに悩んでいると、自分の脳裏にいる天使と悪魔が囁く……。


(レイン、この場合はやむを得ません、強行突破です。

 自己紹介で散々 絵の良さを語っていた彼なら

 多少 無断で道具を使用したとしても きっと許してくれます)


 そ、そうだよね……うん。

 あんなにキラキラした目で語っていたもの、趣味を理解したように見えるから少しくらい部屋に行って道具を借りても大丈夫だよね。


(いや、流石に今日出会ったばかりの他人の部屋に

 無断で入るのは常識的に駄目だろ……

 このままこの場で待って、話題を考えていた方が良いと思うゼ?)


 むっ、それもそうだ……。

 流石に常識的に考えたら駄目に決まっている。


(いいえ、このアホにそんな事を期待しても無駄です。

 こんな思考回路で良い話題を思いつける筈ありません。

 実力行使あるのみです)


 うーん、それもその通り……

 ……って、あれ? 何か天使と悪魔が逆な気が……?

 天使の方、口悪くない?


 でもきっとそうだ。

 僕のこんな お粗末な頭で良い話題を見つけられる気がしないし、絵を描きに行こう。

 (かおる)さんならきっと許してくれるはずだ。


 そう自分に言い聞かせ、絵画室へと向かう。

 勝手に別の部屋に行くのもどうかと思うが、彼なら許してくれる筈……。

 そう自分に言い聞かせながら絵画室のドアを開けた。


 そこには信じられない光景が――


 ……なんと、さっきまで絵だったものが部屋の中を動きまわっていたのだ。

 コップに林檎(りんご)に鳥、更には人まで……


 目の前の信じられない光景に驚愕し、僕は目の前が真っ暗になった……。



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