009 - 森の精霊
空中から落ちてきたクロードを何とかキャッチできたが、とてもぐったりした様子だった。
彼のこんな姿は初めて見た……。
「クロード! ねぇクロード! 起きてよ!!
嘘だよね!? 僕を驚かせる為のドッキリでしょ!?」
揺さぶってみたが全く起きそうにない様子だ。
すると、彼の口が僅かに動く。
「レイン……悪い、もう駄目みたい。
奴らに変な薬を打たれてね……
そのせいで、自分の魔力をコントロール出来ないんだ……」
いつもの元気な面影はなく、今にも消え入りそうな声だった。
思わず僕は声を漏らす。
「そんな……」
「まさかこんな所でやられるだなんて……。
キミの記憶を取り戻すまで死ねないと思ってたんだけど……ごめん」
「謝らないでよ!!」
彼のこんな姿は見たくない。そう思い、抱きかかえていたクロードを荷台へ乗せる。
さっきの女の目的だった盗賊はそのまま乗っていたので、目的は守り抜いたけれど……クロードがこんな事になってしまっては、負けたようなものだ。
クロードが拘束されていたあの時、怖気づかず少しでも彼の援護が出来たら状況は変わったんじゃないだろうか……
ただただ情けない自分を攻め立て、無我夢中で重たい人力車を引っ張りながら、僕は村へと急いだ……。
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あれから暫く歩いたが、未だ村には着きそうもない。
地図を見た感じ、今日中には到着しそうな感じだったが、歩くスピードのせいで今日中の到着は難しいかもしれない……。
クロードの為にも一刻も早く着かないといけないのだが……。
そう思いながら進んでいると少し開けた場所へ出た。
ここは……湖だろうか?
正直言うと、ずっと歩き続けていたせいで僕の体力も限界だった。
少し…ほんの少しだけ休憩をしようと湖に近づく。 すると……
『こんな森のはずれに、あの子以外の人が来るなんて珍しいですね?』
突然、何処からか美しい声が聞こえた。そして何と、湖の上に綺麗な緑髪の女の人が現れる。
「こんにちは、旅人さん。
森の精霊である私に何か用ですか?――あなたは!?」
女の人は長く綺麗な緑髪をなびかせながら、自らの事を"森の精霊"と名乗った。
精霊……確かクロードが、"この世界を調和するのに大事な存在"みたいな事を言っていた覚えが……恥ずかしながら僕は勉強は苦手で、正直よく覚えていない。あの時 真面目に聞かなかったのが悔やまれる……。
いや、そんな事よりも 精霊は僕の事を知っている様子だった……みたいなのだけれど、こんな人は覚えがない。
こんなに綺麗な人が知り合いなら忘れる筈がないだろうし、きっと他人の空似だろう……。
「突然お邪魔して すみません精霊さん。
少しだけ、この湖で休もうと思って立ち寄ってしまいました。
休憩したらすぐにここを出ますので、ほんの少しだけここにいてもいいですか?」
「え、ええ。 構いません」
精霊はまだ戸惑っている様子であったが、笑顔で承諾してくれた。
ここなら安心して体を休める事が出来そうだ……。
「それにしても、何故こんな辺境の湖に?
よければお話を聞かせてくれませんか」
「大丈夫ですよ」
僕は休憩をしつつ、これまでの経緯を彼女に説明した。
襲ってきた盗賊の事、僕達がリドの村や王国へ向かっている事、森で襲い掛かってきた黒いマント女の事、クロードの事、そして自分の事を。
「……なるほど、そういう事でしたか。
お話してくださり、ありがとうございます。
よければクロードさんを見せて頂けませんか?」
「いいですけど……」
会った事もない筈の精霊は何処か懐かしい感じがして、つい快く承諾してしまった。
悪い人ではなさそうだし大丈夫な筈だ……
彼女を信じて瀕死状態のクロードを見せる。
「これは……成程。
えいっ!!」
精霊はクロードを見た途端、彼に手をかざし何かをした。
するとクロードが眩しく光り始める……。
「せ、精霊さん!?何を!?」
「回復の魔法とは別の癒術です、これですぐ良くなる筈ですよ」
彼女がそう言っていたので ひとまず安心し、暫くその様子を見ていたのだが……
何故かクロードの状態は中々 良くならない。
「……あの、精霊さん……」
「いや! 良くなる筈なんですよ!? その筈……なんですけど……
あれっ、おかしいな……」
これには彼女自身も予想外みたいで、とっても焦っている様子だった。
実は残念な精霊なのかもしれない……。
と思った矢先、何かに気づいたのか彼女の様子が一変する。
「……これは……いや、そんな筈……」
「どうしたんですか精霊さん……?」
「……レインさん、つかぬ事を伺いますが
この子は魔術士か何かですか?」
精霊は、どこか焦ったような表情で僕に尋ねる。
「そうですけど……上級魔術士です」
「そんな……でもこの症状は……
……突然で すみませんがレインさん
私は今から、この森の妖精たちと共に この子の看病をします……」
「……えっ!?」
本当に突然な話で、流石に戸惑う。
「そ、そんな急に……というか看病って、良いんですか!?」
「はい、それにこの症状……"私達"にも非があるものです」
私達?森の精霊の他にも誰か関係していた人がいたのだろうか?
それに非があるって……この短い道中に色々とありすぎて、頭がこんがらがりそうだった。
「……この湖の近くに"カオル"という者が住まう家があります。
勝手なのは重々承知していますが今夜はそこで泊まって下さい」
「えっ……その、精霊さん
ここにいては駄目なのですか?
出来たらクロードの様子を見ていたいのですが……」
「この森の妖精達は人を苦手としているのです。
なのですみません、良ければ今夜だけ
その者の家にいてくださると助かります」
「……分かりました」
「本当にすみません。
カオルの家はここより西……あちらの方向にあります」
そう言うと精霊は"あっち"という風に指をさして案内してくれた
「ああ!それと……カオルに会ったら"ゲージュツエンジェル"と伝えてください。
そうすれば快く迎え入れてくれると思いますよ」
「げーじゅつえんじぇる?……分かりました」
突然出てきた奇妙な単語に少し焦ったが、忘れないように小声で復唱しつつ了承をする。
「……クロードを、よろしくお願いします」
僕がそういうと、精霊は こくり……と優しく首を縦に振ってくれた。
「彼は私が命を懸けてでも癒します。
明日の朝、またここにいらしてくださいね」
精霊がそう言うと僕は軽く会釈をして、その場を後にした。
彼女ならクロードを治してくれる、そう信じて……。
……そういえば氷漬けの盗賊を置きっぱなしにしちゃったけど、アレは良かったのかな……。




