第九話 ここに来たのは(後)
「それは、中学三年になったある日。
私は、急に学校で倒れ、そのまま入院する事になったの。
最初は原因不明で、全身に激痛が走ってとても苦しかった」
「そうなの?」
「うん、最初の頃は体が千切れる様な痛みがずっと続いて。
それが三ヶ月続いたんだけど。
その痛みは次第に収まっていったけど、それと共に私の体が大きく変わって行った・・・」
「・・・」
「体が女性化して時点で、初めてTS病だって分かったんだけど。
両親を始めとした周りは、最初はとても困惑していた分かった」
「・・・まあ、そうだよね」
「私も最初は、混乱していたけど。
元々から、男として生きるのが苦しかったから、スンナリ受け入れられた」
悠ちゃんから、TS病になった時の事を初めて聞いて。
想像できない内容に、聞いている僕は現実感が無かった。
「それで、学校はどぎゃんしたと〔どうしたの〕?」
「結局、入院してから一度も戻らなかった。
元々から、友達も居なかったから、どうでも良かったし。
卒業アルバムには、男だった時の写真が端の方に貼ってあるよ」
「高校はどぎゃんなったと。
確か、中学三年で受験じゃなか〔ない〕と?」
「最初は、受験に間に合わせる為に、必死になって勉強してけど。
たまたま、推薦枠の空いていた女子校に入ることが出来たんだ。
これでも、学年でもトップの成績だったから。
だけど、それもボッチで勉強しかする事が無かったからだし。
その所為で、ますます孤立化して行ったんだけどね・・・」
苦笑いをして、自嘲気味に悠ちゃんがそう言う。
「・・・取り敢えずは、進学は出来たんだ」
「うん、進学と元男だと言うのがバレない様。
引っ越ししないと行けなくなったから、両親には負担を掛けてたけど・・・」
そう言って彼女が、申し訳無さそうに俯いてしまった。
・・・
「これで女の子して、自分らしく生きられると思ったけど。
高校に言ってからも、私はイジメを受けてたの。
それ以前にも、イジメを受けていたけども、それでも罵られる程度とかだったのが。
暴力を振るわれる様な、イジメを受けていたのよ」
「えっ!」
僕は、どうしてイジメを受けたのか、一瞬、分からなかった。
男の時は何となく想像出来るが、女性化してからの悠ちゃんが。
どうしてそんな事になったのか、良く分からない。
「入学して、しばらくは皆んなと仲良くなっていたんだよ。
それが段々、何だかヨソヨソしくなって行って。
その内、前みたいに誰も相手をしてくれなくなった」
「どうして・・・」
「知らないけど、”どうして誘いを断った”とか”何で、一緒に来なかった”とか。
それから”何でそんな事をしたのよ”とか、良く分からない事を言われた」
何となくだが、これは”女子特有の付き合い”が絡んだ事かもしれない。
これも聞いた話だけど、TSで女性化した娘は、女社会特有の内輪のルールが分からなくてイジメを受けやすいって、聞いたことがある。
「それに、学校帰りに本当は好きじゃないけど。
チョット、ケバい娘たちに、無理やり繁華街に連れて行かれた時があって。
その時は、他の学校の軽そうな男子が、一緒に来たんだけど。
その男子達が、私にシツコク言い寄って来たの」
「何やて!」
僕は、悠ちゃんが”都会のチャラ男”(偏見)と一緒に居る所を想像して。
思わず、声を荒げた。
「一緒に来ていた男子の殆どが、私の所にやって来て私に絡んでくるの。
私も、何人もイヤらしい表情で絡んでくる男の子が、迷惑で堪らなかったから最終的には逃げたけど。
その翌日に、一緒に行っていたクラスの娘に取り囲まれ。
”何でアンタばっかり”とか、”独り占めするな”って言われて。
それから、暴力を振るわれるようになった・・・」
・・・ははん、なるほど、どうもナンパ目的複数人で行ったのが。
結局、彼女に独り占めされてしまい、逆ギレしてしまったのか。
そう言えば、TSして女性化した娘は悠ちゃんもそうだけど。
なぜか美人が多くて、しかも元々からの女子よりも女の子らしい娘が多いので。
男からはとてもモテるけど、逆にそう言った理由で、女子からのイジメを受けやすいって聞いた事もある。
「最初は、何人かの娘に取り囲まれて、責められていたのが。
次第に、髪を掴まれたり、顔をぶたれたり、足に蹴りを入れられたりして行って。
ある日、階段を下っていたら、突然、後ろから蹴られて階段を転げ落ち、腕を骨折してしまったの・・・」
悠ちゃんが、右腕を上げて見せてくれた。
確かに、左腕よりも僅かに細い。
多分、固定されている時に筋肉が落ちた為だろう。
「その件が事件化して、私がイジメを受けていた明るみになり。
その際、私の事が元男だってバレて広まったから、もう外に出られなくなって・・・。
リハビリが終わってからも、家に引きこもるようになったんだけど。
そうしたら叔父さん達から、ここに来るように誘いがきた」
「確かに、悠ちゃんが困っとるけん〔困っているから〕、家ん来るごつ〔ように〕言〜た〔言った〕て聞いた」
「その話を聞いた時、私は真っ先に颯ちゃんの事を思い出したの。
優しい颯ちゃんなら、変わった私でも受け入れて貰えるってね」
そう言うと、彼女の目から涙が溢れ出す。
「・・・私、私、最初は怖かったんだよ。
もし、颯ちゃんに受け入れても貰えなかったらと思うと・・・」
「悠ちゃん、悠ちゃん、もう良かよ。
どぎゃんか〔どんな〕姿だろうと、悠ちゃんは悠ちゃんやけんがら〔なんだから〕」
悲しそうな悠ちゃんが放っとけ無くて、僕は思わず彼女を抱き締めてしまった。
「女になっても、誰からも受け入れて貰えなくて。
もし、もし、颯ちゃんからも・・・」
「もう良かけん〔から〕、何も喋らんでも良かけん」
抱き締めながら、僕は、小さく嗚咽を漏らす彼女の背中を優しく擦る。
こうして僕は、青い空と涼しい潮風の中。
しばらくの間、腕の中で泣いている悠ちゃんを慰めていたのであった。