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第八話 ここに来たのは(前)

今回と次回が、前半の山場になります。



 しばらくして、悠ちゃんの荷物の整理なども一段落した頃。




 「ねえ(ゆう)ちゃん、久しぶりに海ば〔を〕見に行かんね〔行かない〕?」


 「うん、そうだね。

 ここに来てまだ見てないから。

 チョット、日焼け止め塗って来るから待っててね」




 その日は、補講が昼からなので午前中はノンビリしていた僕が。

昔、よく一緒に行っていた海に、まだ行ってないの気付き彼女にそう言うと。

ようやく落ち着き、余裕の出来た悠ちゃんが了承した。


 と言う訳で、彼女の準備が出来た所で、一緒に海へと向かった。




 **********




 五分ほど歩いた所に海があるのだが。

途中、古い家並みを路地を()って歩く。

 

 この辺りは、割と家がある集落だが。

近所に店屋も少ないので、ある程度の買い物は他でしないといけない。


 そんな集落をしばらく歩いてから、線路を渡り松林を抜けると海へと出た。


 挿絵(By みてみん) 




 「うわ〜、海風が気持ち良いね〜」




 海に着くと、腰ほどの堤防を渡って吹いてくる。

涼しい風に、悠ちゃんが声を上げた。


 今日の彼女はノースリーブの、胸元や背中が開いた。

白地に赤い花柄のワンピース姿であった。


 足元も白いサンダルで、見るからに涼しそうだ。


 膝より若干、短い丈の(すそ)が風に揺れていた。


  挿絵(By みてみん)




 「今日は、雲仙が良く見えるね〜」


 「天気も()かし、波も穏やかやけん〔だから〕、来て良かった〜」




 遠くに見える雲仙も、天気が良い所為(せい)かとても良く見え。

丁度、干潮だったので、遠くの方まで干潟が見えている。


  挿絵(By みてみん)


 そして、雲仙の北にある、多良岳(たらだけ)も良く見える。




 「私、この風景が好きだなぁ〜」


 「僕もそうだよ」


 「うん、こんなに雄大な光景なんて、向こうでは見られないから。

 いつまでも、ずっと見たいな〜」




 そう言って、悠ちゃんがこの風景に対する思いを語っている。




 「ここで、この風景を覚えたからかな。

 向こうでも、海のある風景が好きで良く行っていたんだよ、一人で」


 「でも向こうで、こぎゃんか〔こんな〕風景は無かでしょ」


 「うん、だから向こうでは、横浜の海が見える公園とか、山下公園とかに気が向いた時に行っていたの。

 そこはそこで、お洒落(しゃれ)でキレイで、私は好きなんだけど。

 やっぱり、この風景とは違うと思う」


 「へえ〜」


 「でもね、私がこの海とこの風景が好きなのは、颯ちゃんのおかげだよ」


 「え、(なん)でね」


 「初めて来た時、家に(こも)って本ばかり見ていた、私の隣に辛抱(しんぼう)強く居てくれて。

 それからこの場所に連れてきて、ずっと一緒に居てくれたから、この風景が好きになったの」


 「・・・」


 「あの頃、私はイジメられていて、寂しい思いをしていたけど。

 そんな私に優しくしてくれて、とても嬉しかった」




 悠ちゃんと、最初に出会った頃。

僕はその時、悠ちゃんの事を女の子だと思っていたから。

大人しかった彼の側に居て、ずっと語り掛けていた。


 それから打ち解けるようになってから、この場所に連れていき。

気が済むまで一緒に居てあげていた。




 「ねえ、(そう)ちゃん。

 颯ちゃんは、あの頃から全然変わらないね」


 「変わらんかな?」


 「うん、あの時と同じように。

 女の子になった私を、優しく受け入れてくれたから」


 「・・・」




 嬉しそうに微笑む、彼女が(まぶ)しくて。

僕は照れ隠しに、目の前の風景を見てしまった。


 それと共に、悠ちゃんも前を向いて無言になる。


 それから午前中と言う事もあり、まださほど暑くは無かったので。

二人は、遠くに見える雲仙を見ながら、しばらく無言でなっていた。




 ・・・




 「・・・ねえ、颯ちゃん」


 「ん、どぎゃんしたと〔どうかしたの〕悠ちゃん?」




 どれくらい経ったのだろうか、不意に悠ちゃんが僕に話し掛ける。




 「私が、ここに来た理由って知ってる?」


 「()う〔良く〕は知らんけど」


 「知りたいと思わない?」


 「う〜ん、悠ちゃん個人の(こつ)やけん〔だから〕、知られとう〔知られたく〕無かなら知りたく無かよ」


 「クスクス、やっぱり颯ちゃんって優しいんだな・・・」




 僕の答えを聞いて、嬉しそうに彼女が笑う。




 「男だった時は、小さい頃から女々しいって、いつも言われてて。

 さっきも言った通り。

 私は男の子達から良くイジメられていて、友達が居なかったんだよね」




 それから一転して、とても悲しそうな表情で昔の話をし始めた。




 「どちらかと言うと、女の子といる方が楽しかったんだけど。

 それも、小学校の高学年になるに従い、段々態度が冷たくなってくる()が出てきて。

 特にクラスの、グループの中心にいる()に嫌われてからは、女子全体から馬鹿にされ出したの」




 それは何となく理解できる。

小さい頃、僕も仲が良かった女の子が何人かは居たけど。

小学校に入って高学年になるに従い、中には魅力やメリットの無い男に対して。

あからさまに、態度が冷たくなって行った()も居たから。


 それが女子の集団の、リーダー格に目を付けられたなら、女子全員でディスられるんだろうな。

仮にそうで無い()が居ても、同調圧力でそうしなければ、ならなくなるだろうし。

何にしろ、集団化した女子ほど怖い物は無いから。




 「それで、男らしくなろうと思ったけども。

 やはり乱暴な事とか、他人と競争したりするのが苦手で。

 でも、花を()でたり、動物を可愛がったり、心穏やかにする方が好きだから。

 男として生きるのが、段々苦しくなって行ったんだよね」




 ああっ、やっぱりそうだったのか。


 何て言うか、悠ちゃんと居ると、まるで女の子と居るように錯覚する事があったけど。

元々から、性同一性障害の可能性があったんだね。


 聞いた話だけど、TS病に掛かる()は。

元々から、性同一性障害の子が多いとも言われているから。

本来の性に戻す、天の配慮(はいりょ)だと言う声も聞こえる。




 「だけど颯ちゃんは、穏やかで大人しくて、乱暴じゃない上。

 私の事を馬鹿にしないで、いつも隣で笑って居てくれてた。

 だから、私、颯ちゃんの事が大好きだったんだよ」


 「ぼ、僕も、悠ちゃんと一緒ん〔に〕()ると。

 なんでか分からんとばってん〔分からないけど〕、楽しか〔楽しい〕けど穏やかな気分になるけんがら〔から〕。

 一緒ん〔に〕()ったとたい〔居たんだよ〕ね」


 「ふふふっ、颯ちゃん、ありがとう・・・」




 僕は彼女の”大好き”と言う言葉に、強く反応しながら。

慌てて、悠ちゃんとの話を続ける。



この回は重要だと思い、一番写りの良い写真を選んだのですが。

今頃は、陽の光が余りにも強すぎて、ナカナカ良いと思う写真が無いので。

仕方なく、5月ごろ撮った写真を使用しました。


しかし写真にすると、存在感が薄れるのはどうしてかな?


(ちな)みに、海岸の写真の奥に写っている島々は、天草諸島で。

雲仙の写真で、麓に広がる街は、島原の市街地です。


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この作品同様、TS娘と少年との恋物語の作品です。
・こんな僕でもいいの?
また、これらの作品も熊本を、舞台にした作品です。
・変わらない仲と変わった思い
・熊本のお姉ちゃん

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