表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/24

第五話 一緒の夕食



 僕はしばらくの間、(ゆう)ちゃんが泣き止むまで、彼女を軽く抱き締めていた。


 スッカリ変わってしまった悠ちゃんは、小さくて柔らかく甘い匂いのする。

どこをどう見ても、とても可愛い女の子になっていた。


 そんな悠ちゃんを抱いていたら、ある事に気付く。




 「(ムニュ)」


 「(ドキッ!)」




 僕の体に当たる、存在を主張する柔らかい物を。


 それは柔らかい彼女の体の中でも、特に柔らかく。

しかも、二つもあった。


 その正体に気付き、僕は更にドキドキしてしまうと同時に、葛藤(かっとう)し始める。


 恥ずかしさの余り、離れたいとする感情と。

その感触をもっと味わいたいと言う、不埒(ふらち)な感情とが同時に起きたのである。


 だって思春期真っ盛りの、高校生男子なんだし。

モテない僕が、(あこが)れの”あの物体”の感触を味わう事ができるのだから・・・。


 そんな不謹慎(ふきんしん)な事を考えながらも、僕は悠ちゃんを慰めていた。

 


 

 ・・・

 



 「二人共、ご飯が出来たけん、下りんね〜」


 「「は〜い〜」」




 悠ちゃんが泣き止んで、しばらくした頃。

母さんから、”夕飯が出来た”と一階から声がした。


 涙が乾いた所で、声がしたのが幸いである。


 まだ乾いてない状態で、下に行ったら。

恐らく、僕は相当怒られたであろう。


 何しろ、悠ちゃんは、母さんのお気に入りの様だから・・・。


 そういう訳で、柔らかな感触を名残惜しそうにしつつも、一旦(いったん)離れ。

二人して、夕食を食べに一階へと下りた。




 **********


 


 「じゃ〜ん〜」


 「わあっ〜♪」


 


 口から擬音を出しながら、母さんが料理をテーブルに、次々と並べて行く。


 その並んで行く料理を見た悠ちゃんが、喜びの声を上げた。


 タチウオの塩焼き、タイラギの貝柱の刺し身など。

色々と出る料理の中で、悠ちゃんが注目したのが。

クツゾコの煮付けである。




 「これ、これ、これが美味しいんですよね〜」




 そう言って、彼女が喜んだ。


 この辺りで言われる、クツゾコ、クッゾコあるいはクチゾコと言う魚は。

他の地域で言う、要するに舌平目(したびらめ)の事である。


 見た目どおりの靴底(くつぞこ)

あるいは平べったい体の下に口があって、基本、海底にへばりついているので、口底(くちぞこ)とも言われている。


 これは煮付けが美味しいし、後は煮付けに出来ないほど小さいやつを、フライにしても美味しく。

縁側部分がカリカリに揚がって、小骨まで食べる事ができ。

父さんが、酒のツマミに丁度いいと絶賛(ぜっさん)している位である。




 「ほら、遠慮せんで食べんね」


 「はい、ありがとうごさいます」




 父さんが、出されたオカズを悠ちゃんに(すす)める。




 「(パクっ)」


 「美味しい〜♪」


 「ふふふっ、ありがとね」




 悠ちゃんが煮付けを、ひと摘み箸で取り口に入れると、喜びの声を上げ。

それを聞いた母さんが、嬉しそうに笑う。




 「せやけど〔だけど〕、クチゾコも昔ん〔に〕比べたら小そうなったたい〔小さくなったなあ〕」


 「へ、そうなんですか」


 「何か、そぎゃんごたんね〔そうみたいだね〕」




 父さんが、出てきた魚の大きさを見てそう漏らすと。

悠ちゃんがそう言い。

僕も、一応同意した。




 「大きさもそぎゃんやけど〔そうだけど〕。

 最近は、タチウオやらタイラギやら、全般的に取れんごつのなっとるけん〔取れなくなってきたから〕。

 そん〔それ〕も、干拓が出来てからやね〔だね〕」


 「ああっ、それニュースで見たことがありますよ。

 諫早湾ですよね」




 父さんの言葉に、悠ちゃんが相槌(あいづち)を打つ。


 そう、確かに僕の小さい頃と比べても、全体的に魚が少なくなってきている気がする。

また、取れても昔よりは明らかに型が小さい。




 「まあ、もっとも、海苔(のり)ん〔の〕作業しよる時に使う、薬品の所為(せい)とか言う話もあるけん〔から〕。

 それだけじゃ無かかん〔無いかも〕、知れんとばってんね〔知れないけどね〕」




 続けて父さんがそう言った。


 その話は僕も聞いた事がある。


 知っての通り、有明海は海苔の一大産地だが。

なんでも海苔の処理時に使う薬品の中には、害のある物もあり。

それをずっと使っていたのも、理由の一つだと言うのを。


 ただ、それも可能性の一つであり。

干拓と薬品、その他の複合的な理由が入り混じったの原因では無かろうかと、言う感じにはなっている。




 「まあ、堅苦(かたくる)しか話はどぎゃん〔どう〕でも良かけん〔良いから〕。

 ほら、もっと食べんね〔食べなさい〕」


 「はい」




 少し硬くなった場を変えるかの様に、父さんが悠ちゃんに夕飯を(すす)める。


 その言葉に従い。

彼女も美味しそうに、目の前の海の幸を食べる。




 「あ、そう言えば、クツゾコは(そう)ちゃんも好きだったよね」


 「あっ、悠ちゃん、そぎゃんか〔そんな〕事まで覚えとると〔覚えてるの〕」


 「へぇ〜♪」




 悠ちゃんが、僕の好物を覚えていたことに感心していたが。

一方の母さんは、何か含んだ笑みを浮かべた。



今回、出た料理についての補足。


え?靴底の煮付け? 柳川の家庭料理 九州さかな日和。

https://www.asahi.com/articles/ASK6R4643K6RTIPE021.html


タイラギ

https://www.jf-sariake.or.jp/page/maeumimon_tairagi.html



クツゾコのフライは、煮付けに出来ない位、小さいのを揚げるのですが。

これがナカナカ絶品で、小さいからこそ縁側部分までカリカリに揚がって、小骨まで食べる事ができ。

ビールなんかに結構合います。


また、タイラギの貝柱は、ホタテと違い歯ごたえがあり。

刺し身だけで無く、九州の方では粕漬けなどにしたりしてます。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品同様、TS娘と少年との恋物語の作品です。
・こんな僕でもいいの?
また、これらの作品も熊本を、舞台にした作品です。
・変わらない仲と変わった思い
・熊本のお姉ちゃん

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ