第四話 ごめんね・・・
「入って、良かよ〜」
「おじゃましま〜す」
僕は、自分の部屋から見える雲仙が見たいと言う、悠ちゃんを部屋に入れる。
僕の部屋の窓は家の作りの関係で、なぜか西向きにあり。
夏などはとても暑くなりやすい。
その窓の南西方向に雲仙が見える。
「これなら見ゆっろ〜〔見えるでしょ〕」
「うわ〜、久しぶり〜」
僕は網戸を開け、日よけのすだれを上げると。
彼女に、遠くの風景を見せた。
部屋は、網戸で外の空気を入れ、すだれで陽を遮ったのもあり。
思ったほど焼けてない上、ちょうど外から、良い風が吹いているのもあり。
そこまで不快感はなかった。
「キレイだね・・・」
「ああ、キレイに見ゆるけん〔見えるから〕、明日も晴ればい」
まだ青い空に見える雲仙は。
わずかな雲が有るだけで、その他に大した雲も無かった。
「(ピトッ)」
「(はっ!)」
そうやって二人で山を見ていたら。
不意に、悠ちゃんが僕にくっ付く。
それはまるで、小さい頃から一緒に育った。
仲の良い姉弟のように。
「(ギュウッ)」
「ちょっ、ちょっと、悠ちゃん!
そぎゃん〔そんなに〕くっ付いて、汗臭そうなかと〔汗臭くないの〕?」
「えっ?」
僕が動揺したのも構わず。
そのうち、彼女が僕の胴体に腕を廻して抱き付いたので、そう言ったら。
「そうかぁ・・・、ごめんね・・・・」
「うん?」
「そうだよね。
元男から抱き付かれたら、気持ち悪いよね・・・」
「はぁ?」
僕が、柔らかい女の子の体に驚くと共に。
汗を掻いたから臭いだろうと思い、そう言ったら。
彼女が、盛大に誤解してしまった。
「ごめんね・・・、せっかく女の子になったから。
昔みたいにくっ付けると思ったんだけど、迷惑だったよね・・・」
「違う、違うって」
涙を流さんばかりに表情を崩す、悠ちゃんに。
僕は必死で、否定する。
「何で、悠ちゃんが気色悪かとね〔気持ち悪いの〕?」
「だって、元男だから・・・」
「今は女ん〔の〕子じゃろ〔でしょ〕。
それん〔に〕、今やけん言えるとばってん。
何か、昔から悠ちゃんの事ば〔を〕、男やと思えんかったと〔思えなかったんだよ〕」
「えっ?」
「悠ちゃんが気い〔を〕悪う〔悪く〕すると思も~て、言わんやった〔言わなかった〕けど。
悠ちゃんと一緒に居ると、何か女ん子と一緒に居るごたった〔居るみたいだった〕」
「ええっ!」
次に、悠ちゃんが盛大に驚いた。
「じゃ、じゃあ、さっきのは・・・」
「さっきのは、女ん子に抱き付かれた事が無かけんがら〔無かったから〕、驚いとったと〔驚いたんだ〕。
ずっと汗ば〔を〕掻きよったけん〔掻いていたから〕、臭かろ〔臭い〕かと思も~とったけんがらたい〔思っていたからだよ〕」
「それじゃあ、私の事を本当の女の子だと思ってくれているの?」
「どぎゃんしてね〔どうしてよ〕? どこば〔を〕どう見ても、女ん子としか見えんとばい」
「じゃあ、私の事気持ち悪く無いんだよね」
「何で、こぎゃん〔こんなに〕可愛か娘が気色悪かろうか〔気持ち悪いの〕?」
僕がそう言うと、悠ちゃんが僕の真正面から抱き付いて来た。
「・・・ばってん〔だけど〕悠ちゃん、そぎゃん〔そんなに〕くっ付いて、汗臭そうなかとね〔汗臭くないの〕?」
「ううん、颯ちゃんが言うほど臭くないし。
それに私、颯ちゃんの匂い、結構好きだな・・・」
「・・・」
僕は、彼女の大胆な言葉に無言になる。
そう、悠ちゃんは普段大人しいけど、時々思い掛けない行動や発言をしたりする。
若干、天然の気がある子だった。
だから、昔はそれで色々驚かされた事があった。
しかも、悠ちゃんが女性化した所為で、それに拍車が掛かった気がする。
「グスッ・・・」
「(ポン・・・、ポン・・・)」
僕に抱き付いた悠ちゃんは、顔を僕の胸に埋め、鼻をすする。
そんな彼女を僕は軽く抱きしめながら、背中を優しく叩く。
頭ひとつ分身長差があるので、完全に僕の胸に顔を埋める形になっている。
悠ちゃんの体は柔らかくて気持ち良く。
抱き締めていると次第に、甘い匂いがしてきた。
彼女の体は細く、僕の腕の中に完全に収まっている。
昔はほとんど身長も変わらなったのに・・・。
僕は悠ちゃんとの、男女の体格差と感触の違いに、内心ビックリしていた。
そんな悠ちゃんにドギマギしながら、僕は彼女を慰めていたのであった。
今回貼った、雲仙の写真は。
実は、午前の写真で、作中での午後ではありません。
何回も挑戦したのですが、午後になると太陽の方向上、逆光になるうえ。
今の時期(7月)は、光が強過ぎてキレイに取れません。
その為、仕方なく、何とかキレイに取れた午前の写真を使用しました。