最終話 波乱の日常の始まり
今回で、最後になります。
あの悠ちゃんと恋人同士になった日から、時は流れ。
夏休みが終わり、学校の始業式の日になった。
「(ガヤガヤガヤ・・・)」
体育館での、お偉いさんの長ったらしい話の後。
教室へと戻った僕のクラスメートが、首を長くして教師が来るのを待っていた。
それも特に男子達に、前もって、二学期が始まって転入するのが。
とても可愛い女の子であると言う事が、流れていたためである。
だから、教師がその女の子を連れてくるのを。
今か、今かと、待ち構えていたのだ。
「な、な、な、颯太。
悠ちゃんって、可愛かとやろ〔可愛いんだろ〕」
「かあ〜、俺にも紹介してくれんか〔くれよ〕」
しかも、さっきから野郎どもがシツコク、僕に纏わり付いてくる。
悠ちゃんの事を聞くためである。
どうやら、夏休み中にショッピングモールで出会った。
あの、二人組が広めた様だ。
女の子、しかも可愛い娘に関する、野郎どもの情報網の速さには。
唖然としてしまった。
因みに悠ちゃんは、朝一緒に学校に来たが。
ホームルームで紹介するために、始業式は職員室で待機していた。
これは、事前に彼女から聞いていた事であり。
しかも教室が偶然にも、僕と同じ教室になってのもその時聞いた。
だが、その事もどういう訳か、いつの間にか男子の間に伝わっていて。
その結果、僕の教室が騒がしかったのだ。
「く〜、あぎゃん〔あんなに〕可愛か〔可愛い〕娘は、初めてばい〔だって〕」
「えっ! ほんなこつか〔本当かよ〕!」
中には、登校途中の悠ちゃんを見た人間が、そう言ったのを聞いて。
反応していたのも居た。
**********
「(ガラッ)」
「は〜い〜、大人しく着席しろよ〜」
教室が騒がしい中、突然ドアが開き。
やる気なさそうな声を出して、担任が入って来る。
担任は、三十代初めの独身で、七三分けの神経質そうな顔をしていた。
夏休みの間、早く帰れてノンビリ出来てたのが、二学期に入り。
これからは夜遅くまで、持ち帰りで仕事をしないと行けなくなるので。
多分それで、やる気が無くなっているのだと思われる。
ドアの向こうには人影があり、それが多分、悠ちゃんなんだろう。
教室の男子連中もその影に気付き、殆どが教師の方を向いてなかった。
「はあ〜、分かったたい〔よ〕。
俺ん〔の〕話よりか、転入生ん方が良かとか〜〔良いのかよ〕・・・。
じゃあ転入生、入ってくれんか〔入ってくれないか〕」
「失礼しま〜す」
「「「「「・・・」」」」」
自分が無視された事に肩を落とした担任が、悠ちゃんに教室に入るよう促し。
その声を聞き、彼女が入って来た。
入ってきた悠ちゃんは、何の変哲も無い、ごく標準的な半袖の夏用の白セーラー服を着ていて。
スカート丈は、膝上数cmのこちらでは短い部類に入る物である。
それをスタイルが良く、垢抜けた雰囲気の彼女が着ると。
取り立てて、特徴がある訳でない制服が、何だか上品な物に見えてしまう。
悠ちゃんが入ると、一瞬、教室が静まり返り。
「「「「「おおおっーーーー!」」」」」
遅れて、歓声が爆発した。
野郎どもの野太い声が、教室中に響く。
「こら! こら! こら!
静かにせん〔しない〕と、他の先生に怒らるろう〔怒られるだろう〕が〜!」
余りの声の太さに、担任が出席簿を叩いて、皆を静かにさせる。
「じゃあ、黒板に名前ば〔を〕書いて、自己紹介ばしてくれん〔くれない〕か」
「分かりました」
「(カツ・・・、カツカツ・・・、カツ・・・)」
教師の指示に、悠ちゃんがチョークをを持って。
自分の名前を黒板に書いた。
「大野 悠です、よろしくお願いします。
東京の方から来ました。
こちらの方はイトコが居て、良く来ていたのである程度知っていますが。
細かい所までは分からないので、良ければ教えて下さい」
「「「「「うぉ〜、悠ちゃん〜!」」」」」
振り返り、自己紹介をした後、一礼すると。
教室の野郎どもが、野太い声を上げ。
それを、女子達が呆れた顔で見ていた。
「じゃあ、何か聞きたか〔聞きたい〕事は無かか〔無いか〕、聞いてみんか〔聞いてみろ〕」
「ハイハイ、ハ〜イ〜!」
続いて担任が、質問を受け付けると。
一人の男子が手を上げた。
「悠ちゃ〜ん、スリーサイズはどん位ね〔どの位なの〕〜」
「うふふっ、それは秘密だよ♡」
そして、お約束のセクハラな質問をすると、当然、ソイツは女子からの白い視線を浴びてしまい。
一方の、質問された彼女の方は、可愛くセクハラな質問を躱した。
それは、以前の悠ちゃんでは考えられない躱し方で。
何と言うか、僕に告白してからある意味、自分に対し自信が出てきたみたいである。
「じゃあ、次は誰か無かか〔無いのか〕〜」
「はいっ!」
担任が次の質問を促したら、別の男子が手を上げた。
「じゃあ、悠ちゃん。
悠ちゃんには、恋人は居らんとね〔居ないの〕?」
これまたテンプレだが、今の僕にはドキリとする質問であった。
「はい、居ます」
「「「「「えええーーーーーっ!」」」」」
「「「「「きゃーーーーーーっ♡」」」」」
彼女が迷いの無い答えを言うと、男子からは悲鳴が、女子からは黄色い声が上がった。
「ねっ♡」
「「「「「(ギン!)」」」」」
それの声にも構わず、悠ちゃんが、僕の方を見ながら小さく手を振ると。
教室中の男子の、殺気の篭った視線が僕に集中した。
「なあ、颯太くん。
後で、タップリと話ば〔を〕聞こうじゃなかかね〔ないかあ〕〜」
すると突然、隣の席のヤツが。
ハイライトの消えた目と、三日月みたいに釣り上がった口で。
僕を見ながら、そう言ってきた。
「ああ、そうたい(そうだ)な」
「色々と、聞きたか〔聞きたい〕事が有るけん〔有るから〕ね〜」
反対側や、後ろの席のヤツも。
指を鳴らして、邪悪な笑みを浮かべ僕にそう言った。
「はははは・・・」
その周囲の反応に、僕はただ、乾いた笑いだけしか出て来ない。
こうして僕は、悠ちゃんとの甘い生活と同時に。
学校での、波乱の日常が始まった事を自覚したのであった。
思い出の海と山と彼女 終わり
これで、"思い出の海と山と彼女"は終了しました。
このような作品でも、最後までご覧になったり。
あるいはブックマ、評価点を下さった方々には、感謝しております。
次回もどうなるかは分かりませんが。
機会がありましたら、どうか、またお読み下さい。




