第二話 落ち付けない車中
動揺した心中を誤魔化すかの様にして。
急いで、トランクを車の後部に載せ。
それから4ドアの後ろを開けて、悠ちゃんを乗せた。
暑い外気に晒され、汗が流れていた所に入る。
冷えた車内は、とても気持ち良い。
「あら〜、悠ちゃん。
こぎゃん〔こんなに〕、可愛ゆうなって〜」
「ああっ、話には聞いとったとばってん〔聞いていたけど〕。
こぎゃんとはねぇ・・・」
乗った彼女を見た母さんと父さんが、それぞれそう言う。
「叔父さん、叔母さん。
どうも、お世話になります」
「ああっ、もお、昔から、娘が欲しか、欲しかと思おとったら〔思ってたら〕。
こぎゃん可愛か娘が来てくれて、嬉しかあ〜」
「ああ・・・。
・・・まあ、自分の家や〔だ〕と思ってユックリせんね〔しなさい〕」
車に乗った悠ちゃんが、頭を下げながら挨拶すると。
母さんがテンションが上げ、それを見た父さんが若干引きながらもそう返す。
・・・
「(シャーーッ)」
僕達四人を乗せて、車が走り始めた。
基本この辺りは、車がないと不便な車社会である。
熊本市内から福岡県に入るまでの間は、大体こんな感じだ。
駅近辺や幹線道路沿い、ショッピングモール周辺などで無い限り。
基本的には、自転車くらいでは生活するのに無理がある。
ウチは、何とか無理をすれば自転車を使えるが。
やはり大量の物を買うのに必要なので、父さん用と母さん用の二台、車がある。
今日はその内、父さんの普通車の乗ってやって来た。
「ねえ、悠ちゃん。
誰か、良か人でも居らんとね〔居ないの〕〜」
「・・・はははっ、居ないですよ・・・」
「こらっ、母さん。
悠ちゃんは、女ん〔の〕子になって間が無かし、ゴタゴタしとったけん〔してたから〕。
そぎゃんかと〔そんなの〕居る訳なかろうもん〔ないだろうに〕」
「あっ、ゴメンゴメン。
悠ちゃんば見とる〔を見ている〕と、誰か居るごたるぐらい〔居るみたいに〕キレイかけんがら〔だから〕」
その普通車の中で。
母さんが高いテンションで、悠ちゃんに色々と尋ねていた。
ちなみに父さんは、そんな母さんをゲンナリしながら運転している。
「(可愛いなぁ・・・)」
そんな僕はと言うと、隣に座る悠ちゃんに見入っていた。
彼女は、この辺りでは見掛けないような美人で。
雑誌などのグラビアに居ても、おかしくない様な感じである。
しかも、ただ美人と言うだけで無く。
周囲の空気も学校の女子では感じられない、垢抜けた雰囲気を醸し出していた。
スタイルもスラッとしているが、出ている所と引っ込んでいる所も、それなりに有り。
それも、学校の女子とは違っていた。
シミ一つも無い、真っ白いスラリとした脚が、丈の短いワンピースから伸び。
同じく細くて白い腕が、母さんの言葉に忙しなく動いていた。
確かに、悠ちゃんは元男だったけど。
僕は、別にそれに対して嫌悪感を持っている訳ではない。
昔の悠ちゃんも、外見が男と言うよりも中性的な感じで。
性格も穏やかで大人しいので、取り立てて違和感を感じなかった。
と言うよりも、むしろ女の子としての彼女の姿の方が。
母さんの言う通り、なぜだか寧ろシックリとしてしまい。
漫画などである、男だと思っていた幼馴染が実は女の子だったと言うネタが、不意に頭を過ぎってしまった。
「叔母さ〜ん〜。
そんなんじゃないんですよ〜」
母さんの言葉に小さい手を左右に振ったり、目を泳がせる彼女。
僕は、そんな悠ちゃんに見入ってた。
「ん? 颯ちゃん、どうしたの」
「えっ?」
「さっきから私の事、ずっと見ていて・・・」
「ああっ・・・えっと・・・」
すると突然。
彼女が自分をずっと見ていた僕を、不思議そうにして尋ねる。
不意を突かれた事もあり、僕はシドロモドロになった。
「ふふふっ、悠ちゃん。
こん〔この〕子は、悠ちゃんに見惚れとったとばい〔見惚れていたんだよ〕」
「颯ちゃん・・・」
「ちょ、母さん!」
「うふふっ、こぎゃん可愛か娘やけん〔だから〕、しょうが無かと〔無いよ〕」
「叔母さん・・・」
そんな僕を見て母さんがからかうようにして言ってきた。
母さんの言葉を聞いて、僕は思わず声を上げ。
悠ちゃんは顔を赤くしてしまった。
去年、親戚の葬式で東京の方に住む、親戚の高校生になる女の子に会った事があるのですが。
可愛いくてスタイルが良いのはモチロン、垢抜けて洗練された雰囲気など。
余りの違いにビックリした覚えがあります。
後、熊本市内は市電があったり、バスが結構あったり。
福岡県に入ると西鉄があるので、ソコソコ便利なのですが。
その間がねえ・・・。