第十八話 もっと近くで
「ねえ・・・、颯ちゃん。
後どれくらい掛かるの?」
「後、もう少しだよ」
今、二人は、自転車である場所へと向かっていた。
自転車でしばらく走った所にある、フェリー乗り場近くの堤防である。
その堤防は海に結構突き出て、より近くで雲仙を見ること出来るからだ。
その話を、悠ちゃんにしたら、ぜひ見たいと言う事で。
まだ暑くなりきれない午前中に、二人で、その堤防へと向かっていた。
「はあ・・・、もう少しか・・・」
体力が余り無い、悠ちゃんが少し疲れた様である。
帰りは、途中休憩を入れながらユックリ帰ろうかな。
そう思いながら、自転車を漕いでいた。
・・・
それから、しばらくして目的地に着く。
「はい、手ば〔を〕出して」
「ありがとう、颯ちゃん」
目的の堤防へ着くと、1.5mの高さの所を歩かないと行けないので。
堤防の陸地の部分に掛けてある、ハシゴを登る為。
まず先に僕が登り、次に悠ちゃんが登った。
なぜ、僕が先に登ったかと言えば。
今日の彼女の服装が、白いミニ丈のワンピースなので。
彼女が先に登ると、中が丸見えになるからである。
しかも履物がサンダルだったので、少し上りずらそうにしていたのもあり。
僕が手を出して、悠ちゃんを引き上げた。
「じゃあ、行こうか」
「うん♪」
僕は引き上げてから、彼女にそう言うと。
悠ちゃんが、機嫌良さそうに返事をする。
それから二人は、堤防をあるいて行く。
「今日は良い天気で、向こうが良く見えるね〜」
「そうだね」
悠ちゃんが空を見ながらそう言い。
僕も相槌を打つ。
彼女の言う通り、今日は良い天気で。
対岸の長崎側も良く見える。
二人並んで歩いていると。
いつの間にか、どちらともなく手を握っていた。
すると僕の右手と、悠ちゃんの左手が繋がった状態になる。
それも、手を合わせて相手の指の間に指を通す。
俗に言う、恋人握りと言う奴で。
前は、とても恥ずかしかったけど。
昔はいつも手を繋いで歩いていたし、最近、手を繋ぐ時はいつもこれなので。
いつの間にか、それが当たり前になっていた。
もちろん、人前ではこんな事はしないが。
そうやって、右手を繋いで歩いている内に、堤防の先端に着いた。
「うわ〜!」
「どぎゃんね〔どうかな〕」
「うん、いつもよりも大きいね♪」
堤防の先端から見る、大きな雲仙の姿を見て。
悠ちゃんが喜ぶ。
「今日は天気も良かけん、天草まで見ゆる〔見える〕よ」
「ホントだ〜」
視界も良いから、雲仙の左手にある天草の島々まで良く見える。
「颯ちゃん、ここに来て良かった〜♪」
いつもと違う風景に、悠ちゃんもご満悦だ。
こうして、彼女が満足するまで、この風景を堪能した。
・・・
「颯ちゃんの言う通りだったね♡」
期待以上の風景に、ご機嫌の悠ちゃんと、もと来た道を帰る。
来る時同様、彼女が僕の手を握ろうとするが。
「あっ、チョット待って」
「?」
握ろうとした悠ちゃんをを制すると、彼女が不審な顔をした。
「これなら、陽が当たらんろ〜〔当たらないでしょ〕」
「あっ・・・」
僕が彼女の右側に廻ると、丁度、僕が南側になるので。
悠ちゃんが僕の影に隠れる形になる。
来る時は、自然に僕の影だったので、特に何もしなかったのだが。
帰りにそのままだと、彼女にモロ陽が当たってしまう。
モチロン、日焼け止めを付けているだろうし。
こちらまで来るまでに陽を浴びているが、出来るだけ陽を浴びない方が良いだろうし。
また海の上だから、海からの照り返しがあるので、陸の上よりも紫外線が多いと考えないとイケナイ。
そう思い、僕が悠ちゃんが影になるよう移動したのだ。
「さあ、行こう」
「(ギュッ!)」
「(ふにゅっ)」
「えっ!」
僕は、悠ちゃんにそう言って、手を握ろうとしたが。
しかし、彼女は手を握らず、僕の肘に腕を絡ませた。
しかも、僕の肘にとても柔らかい物が当たっている。
「・・・颯ちゃん、ありがとう・・・」
僕を熱を帯びた視線で見詰めながら、悠ちゃんがそう言った。
「う、うん・・・」
その視線が何だか恥ずかしくなり、僕は頷くと前を向いてしまう。
それから二人は歩き出すが。
悠ちゃんは、僕の肘に腕を絡ませたまま、僕の肩に頭を預けた。
そうすると、より密着する形になり、肘の柔らかい感触がますます強くなる。
この柔らかさにドキドキしながら。
僕は悠ちゃんと、もと来た道を戻っていったのであった。
地元の方が見たら、ツッコミどころのある内容ですが。
そこはフィクションだと想って、見逃してくださいm(__)m
因みに、この写真も今頃(8月)ではなく、5月頃の写真です。
初め、ワザワザ該当の場所へ撮影に行こうと考えましたが。
その場所が、現在住んでいる所から少し時間が掛かる所にあり。
またこの猛暑に時間を掛けて、そんな暑い場所に行くのもキツイので、断念しました。