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第十五話 手を繋いで

今回、津波の話が出るので。

不快に思う方は注意してください。



 (ゆう)ちゃんもようやく、ここでの生活に慣れた頃。




 「ねえ、(そう)ちゃん。

 一緒に海に行かない?」


 「別に用事も無かけん、()かよ」




 悠ちゃんが、陽が登り切ってない午前中に、そう言って僕を誘ってきた。  

その日、僕は取り立てて予定もないので、彼女の誘いを了承する。




 「お待たせ〜、じゃあ行こう」


 「うん」




 それから、彼女の準備が済んだ所で。

二人は、一緒に海へと向かった。




 ・・・




  挿絵(By みてみん)


 ここに来てから悠ちゃんは、僕の都合が付く時は一緒に。

僕に用事がある時は、一人で時折、海へと散歩へ行っている。


 この日も、いつもの様に。

二人並んで、海への道と歩いていたら。




 「・・・ねえ、颯ちゃん」


 「ん、どげん〔どう〕かしたと〔の〕?」


 「・・・手、繋いでも良い?」


 「えっ?」


 「昔みたいに、一緒に手を繋ぎたくなったの・・・」




 少し遠慮がちながらも、悠ちゃんがそう言ってきた。




 「うん、良かよ」


 「ホント」




 少し恥ずかしかったけど、周りに誰も居るわけでも無いので。

取り()えず、彼女の言う通りにする。


 しかし、抱き付くのは平気なのに、手を繋ぐのは恥ずかしがるとか。

悠ちゃんの価値基準は、よく分からないなあ。




 「(ギュッ)」


 「(えっ)」




 手を握ると言うから、てっきり昔みたいに、どちらかがどちらかの手を握ると言う物を想像していたら。

悠ちゃんが手を伸ばし握ったのは、手の平を合わせ、相手の指と指の間に

指を通す。

俗に言う、恋人握りと言うやつだった。


 悠ちゃんの手は、当然、僕よりも小さくて柔らかく。

また、指も折れそうなほど細い。


 しかし、恋人握りとは、これじゃあ彼女が恥ずかしがる訳だ。




 「・・・颯ちゃん・・・」


 「(ドキッ!)」




 手を握ると、悠ちゃんが僕を見上げる様にして見ている。


 その瞳は(うる)んでいて、しかも何か探る様にして僕を見ている。




 「(ニッコリ)」


 「(サッ)」




 そんな悠ちゃんに、ドキリとした僕は。

思わず何も言えなくなったので、それを誤魔化す様に微笑むと。

悠ちゃんは、顔を赤くして(うつむ)いた。


 恥ずかしがる彼女を見た、こっちも恥ずかしくなってしまい。

今度は、それを誤魔化す為に前を向いてしまう。


 悠ちゃんの手は、小さくて柔らかいが。

どちらがかいたのか分からないが、汗で湿っていた。




 **********




 手を繋ぎながら歩いていたら、海に着いた。


 その頃には、お互い、緊張の方も何とか(ほぐ)れた様だ。


  挿絵(By みてみん)




 「今日、雲仙は見えないね」


 「雲が掛かっとるけんね」




 せっかく着いた海だが、一応、晴れて天気が良いのに。

この日は、雲が掛かり対岸の雲仙が見えなかった。




 「せっかく来たけん、どっかその辺に座ろうか」


 「うん♪」




 せっかく海に来たし、気持ちの良い風も吹いていたし。

午前中の、まだ気温が高くない時間帯なのもあり。

堤防から波打ち際へと降りる、階段に二人並んで腰掛ける。




 「颯ちゃん、私、昔から時々思うんだけど。

 この辺り、津波が来た時どうなるんだろうって」


 「ああ、島原大変肥後迷惑ん〔の〕時。

 この辺りも、津波で被害が出たらしかて〔出たらしいって〕」


 「・・・やっぱり」




 二人で海を眺めていたら、突然、悠ちゃんがそんな事を言うので。

僕も、前に聞いた事を話した。


 島原大変肥後迷惑。

雲仙の山の一部が崩れて、島原市内を飲み込むだけでなく。

それの土砂が多量に海に流れ込み、それによって生じた津波が、対岸の肥後を襲った災害だ。


 それも酷かったのは、今で言う熊本市内付近の海岸から天草に掛けての地域だが。

この辺りにも津波が襲って、被害が出たらしい。




 「じゃあ、あの地震の時はどうだったの・・・」


 「幸いにして、津波は起きんかったけど。

 津波警報が出たけん〔から〕、急いで山ん〔の〕方さん〔へ〕逃げたとたい〔逃げたよ〕」




 熊本地震の時は、津波こそ起きなったが。

東日本大震災や、島原大変肥後迷惑の前例もあり。

警報が出た時、家を含めた近所は、急いで東の山側の方へと逃げた。




 「・・・そうなの。

 私、丁度その頃、入院しててそれ所じゃなったから分からなくって。

 地震の事を知ったのは、退院する前くらいだった」


 「そうだったの?」


 「うん、地震の事を知った時。

 颯ちゃんが心配になって、私思わず、取り乱したしまって。

 それから、颯ちゃんが無事なのを知ると、私涙が出ちゃったの・・・」


 「・・・」


 「男だった時は、心配になったけど、涙を流すまでは無かったと思うけど。

 女の子になってからは、何故(なぜ)だか涙もろくなってしまって・・・」




 悠ちゃんが涙を流しながら、そう言った。


 女の子に変わってから、僕も思うのだが。

悠ちゃんは、結構涙もろいんだなって。




 「ごめんね、いま涙を止めるから・・・」


 「(グイッ)」




 イキナリ僕は、隣りに居る悠ちゃんの肩を抱き。

それから自分の方に引き寄せた。




 「良かよ、泣いても。

 それん〔に〕、僕ん(こつ)ば〔を〕心配してくれて、ありがとう」


 「・・・颯ちゃん・・・」




 僕は、悠ちゃんの顔を自分の胸に押し当てながら、その柔らかい髪を撫でる。


 すると、彼女も僕に抱き付き。

自分からも顔を僕の胸に埋めながら、静かに泣き始めた。


 それから僕は、対岸がモヤに掛かった海を見つつ。

僕の胸で静かに泣いている、悠ちゃんの頭を撫でて慰めていたのであった。



・島原大変肥後迷惑(参考までに)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B3%B6%E5%8E%9F%E5%A4%A7%E5%A4%89%E8%82%A5%E5%BE%8C%E8%BF%B7%E6%83%91

https://kusennjyu.exblog.jp/15353555/



熊本地震当時、私(作者)は、海岸沿いより少し内陸に入った所に、住んでいたのですが。


津波警報が発令した時、海岸沿いの人たちが、近くの小高い山(標高30m程度)に逃げ込んだみたいで。

山の登山道沿いから山頂まで、車のヘッドライトが連なっていたのが見えていました。


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この作品同様、TS娘と少年との恋物語の作品です。
・こんな僕でもいいの?
また、これらの作品も熊本を、舞台にした作品です。
・変わらない仲と変わった思い
・熊本のお姉ちゃん

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