第十四話 大きくなったね
暑っ苦しい日々が続く、真夏のとある夜の事。
「(コンコンコン)」
「入って良かよ〜」
外から帰った僕が、ベッドに座り本を読みながら、火照った体を冷やしていたら。
急に、ドアをノックする音が聞こえた。
あの控えめなノックは、多分、悠ちゃんだろう。
そう思うと、ドアの向こうに返事を返した。
「(カチャッ)」
「颯ちゃん、今、大丈夫?」
「特に、本ば〔を〕読んどった〔読んでいた〕だけやけん〔だから〕。
悠ちゃん、どぎゃん〔どう〕かしたと〔の〕?」
「ううん、特に無いけど。
颯ちゃん所に来たかったから」
悠ちゃんがそう言うと。
急に、自分を抱き締めるように様にし出した。
「颯ちゃん、この部屋、少し冷たくない?」
「ん〜、そぎゃんかね〔そうかな〕〜。
僕には丁度、良かと〔良いん〕ばってんがら〔だけどね〕」
そう言う悠ちゃんは。
ピンクのタンクトップに、デニムのホットパンツと言う服装だったので。
寒そうに、露出した二の腕を擦っていた。
火照った体を冷やす為に、冷房を強くしていたので。
彼女が、寒そうにしている。
僕が、外から帰って間がない事もあるが。
悠ちゃんが寒いのは恐らく筋肉量による、男女の体温の違いも原因だろう。
「そうだ!」
「んっ?」
僕がそんな事を思っていたら。
突然、悠ちゃんが、何か思い付いたみたいな表情をし。
そんな彼女に、僕が何故か嫌な予感がした。
「颯ちゃん、チョットごめんね〜」
「(ギシギシギシ・・・)」
「?」
僕が悠ちゃんの事を不審に思っていたら。
いつの間にか彼女がベッドに登り、僕の後ろに廻っていた。
「えいっ」
「ギュッ!」
「!」
僕の後ろに廻っていたかと思えば。
イキナリ、僕の背中に抱き付く。
「(ぷにっ)」
背中から、悠ちゃんの温かい体温を感じると同時に。
柔らかい彼女の中でも、飛びっきり柔らかい物体が背中に当たる。
「えへへっ〜♪」
「(なでなでなで・・・)」
「暖か〜いなぁ♡」
背後を見ると、悠ちゃんが満足そうな表情を浮かべながら。
前に廻した手で、僕の体の前面を撫でる。
「(ゾクゾクゾク〜)」
悠ちゃんの小さくて柔らかい手、細くてしなやかな指が。
僕の胸板や腹を滑る度に、擽ったいような、気持ち良い様な変な感覚が背中に走る。
僕は今、ハーフパンツにTシャツを着ているだけなので。
薄い布地を通して、彼女の手の感触が感じ易くなっていた。
「ちょっ、ちょっと、悠ちゃん。
何〔何を〕、抱き付きよると〔付いているの〕」
「ん、肌寒いから。
颯ちゃんで温まろうと思ったからよ♡」
僕の質問に、さも当たり前のように答える悠ちゃん。
「そんな、小学生ん〔の〕頃やったら〔だったら〕イザ知らず。
男でん〔男でも〕、さすがに高校生ん〔に〕なったら、そぎゃんか〔そんな〕事はせんよ」
「でも私、今は女の子だもん〜♪」
「やったら、女ん子なら尚の事。
そぎゃんか〔そう言う〕風に男に抱き付いとったら〔てたら〕、駄目たい〔だよ〕〜!」
「誰でもする訳じゃないもん、颯ちゃんだけだから♪」
僕の言うことに、イチイチ反発する悠ちゃん。
「だけん〔だから〕、何で僕にそぎゃん抱き付くとね?」
「ん、昔は、颯ちゃんがとても可愛かったから。
でも今は、颯ちゃんは大きいけど、とても優しく私を包み込んでくれる。
何て言うか、まるで遊園地の着ぐるみみたいだから、思わずハグして甘えたくなるのよ♡」
「はあ〜・・・」
思いも寄らない理由に、僕は思わず脱力してしまう。
まさか、遊園地の着ぐるみ扱いだったとは・・・。
「颯ちゃんは大きくなったね・・・。
私が女性化してのを差し引いても、とても大きくなった。
最初に私が飛び付いた時、しっかり受け止めてくれてし。
二回も泣いた時は、包み込んで慰めてくれた」
「・・・」
「ホント、颯ちゃん、暖かいよぉ・・・」
ウットリする様な声で。
そう呟きながら、僕の背中に頬ずりする悠ちゃん。
同時に、前に廻した手で。
僕の胸や腹を、感触を確かめるように撫で廻す。
「(ドク、ドク、ドク・・・)」
その擽ったい様な、気持ち良いような変な手の感触と。
背中に当たる柔らかい感触により、胸の鼓動が妙に高まる。
こうして十分ほど、僕は彼女に抱き付かれながら。
体を撫で廻されたのであった。