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第十三話 颯ちゃんとの思い出

今回まで、悠視点の話です。




 私は物心ついてから、余り良い思い出は無いけれど。

とても良かった、数少ない思い出は、(そう)ちゃんとの思い出である。


 初めて颯ちゃんと出会ったのは、私が小学校一年生の頃だった。




 **********




 「「こんにちは(そう)ちゃん」」


 「伯父さん、伯母さん、こんにちは」



 あれは両親と共に、早めの帰省で父方の親戚の家に向かった時の事。


 そこで、叔父夫婦と駅で落ち合い。

叔父さんの案内で家に着くと、そこには一人の男の子が居た。


 話に聞いていた、従弟(いとこ)にあたる颯太(そうた)と言う子だ。


 何でも彼は一つ歳下の、まだ幼稚園児らしい。


 颯ちゃんは、少しタレ目の優しそうな感じのする子で。

雰囲気も、私がいつも見る子達の様な、乱暴そうな雰囲気では無かった。


 颯ちゃんは、私の両親に元気のある返事を返した。


 私は、その頃、いつも他の男の子にイジメられていたので。

とっさに、お母さんの後ろに隠れてしまう。




 「ほらっ、(ゆう)、挨拶は」


 「・・・」




 お母さんが、挨拶を言うように言うけども。

私は怖くて、声が出なかった。


 しかし、そんな私に対して、颯ちゃんは何も言わず。

ただ、ニコニコしているだけだった。


 これが、颯ちゃんとの初めての出会いである。




 **********




 「悠ちゃん、隣に()っても()か?」


 「(コクリ)」



 颯ちゃんが私の隣に座り、一緒に本を読んでみたそうなので。

私は(うなず)き、了承する。


 その頃、私はいつも一人で本を読んでいたので。

親戚の家に行っても、いつもの様に一人で本を読んでいたのだが。


 しかし、颯ちゃんは、少しづつ私に近づき。

いつの間にか、私の隣に居たのである。


 それはまるで、知らない犬や猫に近づく様な感じで、私に近付いていた。


 それに、颯ちゃん達が話す九州弁は、初め聞いた時チョット怖かったけど。

颯ちゃんは、まるで語り掛ける様に話すので、次第に怖くなっていった。




 「ねえ、悠ちゃん、これどぎゃんか〔どう言う〕意味ね〔なの〕?」


 「・・・えっと、これはね・・・」




 隣に居ても平気だと分かった颯ちゃんは。

次に、私が読んでいる本の分からない所を聞いてきた。


 決して、私が嫌がることはしないけど。

少しづつ近付いて行く、颯ちゃん。


 結局、私は、彼と打ち解けるのに、さほど時間が掛からなかった。




 **********




 「颯ちゃん!」


 「もお、くすぐったか〜」




 慣れると、颯ちゃんはとても可愛いので。

可愛い物が好きな私は、暑いのも構わずに彼に抱き付く。


 でも颯ちゃんも、くすぐったそうにするも。

特に私を嫌がる素振りもなかった。




 「悠ちゃん、ここ涼しかけん、ここで寝よか?」


 「うん」




 昼寝の時も、颯ちゃんと一緒に寝ていた。

まるで、生まれてから一緒の兄弟の様に。


 こういう風に、二人はまるで子犬が(じゃ)れたり。

一緒に寝たりと言った風な感じで、過ごした。




 **********




 そうやって颯ちゃんと、一緒に過ごしていたある日の事。


  挿絵(By みてみん)




 「悠ちゃん、こっちこっち〜」


 「颯ちゃん、まってぇ〜」



 突然、一緒に海に行こうと言われ。

彼に手を掴まれて、引っ張られていた。


 そうやって、しばらく引っ張られていたら。




 「うわっ〜!」


 「どぎゃんね〔どお〕!」




 海に着くと、目の前には大きな空、広い海があり。

海の対岸には雄大な山々が見える。


  挿絵(By みてみん)




 「うん、すごいね、ボク初めてみるよ」




 雲が多いので、山に薄くモヤが掛かっていたけど。

それでも、その存在感に目を奪われる。


 また、目の前の海も、潮が引いて。

広い干潟が、遠くまで続いていた。




 「こっ〔これ〕が、雲仙と有明海たい〔だよ〕」




 颯ちゃんが得意そうに、そう言った。


 へえ〜、これが有明海かあ。

図鑑でみたけど、確か日本一の干満差の海だっけ。

でも、実際に見ると、すごいなぁ〜。


 それにあれが雲仙岳か。

これも確か、二十数年位前に噴火したんだよね。




 「本で見たことがあるけど、本物は(すご)いね」


 「凄かろ〔凄いでしょ〕」




 それから二人は、堤防の上に座り。

色んな話をした。


 普段、無口な私は、その時は普段から考えられないほど(しゃべ)ってしまい。

そんな私を颯ちゃんは、相槌(あいづち)を打ちつつ黙って聞いてくれた。


 そうやって、気持ちの良い潮風が来るのもあり。

私は心地良さを感じながら、目の前の風景を二人で眺め一緒に居たのであった。




 **********




 そして、とうとう帰る当日。




 「(グス、グス・・・)」


 「悠ちゃん、泣かんで・・・」




 帰るのか惜しかった私は、駅の駐車場で泣き出した。


 今まで、他の子と触れ合った事が無かったのに。

ここに来て、颯ちゃんとずっと一緒に居たからだ。


 帰ってから、あの味気ない日常に戻るのが嫌だし。

彼との、触れ合いが惜しかったのである。


 でも、そんな私を優しい颯ちゃんは、抱き締めて慰めてくれた。


 だから、私も颯ちゃんに抱き付いていた。




 「ほらっ早く行かないと、電車に間に合わないよ」


 「(グスッ・・・)」




 電車の到着時間が近づき。

お母さんが、私を半ば引っ張るように連れて行き。


 もう時間が無い事を悟った私は、文字通り泣く泣く諦めた。




 「颯ちゃん、また会おう!」


 「うん、また会おうね!」




 私達は、お互い手を振りながら、叫んでた。

それから電車に入り、相手が見えなくなるまで、手を振り続けていた。


 これが、颯ちゃんと出会った最初である。


 その後も、三回ほど颯ちゃんの所に行っていたけど。

いつもやることは変わらなかった。


 すっと、お互い一緒に居て、くっ付いていたのである。


 その後も、颯ちゃんは成長していたものの。

彼自体は、余り変わらなかった様に思えたが。


 それから私が女性化して、颯ちゃんと再会した時。

私は、驚いてしまった。


 彼は背が高く、肩幅が広くなっていて、大人の男の人の様になっていた。


 私が女性化しているのもあるけど、その成長にとても驚く。


 しかし、あの穏やかな雰囲気と、優しい笑顔は変わらず。

まるで、優しい大型犬の様だ。


 そんな優しい瞳でジッと見詰められた私は、心臓が”ドクン”と大きく波打った。



 ”ああ、これが恋なのかな”



 同時にそんな、確信めいた感情が湧いてきた。


 まさか初恋が颯ちゃんだったなんて。


 物凄(ものすご)く可愛くて、仲の良い弟みたいな子に恋してしまうとは。

予想だにしなかった。


 しかし、ずっと見詰めた事が恥ずかしくなってしまい。

その事を指摘したら、颯ちゃんが照れたように視線を外す。


 そんな様子が逆に可愛くなった私が、思わず彼に、抱き付いたのは秘密である♡



一応、九州出身の、悠の父親が若干話すので。

九州弁自体にはある程度、馴染(なじ)みがあり、意味も理解できるのですが。


ネイティブ、特に田舎の方は方言がキツくて。

関東の人が聞くと、喧嘩している様だと言われます。


ここで、軽い笑い話を一つ。

筆者の家には、親戚に東北の人がいるのですが。

一度、その人と直接電話で話しをしたら。

こちらはコテコテの九州弁、向こうはバリバリの東北弁で、全く会話が成立せず。

自然にお互い、いつの間にか標準語になってしまっていました(笑)。



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この作品同様、TS娘と少年との恋物語の作品です。
・こんな僕でもいいの?
また、これらの作品も熊本を、舞台にした作品です。
・変わらない仲と変わった思い
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