第十二話 思い出したくない過去(後)
今回も、悠視点の話になりますが。
暴力を伴ったイジメや、セクハラの表現が出てくるので注意して下さい。
あれから、高校へ進学した。
前の学校の娘も何人かいるが、多分私の事は知らないだろう。
何しろ、戸籍から何まで変わってしまったし。
両親には負担を掛けたけど、家を引っ越したので、違う学校から来たのと勘違いしているだろうし。
学校側も、私の事を秘密にして置いてくれるそうだから。
こうして、私は全くの別人として、高校で生まれ変わるはずだった。
そう、入学して最初の頃は上手く行くと思っていた。
最初の二ヶ月くらいは。
クラスメートとは、楽しく付き合っていたのだが。
それを過ぎてから、次第に雲行きが怪しくなって行く。
初めは、私が来ると少し気まずそうになり。
それから、私が来たら人が逃げるように居なくなり。
結局、周りが、私を避けてしまう様になった。
ただ、その少し前に、私は他の娘から。
”どうして誘いを断った”とか。
”何で、一緒に来なかった”とか。
”何でそんな事をしたのよ”と言った事を言われたから。
何かイケナイ事をしたみたいだけど、一体、何の事だか分からない。
そうやって何も分からない内に、私の周りからは誰も居なくなった。
「ねえ、あなた、チョット良い」
そうやって、以前みたいに一人になった私に。
ある日、声を掛けてくれる娘達が居た。
「私達、これから遊びに行くけどさ、人数が足りなくて人を探してたの。
ねえ、一緒に行かない?」
「えっ、その、わたし・・・」
「良いの良いの、ただ黙って大人しくしていれば良いからさ〜」
評判が良くない、ちょっとケバい娘から声を掛けられたけど。
初め、余りそう言った遊びをしないから、断ろうとするも。
無理やり引っ張られて、一緒に行くことになってしまった。
「ねぇ、ねぇ、ねぇ。 君、可愛いねえ〜」
「所でさ、君〜、彼氏居ないのぉ〜」
「あの・・・、その・・・」
そうやって、ケバい娘達に連れられて、繁華街に来たのだが。
そこを数人で歩いていると、向こうから同じく、数人のチャラチャラした男子の集団がやって来て。
リーダーと思わしき娘と、何かを話した後。
私達と合流して、カラオケボックスへと入る。
最初は、私が良く知らない流行りの歌を歌っていたけど。
その内、何人もの男の子が私の周りを取り囲みだした。
「手、キレイだね〜」
「!」
「髪もサラサラだし〜」
「ちょ、ちょっとぉ・・・」
「足もキレイだねぇ〜」
「い、嫌っ・・・」
男の子達が、私に言い寄っている内に、段々エスカレートして行き。
私の手を握ったり、髪を撫でたり、ついにスカートの上から太腿を触り始める。
セクハラ行為をし出す。
このまま、ここに居ては危険だと思い。
私は隙きを見て逃げるようにして、カラオケボックスを出ていったのであった。
**********
「ちょっとアンタ、一体どこに逃げていたんだよ〜」
「アンタが居なくなって、アイツら直ぐに帰っちまたんだぜ〜」
その翌日、私は例のケバい娘達に。
校舎の隅の、人目の無い所に連れ出される。
私が、ケバい娘達に連れ出される時。
クラスの皆は、誰もが見て見ぬふりをしていた。
こうして私は、校舎の隅で数人の、ケバい娘達に取り囲まれていた。
「それに、何でアンタばっかり、男が寄るんだよ!」
「そうだよ、独り占めすんなよ〜」
「少しは、空気を読め」
初めは、私が逃げた事を責めていたのだけど。
次第に、男の子達が、私に群がった事を言い出した。
「大体、アンタ、顔と体だけは良いから。
アンタで、男を釣るつもりだったんだよ」
「そうそう、それをさ、勘違いして。
自分だけ独り占めしてさ〜」
「ちっとは考えな!」
などと、私を利用しようとした事や。
それが上手く行かなった事を、私の責任にしている。
自分勝手な内容の事を、喚き散らしてた。
そんな理不尽な事を、教師が見廻りに来るまでの一時間。
延々と、喚いていたのであった。
・・・
その時は、それで済むと思っていたが。
それからしばらくしてが大変だった。
「はっ、何だよ、その目は!」
「(グイッ)」
「痛い痛い痛い・・・」
「生意気なんだよ」
「(ピシャッ!)」
「痛っ」
「本当に気に喰わないな」
「(ガン!)」
「痛い!」
それから私は、ケバい娘達からイジメを受けるようになった。
それも暴力を振るわれるような。
ある時なんかは、人気の無い廊下を歩いていると。
イキナリ取り囲まれた挙句、髪を掴まれたり、頬をぶたれたり。
あるいは、脚を蹴られたりした。
流石に、顔は痕が残らない程度の強さで打っているので。
小学校の時も、悪口は言っても手を出さなかったのは、痕が残ってバレるのを恐れたのを思い出し。
“この手の人間って、頭が悪い癖に無駄に悪知恵だけは廻るなぁ”と。
変な所で感心していたのは、自分でもオカシかったけど。
教師に相談しようとしたが。
小学校の時の経験で、本当に信頼できるのか疑問があったので。
結局、相談できなかった
そんな、ある意味。
針の蓆の上に座ったかの様な日々を送っていた、ある日の事。
校舎の階段を下っていた時。
「(ドン!)」
「きゃー!」
「(ゴロゴロゴロ〜)」
「(ドスン!)」
「・・・、いたぃ・・・」
突然、何者かから背中を蹴られ。
その弾みで階段を転がり落ち、踊り場で転倒。
右腕を骨折してしまう。
頭を打った可能性がある為、念の為、救急車で運ばれたが。
不幸中の幸いで、骨折した右腕以外に怪我はなかったけど。
この件で、私がイジメられた事が明るみになる。
この件は病院に運ばれた為、学校も隠しきれず傷害事件と処理されてしまい。
当然、警察が事件を担当する事となり。
その過程で、私が元男なのがバレてしまった。
その事が学校どころか、いつの間にか隣近所にも広まったので。
私は、リハビリが終わっても、イジメで精神的に参っていたのに加え。
この事も加わり、外に一歩も出る事だ出来なくなって、スッカリ家に引きこもってしまう。
そうやって、ようやく精神的にも落ち着いた頃。
外には出られないけど、何とか勉強をし始めていたら。
両親から、”叔父さんの所に行ってみないか”と誘われた。
私の状況を心配した叔父さんらが、そう言って来たらしい。
ここに居ても、外にすら出られない状況だし。
それにあの海、あの山を思い出し、そして彼の事を思い出した。
「颯ちゃん・・・」
あの優しい男の子。
唯一、昔の私を受け入れてくれた存在。
また受け入れられるのかは分からないが。
とにかく彼に、また会いたい。
何だか、無性に彼に会いたくなってしまった。
そう思うと。
私は、叔父さんの所に行く事に同意したのであった。