第十話 悠ちゃんとの出会い
僕が、イトコの悠ちゃんと出会ったのは。
小学校に入る前の、幼稚園児の頃である。
「「こんにちは颯ちゃん」」
「伯父さん、伯母さん、こんにちは」
駅まで向かえに行っていた、両親と共に家に入った。
伯父さん夫婦が、僕に挨拶をする。
夏のある日、伯父さん達がお盆のラッシュを避けるため。
少し早めに帰省してきた。
一応、祖父母を始めとするお墓は。
この土地に残った、家の父親が管理する形になっている。
「ほらっ、悠、挨拶は」
「・・・」
伯母さんの後ろで、一人の子供がスカートにしがみ付きながら。
こちらを覗き込む様にして、見ている。
「(チラッ)」
「(・・・かわいいなあ)」
少しだけ顔が見えたら、とても可愛い女の子だったので。
思わず見とれてしまった。
「ごめんなさいね、この子人見知りだから」
申し訳無さそうにしていた、伯母さんの言葉で。
僕は、我に変える。
それが、悠ちゃんとの最初の出会いだった。
**********
「悠ちゃん、隣に居ても良か?」
「(コクリ)」
僕がそう言って許可を求めると、彼が頷いて了承する。
それから、悠ちゃんの隣に座り、一緒に本を読む。
悠ちゃんは、こちらに来て墓参りなど、家族と一緒に出かける時以外は。
基本的に、一人で家に居て本を見ていた。
最初、女の子だから優しくしないとイケナイと思い。
嫌がられない程度に、一緒に居ようとした。
こっちに来て、何も思い出が無いのも詰まらないだろうと、思ったからだ。
しかし、実は悠ちゃんは男の子だと、母さんから聞いてビックリする。
こんな可愛い子が男だったなんて・・・。
とは言え、思い出が無いのも詰まらないのには変わりないから。
相変わらず、一緒に居たのである。
「颯ちゃん、ありがとうね」
それを見ていた、伯父さん夫婦が僕に感謝していた。
伯父さん夫婦の話だと、悠ちゃんは友達が少なくて。
いつも一人で居るので、心配していたそうだ。
後になって、悠ちゃん本人から聞いた話だと、両親に心配させたくないので。
イジメられていた事は、黙っていたそうである。
**********
そうやって、悠ちゃんの側に居る内に、段々打ち解けて行き。
三日ほどして、一緒に外に出られるまでになった。
「悠ちゃん、こっちこっち〜」
「颯ちゃん、まって〜ぇ〜」
お互い打ち解け合うと、まるで子犬がじゃれ合う様に。
いつもくっ付く様になり。
そしてそれは、夜、寝る時でさえ一緒であった。
しかし、悠ちゃんと一緒にいると、男の子と言うよりも。
まるで、女の子と一緒に居るような、穏やかな雰囲気になるのが不思議だった。
そんな、ある日、僕と悠ちゃんは、一緒に海へと出かける。
「うわっ〜!」
「どぎゃんね〔どお〕!」
彼は初めて見る、有明海と雲仙を見て、歓声を上げた。
少々、雲が多く、ロケーションが良くなかったが。
向こうの方では、ナカナカ見られないであろう、沖の方まで潮が引いて出来た潟の効果もあり。
興味深そうに、目の前の風景を見ていた。
海風が程よく吹いており、さほど暑くはなかった。
「うん、すごいね、ボク初めてみるよ」
悠ちゃんは、興奮気味にそう言う。
二人は、堤防の上に登って腰掛けると、目の前の光景を眺める。
こうして僕と悠ちゃんは、色々な事をお互い言いながら。
気持ちの良い海風の中、一緒に海と山を眺めていたのであった。
**********
「(グス、グス・・・)」
「悠ちゃん、泣かんで・・・」
こうして約一週間が過ぎ、いよいよ帰ろうとした所で。
悠ちゃんが泣き出し、僕も泣きながら慰める。
僕と両親は、悠ちゃんと伯父さん夫婦を、無人駅の駐車場まで見送りにきていたが。
僕と別れる悲しさに、彼が泣き出したのだ。
悠ちゃんは、僕に抱き付き。
僕も、悠ちゃんに抱きながら慰める。
二人共、こうしたスキンシップが、いつの間にか当たり前になっていた。
「ほらっ早く行かないと、電車に間に合わないよ」
「(グスッ・・・)」
伯母さんから、電車の時間が無い事を告げられ。
渋々ながら、彼が手を引かれて駅へと向かう。
「颯ちゃん、また会おう!」
「うん、また会おう!」
二人は手を振りながら、お互いそう言い合う。
それから、やって来た電車に乗り込むまで、二人は手を振り続けていた。
これが、僕が悠ちゃんと最初に出会った思い出である。
この後も、悠ちゃんが小学校卒業するまで。
三回ほど、家に来たのだが。
成長するに従い、女の子みたいな外見は。
次第に、中性的な見た目へと変化していったけれど。
会うたびに、お互いいつも、くっ付いて居たのは変わらなかったし。
また、良く海へ行っていたのも変わらない。
そして、悠ちゃんが中学になり、進学校に入ってから。
勉強で忙しくなったので、それ以降、家に来る機会が無かった。
しかし、それから再び会った悠ちゃんは、信じられないことに。
本物の、しかも可愛い女の子になっていたのであった。