まだ陽の高いうちに
皆さんにクリスマスプレゼント!
ーー嫌な夢を見た
「最悪な気分…」
見たのは中学生ぐらいの時の夢。今よりずっとまともで、今よりずっと弱かった頃の。
「ああもう、夢のことは忘れよう。とりあえず朝ごはん作らないと」
◇
この街、というかこの家に来て数日ほどしか経ってないけど、今の生活に慣れてきた。まあ魔法があるおかげってのもあるんだけど。ただ問題が一つ。それは、日中はとても暇になるということだ。
「やっぱ昼にも出来た方がいいよなぁ」
今のところこの街に来てからまだ四人しか殺していない。夜しか活動できないままではなかなか難しいのだ。夜は見た目相応に眠くなるし。
「あとは街の人をある程度殺してしまえば次の街に向かえるわけだし」
ポケットから取り出したギルドカードを眺める。このカードは簡単な身分証明になるわけで、これさえあれば他の街にも問題なくーー犯罪歴が無ければ、つまりバレなければーー入れるということだ。
だから後は街を滅ぼすだけ…
窓の外を見ると、今日は雲が多いことがわかる。しかし晴れ間も少しは見えているし今日は雨は降らないだろう。
「とりあえず歩き回っていい場所がないか探してみるか」
◇
ーー数十分後
「ついたぞ!ここが俺らの秘密基地だ!」
目の前にあるのはそこら辺で拾ったであろう枝やそれぞれの家から持ちよったと思われる布などで作られたボロい、今にも崩れそうな小屋。秘密基地だった。
「大人には絶対に秘密だからな!…街の外に出たってバレたら怒られるし」
家を出てからしばらく歩いているとあることに気づいた。それは、“子供だったら狙いやすいんじゃないか”ということ。自分も子供なんだから、一緒に遊んでいても不自然じゃない。
ということで丁度良さそうな子供…アレクを見つけ、遊び場に案内してもらったわけだけど…
(まさか街の外に出るとは。自分の運が良すぎて逆に怖い)
言われるままついて行った先にあったのは街の外に出れるという秘密の抜け穴だった。そこからこっそりと山の中に入って遊んでいるのだという。
「アレク!そいつだれだよ!秘密基地バラしちゃったのか!?」
秘密基地の中から顔を出し、こちらを睨みながらそう言ったのは、アレクより少し年下に見える男の子だった。
「落ち着けってキール。こいつは新しい仲間だよ」
「クリューエルって言います。よろしくね」
とりあえず挨拶をしてみる。もちろん笑顔を忘れずに。このぐらいの歳ならそれだけで警戒は薄れる…はず。そこはこの体のスペックを信じよう。
「と、ともかく!エミリーとレーファにも確認しないとだめだろ!みんなで決めるってルールじゃないか!」
顔を赤くしてそう言ったキール。新しい人を入れるときにはメンバー全員で話し合うというルールがあるらしい。キールは、とりあえず二人を呼んでくると言って走って行ってしまった。
「ねえアレク。この秘密基地を知ってるのは4人だけ?」
秘密基地の中は思ったよりしっかりとしていた。なんでもキールが大工の子供なんだとか。こっそりと家から道具を持ってきて作ったため、見た目よりも丈夫らしい。
「そうだぜ。完成したのがつい最近だからまだ誰にも教えてないんだ」
「へぇ…そっか。じゃあ私が初めてなんだね」
つまり四人が死んだらこの場所を知る人は居なくなるということか。拠点としてはちょうどいいな…。
「アレク!二人を連れてきたぞ!」
しばらくアレクと話していたら、キールが戻ってきたらしく声が聞こえた。秘密基地から出て降りると、後ろに女の子が二人増えているのがみえる。あれがエミリーとレーファだろう。さっき聞いた特徴とも合う。
「アレク、秘密基地の事を知ってるのは今ここにいる人だけなんだっけ?」
「そうだぞ。さっきも言ったけど、髪が赤い方がエミリーで金色なのがレーファだ。後はここを知っているのは俺とキールだけだな」
キール達は俺たちが降りてくるのが見えたからか足を早めて、小走りになって向かって来ていた。
突然当たった日差しに空を見上げると、家を出た時には曇っていた空は晴れ、少しだけ日が傾いていて、今からならゆっくり帰りながら少し寄り道しても遅くならずに家に着きそうなぐらいだった。
視線を下ろすと、ちょうどキール達が足を止めるところで。
「遅かったな!キール」
アレクがその言葉を言い終える直前に、少し下がったキールの頭を、少し手を伸ばすだけで届いたその頭を掴み、引き寄せながら、首元に引き抜いたナイフを走らせる。
血を吹き出しているモノをアレクのいる方に投げ捨て、動きを止めずにレーファ、エミリーの順で殺す。
頭がついて行けなかったのか、二人ともほとんど動かなかったので狙いが逸れることもなく一発でしっかりと切れた。流石に首を刎ねるとまではいかなかったけど、水筒の蓋のように開くぐらいには深く。
三人を殺して振り向くと、アレクは血塗れになりながら大きく目を見開いてこちらを見ていた。動かなくなったキールはしっかりと彼の体にぶつかっていたようで。尻もちをついている彼の足元を見ると、血とは違う液体で濡れていた。
「な、なにが!なんで!?キール…レーファ、エミリー!」
逃げ出しそうにはないので少し安心したが、大声で叫ばれるのは都合が悪い。
ただでさえ変声期前の高い、よく通る子供の声だ。たまたま近くを通った人が居ないとも限らない。少し急いでアレクの元へ向かった。
静かになったあと一応少しの間周りに注意を払っていたが、さっきの絶叫を聞いた人はいなかったのか誰も近づかなかったので一人づつ心臓を潰していく。
全員のものを潰したところで、数日ぶりに聞く声が頭の中に響いて来た。
(忘れられてるんじゃないかと思って心配になったから話しかけてみたよ!自己紹介するかい?)
数日ぶりに聞いた声だけど前よりも鬱陶しくなっているような気がする。街の外に秘密基地が有ると聞いた時点でこいつと話す予定ではあったけど無視して帰りたくなるような気分になるようだった。
「残念ながら忘れてない。眠くならない、もしくは眠る必要がなくなるスキルは取れるか?」
とりあえず用件を早く済ませてしまおうと思い余計なことは言わずに尋ねる。
(うーん、そうだねぇ。眠くならないようになるスキルも眠る必要が無くなるスキルもどっちも問題なく取れるみたいだね。コスト的には眠くならないスキルの方がいいけどどうする?)
「眠る必要が無くなる方で。どうせ眠くならない方はデメリットがおおきいんだろ?」
(デメリットなんてとんでもない!ただしばらく寝ないと突然倒れるってだけだよ?)
「デメリットだろそれ。とりあえず眠る必要がなくなるスキルをくれ。…あと死体をどうにかする方法はないか?これは埋めるにしても今後増えたら大変になる」
言い終わると同時に体が少し光る。これで眠る必要が無くなった。
(とりあえず要望通りスキル『不眠』をつけたよ。これで眠る必要はない。…もちろん眠くもならない。死体をどうにかする方法か…魔物をペットにして食べさせるっていうのが一番いいと思うよ)
「魔物ね…ここの近くにもいるのか?」
(まあいることにはいるね。でも一つ忘れてないかい?魔物を作っているのは僕だよ?わざわざ探さなくても…)
「お前が作ってくれると。そうか、じゃあ作ってくれ。なるべく多く処理出来る奴で頼む」
(おお!迷いがない。それじゃあ残ってる魂全部使うけど問題ないよね?こねてくっつけてどーん!)
へんな掛け声と共に目の前に黒い猫が現れた。見た目は普通の猫に見える。魔物と言われても信じられないぐらいには。
(そいつの名前は《暴食猫》君のために作った特注の魔物だよ。つまり新種。一度に大人五人分ぐらいの体積を吸収する事が出来るんだ。吸収した分は体の強化に使われて、食べれば食べるほど強くなる。生物の死体しか吸収出来ないんだけどね)
結構スペックが高かった。ともすれば自分より強力なんじゃないかと思うレベルで。
(ただ問題が一つあって、こいつの攻撃は弱い。体の強化も全部攻撃力以外に行くから攻撃力はずっとそこら辺の猫より少し強いぐらいだね。ないとは思うけど君を裏切っても大丈夫なようにそんな設定になってるよ。自分じゃ碌に餌も取れないだろうし名前でもつけて可愛がってやってよ)
そんなに強いなら危険なところは代わりにやって貰おうかと思ったが、そんな便利ではないらしい。とりあえず死体処理が出来るんだからいいか。
「ありがとうなハオス。助かる」
(こういうのが僕の仕事だからね。僕に出来ることは喜んで協力させてもらうさ)
ハオスにお礼を言った後、ついさっき産み出された魔物、暴食猫を見る。そいつは涎を垂らしながら死体とこちらを交互に見ていた。
「ああ、なるほど。それ全部食べていいぞ」
おそらく許可が出されるのを待っているんだろうと思いそういった。すると猫は「ニャア」と鳴いたかと思うや否や、影の様に身体を変化させ一瞬のうちに死体を全て吸収してしまった。地面には血の跡さえなく、もし瞬きをしていたらただ死体が消えた様に見えたであろうほどに、一瞬というのに相応しいスピードだった。
「お前…凄いな…」
驚きながらそいつを見ると、何事もなかったかの様に手を舐めていた。その姿は本当にただの猫の様で、とても魔物には見えなかった。
「名前ね…。確か《暴食猫》って言いたっけか。じゃあそこから取って“グラ”でいいかな」
自分でもちょっと雑につけすぎたかと思ったが、こいつは…グラはその名前を聞くと短く鳴いてすり寄ってきたので、まあ気に入ってくれたのだろう。とりあえず今日のところはもう帰ろうと思い、来た道に沿って戻って行くことにした。
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【今回の殺害人数】
四人
【total】
九人
【獲得スキル】
『不眠』
年明けるまでにもう1話更新…できるのか?