戦いの行方
エルルクが叫んだ瞬間、勇者から光が立ち上った。
その光の波に、足止めのために飛ばしていた血液が一瞬で蒸発させられる。クレーターのようになった地面の中心にいるのは少し虚ろな目をした勇者、神田渚だった。
勇者は体から光を放ち、先ほどまでとは比べ物にならないスピードでこちらに突っ込んできた。
「なんだよッ…!これはッ!?」
『万象の瞳』をを発動させてなければ反応は出来ても躱すことも受け流すこともできなかったであろう攻撃は確実にこちらの命を奪いに来るものだった。さっきまでの勇者からは考えられない程強力で、鋭い一撃。その原因がエルルクの行動にあることは疑いようもなかった。
一旦距離を取ろうと光を屈折させ姿を消すがそんなことはお構いなしに斬りかかってくる。どうやら視覚に頼らない方法でもこちらを認識しているようで、一切攻撃が乱れることはなかった。
こうして勇者の攻撃に気を取られている間にエルルクは離れており、さらに氷の束縛を破った植物でこちらの妨害を始めている。
このままだとジリ貧なので空へと飛びあがるが、なんと勇者も空気の壁を蹴ってこちらについてきた。
「それはさすがにずるいだろうがッ!!」
勇者が飛び上がったところを狙って風の弾丸で吹き飛ばす。が、すぐに勇者は体勢を戻し、剣の先から光線を撃ちだしてきた。
「ぐっ…!」
反応しきれず右手が貫かれる。『超回復』と『回復魔法』によって一瞬で再生したがその隙にまた勇者が距離を詰めてきていた。
「これでも…くらえ!」
『雨乞い』で呼び寄せていた雲から雨を滝のように降り注がせる。そしてその水を操り勇者を巨大な水球の中に閉じ込めた。そのまま電撃を浴びせようとした瞬間、またも勇者の身体が光り輝く。爆発するかのように一瞬で蒸発した水と、大量の水を蒸発させたにもかかわらずエネルギーの保った光の波によって俺の体は地面に叩きつけられてしまう。…それも、エルルクの支配する植物の真上に。
「彼女の加護を!!『太陽の手』!!」
身体に巻き付いてくる蔦や枝を最大出力で焼き尽くす。体の傷は『超回復』に任せて飛び込んでくる勇者の対処を考えないと…ッ!
「ぐああぁあっ!」
勢いを全く落とすことなく、それどころか加速しながら突っ込んできた勇者の剣先に残った血液を圧縮して作った盾をぶつける。貫通されることはなかったがその勢いと地面に挟まれ身体は悲鳴を上げている。こんな無茶な動きをしている勇者の方も身体から血を噴き出しているが、どうやら向こうも自動回復系のスキルを持っているらしく傷ついたそばから回復しているようだった。
ーージュウウゥゥ
血の盾から何かが蒸発する音が聞こえる。勇者の持つ剣は光輝き、まさに聖剣といった雰囲気だった。勇者の剣に触れた血は一瞬で蒸発し、少しずつ盾が削られていく。初めは大量にあった血も吹き飛ばされたり蒸発させられたりとであともう二割も残っていなかった。
…負ける…?俺が…?
頭に浮かんだ敗北の可能性を否定しようとするが現状をひっくり返す方法は何も浮かばない。勇者は魔法によるブーストによって地面についた今でもその力を弱めることなく俺の体を釘付けにしている。仮にそらそうとしてもこの勢いでは逸らしきれずに身体の何割かを持っていかれるだろう。勇者の後ろに見える曇天は少しずつ緑に覆われている。多少のダメージを許容して逸らしたところで体勢を立て直すことができなければ意味がない。
そう考えている間にもタイムリミットは刻一刻と迫ってきていた。残った血液は一割程度で、もはやあと一分も持たないだろう。
…負けるのか…?殺される?神田渚に?
そんなことは許されない。許さない。俺が殺す側のはずだ。そのために、そのためにここにいるんだろ。アイツは獲物で俺が狩猟者。それなのにこんな結末、認められるわけないだろう!!
「…俺はッ!!絶対に!お前らを…ッ!」
ハオスの言葉を思い出した。聞かされたときにはどうせ必要ないからと、そう思っていた邪神のサービス。相手に殺されるよりも先に自分で自分の心臓を握りつぶすこと。それによって少なくともこの窮地を脱することができる。また力をつけて、今度こそ。
「…絶対に殺してやるからなあぁああッツ!!」
そうして血の盾が消滅するのと同時、勇者の剣がこの体に突き刺さるほんの一瞬前に、体中の血液を使って作り出した巨大な血の掌が体の内側から俺の心臓を握りつぶして俺の視界は暗転した。
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【今回の殺害人数】
1人
【total】
21045人
今日はもう1話投稿する予定です。




