【番外】召喚された後の勇者
今回はちょっと長め
私が召喚されてから数日が過ぎた。
神父の人が言っていた私が神様から力を与えられてるっていうのは本当みたいで、私の戦闘力を見るってことで行われた模擬戦ではなんと強そうな騎士の人に勝ってしまった。
体力や力が上がってるのはもちろんなぜか剣の振り方や相手の動きも何となくわかるようになっていて、直感に動かされるままにしていたら気付いた時には騎士の手から剣が離れ、そしてその喉元に私が剣を突き付けていた。
模擬戦の後、私には戦闘訓練の必要性が薄いため魔物を倒して身体能力を向上させることを優先すると伝えられ、それからは魔物っていういろんな見た目の怪物を…一応、倒している。あれを倒してるって言っていいのかはわからないけど。
魔物を倒せば力が手に入るという言葉の通り、魔物を倒せば倒すほど力は強くなっていった。身体能力が上がるだけではなく、魔法が使えるようになったり、空中でジャンプできるようになったりとちょっと不安になるぐらい力が上がっていった。
そんな私が抱える今一番の悩み…それはあの緑頭の男だ。
山内陽影…それが神託騎士エルルクの前世らしい。そしてその前世が私の知る彼であることは…まあ一応納得した。彼が、山内が死んだのは大体五年ぐらい前、事故だった。
山内が死んだのはアイツが死んだ直後の話で、ただでさえ暗い空気だった学校がさらに暗くなったのを覚えている。山内はアイツの妹と一緒に後を追ったんじゃないか、なんて噂が出てもすぐになくなるぐらいにはアイツと山内の死の話はタブーになっていた。
そして問題はその山内が私を恨んでいること。
原因は分かっている。彼の友人だったアイツ…日中貴文の死んだ一因が私にあるからだ。
そうはいっても別に、私が直接何かしたせいってわけじゃない。たぶん。確かに…ちょっとアイツをこう、端的に言ってしまえばいじめていた…のは事実ではある。直接手を出したわけでも私が主犯だったわけでもないけど、一緒になって悪口を言っていたし悪戯の案を出すこともした。
ある日、次はどんなことをしてやろうかと話し合っていた女生徒達は一つの悪戯を思いついた。それは、"彼が大事にしているお守りをどこかに隠してしまおう"というものだ。それも、学校内に隠すのではなく誰かが家に持って帰って、次の日何事もなかったかのようにアイツの机に返してやろうというものだった。
そしてその計画は実行された。女生徒達はお守りを探して慌てるソイツを見て笑い、彼のお守りを持ち帰って次の日返すという大役は言い出しっぺの女生徒に押し付けられた。もとい任された。
そして次の日まだ登校していないアイツの机にお守りを置いたあと、これを見つけたアイツの反応の予想や通学路で何やら事件が起きたっぽいことなどを話して楽しんでいる女生徒達に投げ入れられた爆弾がソイツの訃報だった。
夜歩いていたところを何者かに刺されて死亡、らしい。制服姿で倒れていたのを通行人が見つけて通報したのが早朝で、その時点でもう息はなかったというのは噂で聞いた。
さて、ここで問題になるのは、噂になるのはなんで刺されたのかって話。アイツがその日お守りを探してた話はすぐに広まって、それさえなかったら死ななかったんじゃないかって噂もすぐに広まった。いじめをしていたグループも、それを止めなかったクラスメイトもそれぞれもやもやしたものを抱えながらそれをぶつける相手を探し、結局言い出しっぺの女生徒のせいだと言われるようになるまで時間はいらなかった。
そしてその言い出しっぺの女生徒というのが私なのである。
当然同じ学校だった山内はこの噂を聞いて怒って問い詰めてきたし、お守りを取ったのは事実だって言ったら殴られた。そしてその次の日に事故で死んだので…私の立場は何とも表現しがたいものになってしまった。
それからはいろいろとあって何とか知り合いのいない高校に通い、大学生になり、忘れはしないまでもある程度記憶が薄れてきたところでこの再開というわけだった。
状況をまだ飲み込めてない段階でのカミングアウトと「許してない」宣言で、数日たった今でもどんな感じで接したらいいのか全く分からないのであった。
そして…、
「なにしてんの。早く倒してくれる?」
「わ、わかってるよ」
魔物を倒す間、そんな相手と付きっ切りになること、これが目下の悩みである。
蔦のような植物に囚われてもがくことしかできない首が二つあるワニのような化け物の首をどちらも切り落とす。何かが体の中に入ってくるような感覚とともに新しく魔法が使えるようになったことを感じ取った。
「あ、なんか新しい魔法おぼえたっぽい…です…ね」
「なにその変な話し方。気持ち悪いんだけど」
「それは…まあ…」
「それで、次はどんな魔法?」
「たぶん剣から風の刃を飛ばすっぽい。威力とかはわからないけど」
「ふーん、まあいいや。次いくよ」
そして再び抵抗できないようにされた魔物が部屋の中に運ばれてくる。
山内…今はエルルクという名前のこの男が捕まえてきた無抵抗な魔物を流れ作業のように切り倒していくこの作業というのが勇者としての仕事の一つだった。
こんなんでいいのかとは思って聞いてみたけどわざわざ魔物一体一体をまじめに相手するよりもとりあえず量を倒して上がった身体能力を模擬戦で馴染ませていくのが一番いいってことらしい。
「じゃあ次でとりあえず今日の分は終わり。終わったらそのまま模擬戦するから」
「りょうかい」
模擬戦…最近はエルルクの分身と戦っている。そのおかげで相手に怪我させるとかの心配はいらなくてやりやすい。まあ分身って言って同じ場所に何人も同じ人間がいるのはちょっと気持ち悪いけど…。
「なにぼーっとしてんの」
「わっ、うん、準備オッケーだよ」
この模擬戦の訓練、初めはエルルクの分身とじゃなく神託騎士のアレクって人とやっていた。身体能力が高くて戦い方が何となくわかるってだけなので最初の方は負けてたけど、魔物を倒していくごとになんか…よくわからないけど勝てるようになっていった。初めは引っかかってたフェイントも今では全部見て回避できるようになったし。
そうした実力の上昇と強めの技を取得したことで、どれだけぼろぼろになっても死なないエルルクの分身が訓練の相手としてちょうどいいって話になってしまったのだった。
「じゃあとりあえずこの分身が再生できなくなるか僕がいいって言うまで戦おうか」
「うえぇ」
私のメンタル的には全然ちょうどいい相手じゃないんだけどなぁ。
◇
それからまた数日が過ぎた夜、突然重要な話があると大きな部屋に集められた。
部屋の奥にはエルルクが立っていて、正面の円卓には神託騎士のアレクさん。そして召喚されたときにいた神父の人…実は教皇様だったらしい…が座っていた。
とりあえず促されるままに座って正面のエルルクを見る。みんなを集めたのは彼だって話だけど。
「それでは、『心臓喰らいの悪魔』討伐作戦による被害と成果について報告させてもらう」
「えっ。悪魔って私が倒さなきゃいけないやつじゃないの?」
「…彼女に状況を理解させるために先に作戦内容の説明からしよう」
こいつは…、みたいな目でこちらを見ているがどう思い出しても絶対に私はその話を聞かされていない。初耳なんだけど?という気持ちが伝わるよう見つめ返すと彼は目を逸らして話し始めた。
「今回出現した悪魔と思しき存在がセードのミラク魔法学院に入ったという知らせが神託騎士ヴェロニカからもたらされた。そのためそれが本当に悪魔であるかどうかの確認、そして本当に悪魔であった場合戦闘力やその特性を調べて可能なら撃破するというのが今回の作戦の目的だった」
「悪魔の名前はクリューエル。血液を操作して攻撃し、素早さを活かした戦いを得意としているため対人戦闘や格下との多対一での戦闘に長けている反面非生物との戦闘は向いていない。また、殺した対象から心臓を抜き取り握りつぶすという行動をとっており、これが力を得るトリガーになっていると推測される。これが前日時点でわかっていた情報だ」
「そのためヴェロニカのユニークスキルにより迷宮を利用すれば充分打倒可能、そうでなくともある程度消耗させることが可能でありバックアップとして僕が出れば十分討伐可能…なはずだった」
ここで少し言葉が止まる。言いにくそうにあたりを見回したエルルクは続けた。
「結果としてヴェロニカは殉死、一度は悪魔を捕らえることができたが…逃げられてしまった。僕のミスだ。本当に、申し訳なく思う」
沈黙が広がる。その沈黙を破ったのはアレクさんだった。
「逃げられちまったもんは仕方がない。ヴェロニカのことも…まあ仕方がないだろうさ。ただ一つ聞かせろ。一度は捕まえたと言ったな」
「ああ」
「なぜ捕まえた?悪魔を殺す。これが俺たちの使命であり義務であり…人類が生き残るための条件だ。違うか?」
エルルクの口元が歪む。
私は勇者として戦うにあたって悪魔についての説明を受けた。悪魔は世界中の人間を殺すために行動し、さらにそれによって力をつけていくためたとえ相手がどのような姿かたちをしていようとも絶対に殺さなければならない。もし殺すことができず手を付けられないぐらいに強大になってしまった場合、それはつまり人類の滅亡を意味する、と。
「その通りだ」
「一度は捕まえたっていうことはそのときに殺せたってことだよな?どうしてそれをしなかった。なんのためにヴェロニカは死んだ。その捕まえるという行為は大勢が死んでしまう未来と天秤にかけてでもやらなきゃいけないことだったのか?」
「…本当に、申し訳ない」
そこに声が差し込まれる。教皇様だ。
「まあまあ、その辺で。大事なのはこれからでしょう。失われた人々、そして散っていった神託騎士の二人のためにも今は悪魔をどう倒すか話し合いましょう。一度捕まえたのに逃げられた、というのなら逃げられるような何かがあったということなのでしょう。悪魔の情報を詳しく持っているのはエルルク、あなただけなのです。確かにあなたは間違えてしまいました。ですが命を懸けてでも悪魔を打ち倒すことができればそれはその間違いを多少なりとも打ち消す功績になるのではないですか?」
「…そうだな。文句は全部終わった後にでもたっぷり言ってやるよ。それでなんで逃げられたんだ?」
「悪魔を捕らえた僕はここ、聖都への移送を行った。悪魔は抜け出そうともがいていたが一切身動きが取れないようにしていたため抜け出すことができない…はずだった」
「だが逃げられた。なんでだ?」
「突然悪魔の両腕が燃え始めた。ある程度の熱耐性を持たせていた僕の木を燃やせるぐらいの威力だ。そして拘束から抜け出し、適性がないはずの属性魔法を使い空を飛んで僕を振り切ってしまった。たぶんあれは、イザベラとヴェロニカのユニークスキルと同一のものだと思う」
その言葉を聞いた二人は驚いた顔をした。私はちょっとよくわかっていないが。
「それってつまり…どういうこと?」
私の言葉にも全員が驚いた顔をした。まだこの世界についてそこまで把握できてるわけじゃないし許してほしい。
「僕たち神託騎士には固有のスキル、ユニークスキルがあるって話は前にしただろう?」
「このスキルを持っているからこそ俺たちは神託騎士として認められていて、そしてこのスキルがあるからこそ他のやつらとは隔絶した強さになってるんだ」
「それを奪えるとなると…今代の悪魔は大変な特異性をもっているようですね」
「おそらくユニークスキルを奪うっていうのはすぐにできるものではないんだと思う。もし最初からつかえたのなら戦いは少し違うものになっていたはずだから」
「なんにしても悪魔のもともとの力に加えて現状でも神託騎士二人分のユニークスキルを使えるっていうのはどう考えても強いな」
つまりただでさえ強い悪魔が強い人の能力を奪って使えることがわかったからやばいってことらしい。
「ただ、ユニークスキルを使えるとは言っても現状ではまだ対処可能なレベルに留まっていた。勇者が出ればまだ対処可能…のはずだ」
「それで、その悪魔の現在地は分かってるのか?」
エルルクが首を振る。
「大体の方角は分かってるけどまだ見つかってない。見つかったらまた知らせる」
「そうか」
教皇様は少し顎に手を当てて考える素振を見せた後言った。
「…では勇者並びに神託騎士に命じます。悪魔を補足次第打ち倒しなさい。そのためには、いかなる人的、物的損害を発生させることも認めます。しかし、今度こそは絶対に逃がさないよう。よろしくお願いしますね」
そして次も番外編です




