血の海
「逃げろぉお!殺されるぞ!…ぐぁっ」
「きゃぁあああ!!」
外壁から飛び出し混乱している群衆の中に降り立った。
そこからは虐殺である。
近くにいる相手の首を撥ね心臓を握りつぶす。死んだ奴の血液を支配してまた一番近い相手の首を撥ねる。
心臓を潰す手間のせいで逃げられつつあるが問題ない。この程度の距離なら一瞬で追いつけるし、何より逃がすつもりはない。
せっかくのボーナスゲームなんだ。思う存分楽しませてもらおう。
離れてた民衆を追いかけて背中から手を突き刺す。そのまま心臓を潰しそれごと血液を抜き取った。
血液を操作し巨大な鎌を作りだし、動きの固まった人々の首をまとめて刈り取った。
それをトリガーに死体の血液を支配下に置きその体の中から心臓を取り出し潰す。そうして心臓を潰した体から抜き取った血液を鎌に吸わせていく。
「あ…悪魔だ!」
「なんでこんなこと…神よ…」
恐怖に歪む顔を眺め一つずつ切り離していく。思えばこうした虐殺は久しぶりだ。イザベラを殺した日以来じゃないか。
疲れた心が癒されていく。満たされていく。
なにが神託騎士だ。少ししかいなんじゃなかったのかよ。次から次へと現れやがって。強いやつと何回も何回も戦うなんてそんなこと俺が望んだことじゃない。
そうだ。そもそも俺は人を殺すためにこの世界に来たんだ。間違っても生死をかけた戦いをしに来たんじゃない。俺が狩人であいつ等は獲物なんだ。
「あはははは!」
笑いが止まらない。
笑いながらも死体を増やしていく。
真っ二つに切り裂いた。体ごと握りつぶした。内側から破裂させた。首を引き抜いた。心臓も引き抜いた。串刺しにした。切り刻んだ。命乞いは笑って切り捨てて抵抗する相手はなぶり殺しにした。男も女も大人も老人も子供も関係なく殺していく。殺す度に力が上がっていくことを実感する。
殺す度に武器が大きくなっていく。操る血液が増えていく。
普通ならここまで一度に支配していけば限界を迎えるのだろうが、それより早く限界も上がっていく。
街を練り歩く。
状況を呑み込めていない人達も俺の姿を見るとすぐに逃げようとする。そして死んでいく。
建物の中に逃げ込んだやつらは面倒なので後回しにして外に出ている人々を一人残らず消し去っていく。殺して心臓を潰した死体はグラが食べ、後に残るのは血が一滴も付いていない服や靴や武器や防具。それらと俺が振り回す赤い武器だけが哀れな獲物たちがここにいた証だった。
悲鳴が心地いい。命乞いが面白い。
5000は殺しただろうか。小さな街を走り回り視界に入ったものを全て潰していった。
操る血も多くなり、やろうと思えば建物をそのまま押しつぶすこともできるだろう。
空を見上げると太陽がちょうど頭上を照らしていた。
一度街の外に出てハオスに呼びかける。
(やあやあずいぶん殺したね。僕としても望ましい限りだよ)
「だろうな。そもそもできるだけ多くを殺してほしいって言って俺をここに送り込んで、俺も人を殺したかったからそれを受け入れたんだ。今までが少なすぎたぐらいだろ」
(まあ確かにそうだね。僕としても量は多いほうがいいし)
「それで、スキルだ。近くにいる人間の場所がわかるようなやつをくれ。これだけ殺したんだから十分できるだろ」
(それはもちろん。余裕でおつりがくるね。…はい、あげる)
その瞬間半径1キロぐらいに存在する建物、動物、植物、魔物、人間の情報が一気に入り込んできた。
「…ッ!」
激しい痛みが頭を襲う。だがそれも少しすれば治まった。
(スキル『範囲感知』。本来は半径5メートルぐらいの探知をするスキルで、それでも負担が大きいんだけど君の体も丈夫になってるしちょっと強めにしておいたよ)
「それはちょっとっていうレベルじゃないだろ…」
(あの神託騎士や勇者と戦うんだからちょうどいいでしょ。向こうも広範囲の探知ぐらいはこなせるだろうし)
「それもそうか。とりあえずスキルはそれだけでいいとして、食べ残しを処理してくるよ」
そういって再び街の中へ。
他のスキルとは違って『範囲感知』は意識していなくても勝手に発動しているが、それでも他のスキルと同様に頭の中にその使い方が刻み込まれていた。
人のいる建物に入り皆殺しにする。それをしばらく続けていたが何度も続けていれば飽きも来る。
いちいち心臓を潰す手間が一番面倒なのだがそれをしなければ意味がないのが困ったところだ。
◇
目の前ではまるで生き物、あるいは化け物のように赤い水球が四方八方に飛び交っている。
こうなったのは少しやり方を変えたからだ。
暫く動いたところあることに気付いた。それは、時間がかかりすぎるということ。
通りを走り回って目に付いた人間を攻撃すればよかった初めとは違い今は建物の中に入った者たちを相手にしなければならない。いくら場所がわかるとはいっても一々建物の中に入っては出てを繰り返せば時間も過ぎていくというものである。
そこである思い付きもあって違うやり方を試してみた。それは血液だけ人のいるところに飛ばす、というものだ。
これは試してみればなかなかいい方法で、レベルが上がったことで上昇した処理能力によって同時に複数個所処理できるようになったため一つずつ潰していた時と比べて何倍もの効率で進んだ。
感知できる範囲だけにしか飛ばせないがそれでも十分すぎる成果である。
ちなみにグラは目にもとまらぬ速さで飛び回って食事をしている。あれだけ食べてまだ食べ足りないのか。
何千人分もの血液が海のように広がってさらにその全体を増やしていく。その甲斐もあって日が沈むころには全員を処理して街を出ることができた。街の外には逃げ出した数人の反応もあるけど…わざわざ追いかけるほどの人数でもない。つかれたし。
思う存分暴れてストレスも解消できたところで次はどこに行こうかとハオスに呼びかけたところで知覚範囲内に妙な反応を得た。
「この反応は…もしかして」
(うん、来てるね。本体じゃないだろうけど神託騎士の反応だ)
神託騎士エルルク。植物を操り一度俺を捕らえた相手。まだ戦うには準備が足りないか…いや。
「ハオス。スキルをよこせ。空中で自由に動けるスキルと火に耐性ができるスキルだ」
(了解了解っと。空中で動けるようになる方は意識した場所に空気の壁を作るスキル、火に耐性をつける方は普通に体を熱に強くする感じでいいかな?)
「ああ、それでいい」
(それじゃどうぞっと)
頭の中に焼き付く感覚でスキルを得たことがわかる。その使い方も。
リベンジをしに行こうか、そう思ったときエルルクの反応が妙な動きをした。
「だんだん離れて…!こっちに気付いたのか!?いや、それだったらなんで逃げる。一度勝ってる上にあっちは分身だ。たとえ失敗してもそこまで痛くないはずなのに…まてよ」
俺があの神託騎士だったとして、一度捕まえて油断で逃がした相手を見つけたらすぐ捕まえようと思うだろう。相手が成長している可能性があったとしてもこちらをまだ超えているかはわからないし、仮に超えていたとしても分身一つでそれがわかるなら十分だ。
…だがそれをせず逃げようとしている。それならなにか理由があるはず。
「たとえば今は戦えない状態になっているとか、あるいはそう思わせて誘いこむ罠…」
そう考えているうちにも反応は離れていく。日は落ちていき、それに伴って反応の強さが小さくなる。
「…そういうことか」
もしこの考えが正しいのならきっとあの神託騎士の攻略法はこれなのだろう。
反応が探知範囲を抜ける直前に、空を蹴って飛び出した。
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【今回の殺害人数】
8532人
【total】
8890人
【獲得スキル】
『範囲感知』『空気壁』『熱耐性』




