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好都合

良いペース良いペース(自己暗示)

(なにかお困りかな?)


 声が聞こえた。

 今はエルルクに囚われて暫くが過ぎている。外は何も見えず、何も聞こえないが途中バッグの中身が無くなった感覚があった。原理は分からないが無くなったものがあのオーブだとすれば学園の外に出た、ということだろう。

 ということはエルルクは卒業資格を持っていたというわけで…まあ関係ないか。そもそも学園から出られなかったわけだし。


(どうせわかって聞いてるんだろ…まあいい。お前の声が聞こえるってことは街の外に出たってことだな?)

(そうだね。今は聖都に向かって一直線。最短距離を突っ切っていってるね)


 街の外。つまりハオスと会話ができ、スキルの取得が可能な空間だ。学園内で一人しか殺せてないしそこまで余裕はないだろうが、一人は一人でも神託騎士の命だしなんとかできると信じたい。前回分も少し残っていたはずだし。

 毎回邪神だよりってのは癪だが…。


(それで、何とか出来るんだろ?)

(わぁお。信頼が厚くて泣いちゃいそうだ。最初の頃の警戒心バツグンな君はどうしてしまったのやら)

(うるさい。さっさと教えろ。俺はどうやったら、どんなスキルを取得すればこの窮地を脱出できる?)


 普通でもストレスの溜まる邪神の語り口も焦っているこの状態だとさらにむかつくものがある。…そうだ。今俺は焦っているんだ。

 この世界に来て危機的状況っていうのはあったがこうはっきりと"詰んでいる"状況は初めてだった。たまたま俺のことを知り合いだと勘違いしたやつが相手だったから生かされているだけで普通だったら殺されていておかしくない。

 焦りを自覚したとたん少し心が落ち着いた。そうだ何とかしてあいつ|を殺さ(から逃げ)なくては。


 …あれ?今何かおかしくーー


(そうだね。正直これを何とか出来る方法はなかったんだけど…一つだけ、偶然、幸運にもその手段があるよ)


 生まれた違和感はハオスの思念を感じたとたん消え失せた。まあ今はこの状況を何とかするのが先か。


(その手段っていうのは?)

(君が殺した神託騎士、そのスキルを君に使えるようにする)

(それは…できないって言ってなかったか?神託騎士のスキルは特注品だから使えないとかなんとか)


 前にそんなことを言っていた記憶がある。神託騎士のユニークスキルは個々人に合わせて作られているから俺には使えない、と。


(まあ普通そうなんだけどね。君が殺した相手の分なら話は別だよ。まあたぶんすごく苦しいけどね)

(苦しいって…どんな方法なんだそれは)

(神託騎士の魂を君の魂に馴染ませるんだよ。彼らの魂は特別だからね。だから…いや、まあそれはいいか。殺した神託騎士の魂からユニークスキルを引きはがして使えるようにするってこと)

(その過程で苦痛が生じるってわけか)

(そういうこと)


 まあ多少苦しいぐらいならいいだろう。それくらいで俺を困らせたあの力が使えるんだから。


(じゃあ早速やっていくよー)


 ハオスのその言葉とともに形容しがたい苦痛が全身を駆け巡る。


「うぐぅぁあああ!??」


 削られてはいけないものが削られていく感覚とそこに異物が埋め込まれていくような感覚。もし自由に動けたら腹を開いて痛みの原因を探していたであろう異物感。全く身動きの取れないこの状況は逆に好都合だった。

 どれだけの時間が経ったのかは分からないが新しい手が一本増えたような奇妙な感覚とともに痛みが引いていく。


(おつかれー。大丈夫かな?)

(ああ、なんとか)


 新しく生まれた感覚がユニークスキルを使うために必要なものだということは理解できた。そして、その使い方も。


(とりあえず疲れたから僕は休むね。どうせスキル習得できるような余裕はないし。定着に使っちゃったからね)

(は?今のにも使うのかよ!)

(そりゃあいるさ。なんてったってユニークスキルだよ?)


 知らないうちに使われていたのには驚いたが、ひとまず納得する。少なくともその価値はあっただろう。


(納得いただけてなにより。それじゃ、頑張ってね)


 その言葉を最後にハオスの声が途切れた。

 脱出方法を手に入れた以上、拘束され続ける理由もない。というかこれで逃げられなかった場合ハオスになんてバカにされるか分かったものじゃないな。


 心に浮かぶ呪文を紡ぐ。あの炎を、太陽を再現する。


「彼女の加護を『太陽の手』」


 両腕に感じる暖かさにスキルが正常に発動したことを自覚する。だが体を捕らえるこの檻はまだ燃えていない。

 もっと強く、もっと激しく、すべてを燃やす力を込めていく。

 そうしてとうとう腕が動いた。

 体、足、そして顔。強い炎は自分の体すら焼いていくがそれは体の回復能力に任せすべてを燃やし尽くした後、目の前には驚いた顔をしたエルルクがいた。


「…!それはイザベラの!」


 揺れる足場と顔に吹き付ける風。ここはドラゴンのような生物の背中だった。

 ハオスの言っていた最短距離、とはこういうことかと納得する。何かを早く運びたいのならベストな方法だろう。空なら逃げられる心配も少ない。空中を自由に移動できる者なんて限られているのだから。

 実際さっきまでの俺なら飛び降りるかどうか迷ってその隙にまた捕まっていたかもしれない。


「それじゃ、私は逃げさせてもらうよ」


『太陽の手』の発動を止め、動揺から戻り開けているエルルクを尻目に飛び降りる。もっとたくさんの人間の命を奪い、いつかあいつも殺すと胸に誓って。


「彼女に見せる『万象の瞳』」

「彼女の支配を『万魔の口』」


 ヴェロニカも使っていた能力の同時使用。体に掛かる負担は大きく長くはもたないだろうが、その代わりとして見える世界が変化する。

 …これがヴェロニカが見ていた世界か、と思う。魔力や空気の流れがはっきりと見え、どうすればどのような結果が起こるのか直感的にわかる視界。適性がなく使えない属性系魔法もこの状態なら行使できそうだ。


 光を操り姿を隠し、風を起こして体に纏わせ移動する。あっという間に加速した体はエルルクの追跡を振り切り見える景色は目まぐるしく変わっていって、そして能力の発動限界を感じ木の上に着陸した。

 たどり着いたのはどことも知れぬ森の中。着陸する前にちらりと見えた街はそこまで離れていないはずだが、今はとりあえず少し休みたかった。


「これ…強いけどあまり実戦では使えそうにないな…」



 =====================================


【今回の殺害人数】

 0人


【total】

 357人

次もできるだけ早く書いていきたい気持ちだけはいつも持ってます。

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