神託騎士エルルク
本当は一昨日までに更新したかった…
気が付くとダンジョンの出口に立っていた。
…いや、そうだ。ダンジョンをクリアした後ワーデンにここまで連れられたんだっけか。
周りを見渡す。
近くにワーデンはおらず、いるのは足元で顔を洗っているグラだけだった。そういえばワーデンは俺をここに送った後すぐ引っ込んでしまったことを思い出す。
学園からの脱出が可能になった今、長居することは得策ではないしすぐにでも脱出することにしよう。
そうして歩き出したとき、離れた場所に誰かが立っているのが見えた。
どうせもうここを出るんだから何人か殺しておこうか。
そう思った瞬間、声が聞こえた。そしてそれは前に立つ男のものだった。
「僕は神託騎士エルルク。悪魔クリューエル、速やかに投降すれば殺しはしない」
「は?」
神託騎士?ここで?そんなに数はいないって言ってなかったかハオスのやつ!それなのに…いや、ヴェロニカが呼んだと考えたらつじつまがあう。
だがそれにしたってこの状況で戦うのは…。
「だがもし、抵抗や逃亡する意思がある場合…」
ーーパチン
「残念ながら殺してしまう可能性があるためあまりお勧めはできないな」
それは、指を鳴らした音だった。
その音に反応するようにして、ずぼっという音とともに"人間が生えた"。
まるで植物が芽を出すように、そうやって何人もの男が生えてきて、そしてそれらは同じ顔をしていた。
まず確実に神託騎士のユニークスキル。単純に考えると自分の分身を作るスキルだろうが…それにしたって数が多すぎる。
とりあえずグラには離れててもらおうと考えたところで足元を見ると既にいなくなっていた。どうやらもう逃げていたらしい。
「あいつ…まあいい。とりあえず逃げたいが…一回殴ってみるか」
あいつが学園から出る条件を満たしているのかはわからないが、もし最近ベルに呼ばれてきたのであればまだ卒業条件を満たしていない可能性が高い。
「まずは一つ!」
ナイフを作り『超強化』を使いつつとりあえず一番近くにいるやつの頭を撥ねる。
少し重い手ごたえと、ぽーんと吹き飛ぶ頭。だがそこに本来噴き出すはずの血はなかった。
「これは…植物?」
頭のあった場所を見るとそこにあるのは肉ではなく、何らかの植物の断面であった。
そして吹き飛ばされた頭は枯れるように消え、頭を失った首から生えた蔦が、葉が、男の顔を模った。
「嘘だろ…」
「攻撃的だね。でもこれであきらめるつもりになったかな?」
相手の能力についてはまだよくはわからないが、少なくとも植物で自分の分身を生み出すことができ、さらにその分身はすぐに再生するということは分かった。これで時間制限とかがあればいいんだが…おそらく期待はできないだろう。そうじゃなきゃさすがに開幕直後にこんなことはしないはずだ。
つまり、まともに範囲攻撃を持っていない俺にできるのはひたすら逃げて外に出ることだけだった。
…なんでこうも相性が悪いかな!
倒すことはあきらめ、一番数が少なく見える方向へ飛び出した。とりあえずこの包囲を抜けてしまえばあとは壁に着くまで走り抜けるだけだ。
だがすぐにこの考えに後悔することになる。
「まあそうするだろうと思ってたよ。その身を糧に『神樹の躰』」
その言葉とともにたくさんあった男の分身、それらすべてが解け植物としての姿を現した。それと同時に広がり、絡み合い、上へと延びていく。
おそらく外から見ると一本の大きな木に見えるのだろう。先ほどまで緑色の蔦だったものが木の皮のように固く変質していく。そうしてできた空間は俺を捉えて逃がさないための檻だった。壁は厚く切りつけてもすぐに再生し、天井はないがそこから出るのは容易ではない程の高さを持っている。現状の手札で脱出できる方法は強化した身体能力にものを言わせて壁を駆け上がるぐらいだろうが…それを許してくれることはないだろう。
檻の中、結構広いその中心に男が立っている。
「さて、これで逃げられなくなったわけだけど」
男は素手だった。油断している、というよりは武器を持つ必要がないと考えるのが自然だろうか。
「とりあえず、話をしようか。日中貴文。君はなぜこんなことをしている?」
「は?いや、なんで…」
「僕の知っている君はそんなことをするような人ではなかったはずだ。人を傷つけ、ましてや殺すだなんて」
男、エルルクが口にしたのは前世の自分の名前だった。ここに転生させたハオスと俺しか知らない、知っているはずのない名前。それをどうしてこいつは知っているのだろうか。それも、初対面のこいつが。
「ああ、どうやって名前を知ったのか気になったのかな?」
エルルクは動かない。こちらを見てはいるが動きに全く反応する様子のないまま一方的に話し続けていた。
「ヴェロニカがいただろう?君がついさっき殺した相手だけど。君の名前は彼女のスキルで知ったんだけどね、驚いたことに聞き覚えのある名前だったんだよ」
「僕の前世である山内陽影は彼と友人だった。親友だった…といいたいところだけど向こうはどう思ってたのかな」
「でも僕の知っているそいつはそんなことをするようなやつじゃない。そう断言できるし、普通だったら僕も偶然名前が同じだけの別人だと結論付けたはずだ。…勇者があの女でなかったなら」
「だってそうだろう?勇者なんて極論誰でもいいはずなんだ。誰であってもスキルを貰えばある程度以上に戦えるようになるんだから。僕ら神託騎士みたいに」
「それでもあいつが選ばれたってことは何か理由があるはず。そして、君が僕の知っている日中貴文であれば理由として十分だ」
「もう一度聞くよ。なんで君はこんなことをしているんだい?」
エルルクはこちらをじっと見つめている。その目は何か確信しているような強い瞳で、きっと彼の言うことは正しいのだろうと思わせるようなものだった。
…彼の言う名前に一切聞き覚えがない、という事実がなければだが。
「悪いけど、たぶん君の想像は的外れだよ。君の知ってる人とはただ同姓同名ってだけの別人だろうね。私は君の前世の名前に一切聞き覚えがないし、前世のころからこんなことをするような人間だよ。未遂だったけどね」
さて、ここまで長々と話を聞いていた俺だが別に何もしていなかったわけではない。こうやってエルルクと二人きり閉じ込められたわけだが、それは逆にさっきまで大量にいた分身が消えたということだ。今ここにいるあいつが本体である可能性は…まあ低いだろうが、わざわざ一体だけあそこに、中心部に残しているのには何か理由があってもおかしくない。
例えば…この檻の核としての役割、とか。どちらにしても脱出するにはあいつは邪魔だ。
さっきまでの大量に囲まれた状態ならともかく一体だけなら何とかなるだろう。さすがに切り刻んでしまえば再生も難しいだろうし、最悪『生活魔法』で燃やせるぐらいまで細かくしてしまえばいい。
「まあ人違いってことであきらめてくれないかなっ!」
地中を通して背後に移動させた血液武器による奇襲と同時に斬りかかる。まあいつも通りの不意打ちである。直前の俺の発言に動揺していたのか反応が遅れたエルルクは首、手足と切り落とされ倒れ伏したが、当然のようにそこに血も骨もなく、蔦が絡み合い切り落とされた部位が接着されていく。
「予想はしてたけどその状態からでも再生するわけ?」
「まあこの体は特別製だしね。…もういいや。君が本当に別人かどうかも後で調べればいいか」
「だからそれは人違いだって…」
「その話はあとでするよ。しばらくお休み。眠れるほど心の余裕があればだけど」
パンっと手が鳴らされる。それと同時に勢いよく収縮した植物の檻が人一人分…俺の体ピッタリなスペースだけを残して固まった。一切の身動きが取れないのになぜか呼吸は問題なくできるという不思議な感覚だった。
「君の持つユニークスキルに炎系のものがないのは分かってる。だからこの『神樹の躰』からは抜け出せない。君の負けだよ」
淡々と告げられる声と運ばれるような感覚。
幸運なことに持っていた血液武器も一緒だが、押し広げようとしても手ごたえがなく体が一切動かせないこの状況だとあまり意味はないようだった。火傷覚悟で『生活魔法』を使い起こした火も一切燃え広がる気配がなく、ただこちらがダメージを負っただけに終わった。
つまり、あいつの言葉通り現状持っているスキルで対応する手段がない。
完全に詰みだった。
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【今回の殺害人数】
0人
【total】
357人
次もできるだけ早く更新したいなーできるかなー
あ、誤字報告や感想などはいつでもお待ちしてます。自業自得だけど間隔空いてるせいで矛盾点出てきてそう…




