【番外?】余計なスパイス
遅くなりました!
明るい部屋の中、そこにはホログラムで映された男とクリューエルがいる。
発明の悪魔のコピーを名乗るホログラムはクリューエルが何も言わないままでいるのを見て話を続けた。
「君の名前は確か…クリューエルだったかな。君がどうして悪魔になったかは知らない。だが、きっとこの世界に来る前に会った男がいたはずだ」
「うん、クリューエルとしてこの世界に来る前に確かに話したね」
クリューエルは笑みを浮かべながら答える。その笑みは普段のクリューエルのものとは少し違っていたが、それに気づく者はこの場所にはいなかった。
「その男だ。その男は絶対に信用したらだめだ。あいつは…俺たち、正確には俺のオリジナルだが、悪魔としてここに送ったやつのことを玩具としか見ていない!!」
「それは大変だ!一体君、いや、君のオリジナルはどんなことをされたっていうんだい?」
「…お前、ちょっとノリが軽くないか?…まあいい。オリジナルに起こったことを聞けば大体理解できるだろうさ」
クリューエルは変わらず笑みを浮かべている。表情が変わらないクリューエルとは対照的に発明の悪魔のコピーは表情豊かに彼のオリジナルが悪魔としてこの世界でどのように生きたのか語り始めた。
「オリジナル…いちいち言うのが面倒だな。もう俺ってことでいいだろう。オリジナルが死ぬまでの記憶は全て持っているわけだしな。」
「俺は日本で死んだあと、"僕が転生を担当する神だ”なんて言ってくる胡散臭い男にのせられるままにこの世界に降り立った。俺は魔法の道具を作ってみたかったからそういうことをできるスキルを貰ったあと、目を覚ましたのは何もない草原だった」
当時のことを思い出しているのか発明の悪魔のコピーは苦い顔をしている。
「本当に草ぐらいしかなくてな。しかも所持品も来ている服ぐらいで食料もない。スキルの使い方だけは理解していたが材料がないと何もできないと思いこんでいたからあてもなく歩き続けるしかなかった」
「そうして一日歩き続けたが人影もなく水場も見つからない。草は地味に長くて歩きにくいし、もうやけになっていた。…で、ここの草全部人里の方向に倒れてくれ!って叫んだのが初めてスキルを使った瞬間だ。体から何か力がごっそり抜ける感覚のあと周りの草がある一方を指すように倒れて、それに沿って行ったら何とか町に着いた。後で調べたら服が『一番近くにある人が一定数集まっている場所に向けて草を倒す』魔道具になっていたことがわかったよ」
「で、そこの町で俺は魔道具を…普通の人が作り出すことのできない魔道具を作って生計を立てた」
「最初は買ってくれる人がいなかったけど一つ売れればそこからは早かった。もともと魔道具を作っていたとことの衝突もあったけどそれも何とか解決して、貴族にも気に入られて、そして恋人もできた。前世じゃ考えられないぐらい順調で幸せだったんだ」
それまで懐かしい過去を思い出すように話していた男の顔がゆがむ。そこにあるのは憎しみと怒りだった。
「…俺が町に住んで一年ぐらい経ったころ、不審死が相次いで発生した」
「突如倒れて衰弱死する症状。原因はわからず、突如発生した奇病か、未知の毒物か。闇ギルドのやつらが無差別に殺しまわっている。世界の終わりの前触れ。邪教の儀式の生贄。そもそもそんな事件は存在しない。…とまあ多くの噂が飛び交った。そして、その噂の一つに、俺の魔道具が命を吸い取っている、というものがあったんだ」
「最初はただの噂の一つだとして気にも留めていなかった。そういう悪評を広められることは少なくなかったし、今回もその類だと思っていた」
コピーはホログラムでなければ血が出ているぐらいに手を握りしめている。クリューエルは少し退屈な顔をして爪をいじっていた。
「…妻が倒れた。どんな魔道具を作っても完全には回復せず、そうしているうちに友人や顧客のほとんどが倒れていって、俺は最後の手段に出た」
「転生するときに会ったあの男は、一度だけどうしても困ったときに教会で祈れば助けてやると言っていた。今思えば最初から全部あいつの掌の上だったんだろうな」
「転生するときにいた空間に意識だけ飛ばされた俺はこの事態の原因と解決策を尋ねた」
ホログラムにノイズが走る。
「解決策なんてなかった。原因は全て俺だった。そもそも転生するべきではなかった。スキルを使うべきではなかった。便利な、便利すぎる力に頼ったことが間違いだった。…あいつを一瞬でも信用するべきではなかった」
「あいつは、あの神と自称したあいつは、懇切丁寧に衰弱死の原因と解決方法を語ってくれたよ」
ーー衰弱死の原因かい?ああ、それは君のスキルだよ。君の作る魔道具は使用者の命をエネルギーとして作動して、ほんの少しずつ作成者に使用者の魂を還元していくものだからね。一度起動したら使用しなくても削られるけど、まあ一つの魔道具で全部魂を回収するには十五年ぐらいかかるかな。複数個使用したらその分削れるのも早くなるけど。
ーーどうしたら倒れた人を治せるかって?そんな方法はないよ。だってもう契約は済んじゃってるんだから。魂を対価に便利を得る。等価交換としてはまあ成り立つんじゃない?…まあまあそう怒らないでよ。別に騙したりはしてないでしょ?
ーーああ、生き返らせる魔道具は作れるんじゃないかな?現実的に考えてそれができるのは一人だけだろうけどね。
ノイズがさらに激しくなる。ホログラムはもはや原形を保っていなかった。
「意識が戻った後蘇生の魔道具を作ったよ。…百人、それが蘇生に必要な命の数だった。生き返らせるのに百人、それから命を保つために一日一人の命を奪う必要があることを理解した」
「でも、できなかった」
「いくら妻が生きるためでもそれだけの命を奪う決心はつかなかった。それに、そうやって生き返った妻が悲しむだろうことは容易に想像がついた」
「そして妻が死んだ」
ノイズが治まる。人の形を保っていなかったホログラムは元の姿を取り戻し、何事もなかったように話は続く。
「それがきっかけだったのか、スキルが成長した。素材が魔力で代用できるようになり、より大規模なものが作れるようになって、それでこの施設を作った」
「魂を吸い取らないように設定して、あいつから覗かれないよう外部の干渉をカットして、そうやってミラク魔法学院とこのダンジョンを造り、あいつを殺すための方法を求めた」
「そのころには発明の悪魔として呼ばれていたけど、ダミーを作って逃げ回らせることで邪魔が入らないようにして…」
ーーねえ。
声が差し込まれる。クリューエルはいつの間にか壁によりかかり、うんざりとした顔をしてコピーを見ていた。
「なんだ。話はまだ…」
「話が長いよ。聞いててうんざりする。つまらない」
「なっ!俺は忠告を…!」
「いらないんだよね」
クリューエル、いや、クリューエルの体を動かすナニカはそう言うと壁を破壊した。
「なっ!?」
「せっかく面白そうなものが残ってるから寄り道してみたのにこんなつまらないとはがっかりだ。君のオリジナルもさぞかし悲しんでることだろうね」
「まさか…貴様…!いや!ありえない!外部からの干渉は!特に貴様からの干渉は排除するようになっているはず…」
壁が壊れ、その先にあるものも少しずつ、クリューエルの手から出る黒弾で破壊されていく。
「仕組みさえ分かっていれば介入できるに決まってるでしょ?君のオリジナルのスキルはもう僕のものなんだから」
「貴様!まさか…」
「貴様とかじゃなくてちゃんと名前で呼んでよ。ああそういえば、僕の名前を聞いたのはオリジナルだけだったね」
壁がなくなって物理的に広くなった部屋の中、動いているのはクリューエルの身体とホログラムだけだった。クリューエルの右手がホログラムに向けられる。
「僕のことはぜひハオスと呼んでほしいな。今はそう名乗ることにしてる。君はともかくこの魔法学院はそう悪いものでもなかったよ。でも…」
ーー君の話は必要ないんだよね。
そうして発明の悪魔のコピーは跡形もなく消え去った。
◇
壊した部屋を再構築しながらハオスはつぶやく。
「さて、ダンジョンをクリアしたクリューエルはエレベーターに乗り、外で待ち構える神託騎士と戦いを始める。そういう流れにしようかな。消す記憶は少しだけだし最初の時ほど違和感はのこらないだろう」
ハオスは頭を触って記憶をいじる。この力はいつ手に入れたものだっただろうかと考えながら。
ハオスの力の本質は食べることだ。食事によって相手の力を取り込む力。
彼の喰らう対象はその血肉にとどまらず、魂さえも捕食する。
味のいい素材を育て、調理し、頂く。
ペロリと舌なめずりをし、クリューエルは地上へと向かっていった。
9月中にできるだけ更新していきたいな…できるかな…




