VS十階層
二話連続更新です。
一階層から九階層の守護者の間まで走って通り抜けていく。昨日一度通ったので今回は道を間違えることもなく、ノンストップで十階層の扉の手前まで辿り着いた。
「ずっと走ってきたしここで少し休憩しようか」
「そうだね。ここからが本番だし」
ほんの少し切れた息を整える。十分ほど休憩したあと、俺たちは扉の前に並び立った。
「それじゃあ行こう!準備はいい?」
「うん。…じゃあ開けるね」
扉を開けて中に入る。とうとうダンジョンの最奥、最高難度の最下層に到達した…いや、これからが本番か。
俺が入った後からついてくるようにベルも続く。
ベルの体が完全に十階層に入った瞬間、
ーーガタンッ
という音を立てて、今まさに潜り抜けた扉が消失した。
「えっ!」
驚いて後ろを振り返る俺の横をベルが走り抜ける。十メートルほど離れたところで止まってこちらを振り向いた。
「ベル?いったい…」
「さっき!後で話ししようっていったよね?」
「そうだけど…攻略した後でしょ?それよりも…」
ベルの方を見る。彼女は杖を引き抜きながらこちらをじっと見据えていた。
「単刀直入に聞くわ」
先端が俺の、クリューエルの体に向けられる。
「クーは、いや、クリューエル。あなたは悪魔ですね?」
「なっ…!なんでそう思ったの?」
ベル、いや、ヴェロニカはこちらから一切視線を外さずに何かをつぶやいた。
ーどうしてバレた!?
悪魔だとバレる理由がわからない。そもそも、この町に来てから誰も殺していないんだ。前の町で俺の姿を見た人は全員死んでいる。それなのになんで断言できる?いや、かまをかけているのか…?そうだとしたらまだ誤魔化せるかもしれない…!
「いいから答えて!あなたが悪魔だよね?」
「そ、そんなわけないでしょ?急にどうしちゃったの…?」
ヴェロニカが攻撃してきても対応できるよう注意を向ける。周りにはゴーレムはいない。つまりここで戦ったら一対一だ。途中で邪魔が入るとしてもベルのスキルには時間制限がある分こちらが有利か?
「そう…嘘か。じゃあ本当にクリューエルは悪魔なんだね」
「…嘘を見破るスキルでも使った?」
「そうだよ。そして、あなたが悪魔である以上見逃すことは出来ません。」
ヴェロニカが一歩後ろに下がる。するとヴェロニカの後ろから二メートルはありそうなゴーレムが二体、壁からせり出してきた。
「私は神託騎士ヴェロニカ。正義のためにここであなたを捕縛します」
「なっ!神託騎士!?」
ヴェロニカの後ろのゴーレムが動き出す。ゴーレムはヴェロニカをロックオンしているため、この状況は実質一対三。
「なんでこんな場所で挑んだのかは知らないけど利用させてもらう!悪魔としてお前を殺すよ!」
血の手甲を左手に纏わせナイフを握る。今が好機であるのは間違いない。彼女の胸に爪を突き立てるために飛び出した。
「理由は今から教えてあげる。全てを見せて『万象の瞳』。それと…」
「支配の言葉を『万魔の口』」
「私が主だ。動くな。跪け」
とたん、体に重りが付けられたかのように動きが鈍る。
いや、これは…
「強化魔法が解けてる?」
「正解」
ヴェロニカの方を見る。そこには先ほどまで攻撃しようとしていたゴーレムが、ヴェロニカを守るように前に出ているところだった。さらに、その後ろから新しいゴーレムが沸いてくるのも見える。
「『万魔の口』はね、本来は自然に漂う魔力を利用するスキルなんだ。それによってノーコストで魔法が使える」
「でも、『万象の瞳』と組み合わせれば違う使い方ができるんだよ」
「この階層に出てくるゴーレムはすべて私の支配下に置ける」
「私が倒れるのが先か、あなたがゴーレムに押しつぶされるのが先か、競争だね」
彼女がそういうと先に現れた二体のゴーレムがこちらへ襲い掛かってきた。
現状確認。
敵、ゴーレム複数。なお時間経過で増加する模様。スキルには時間制限あり。
自分、強化が無効化されている。血液が無力化されてないのは幸運だった。
場所、袋小路。唯一の脱出路はヴェロニカが封鎖中。
「なるほどな…」
なんて無理ゲーだよ。救いは時間制限があることか。
試験のときに言っていたスキルの効果時間は三分。スキルさえ使えなくなったら勝ち目があるからそれまで逃げ続ける必要が…待て。
「…戦闘不能になったら外に連れ出されるんだったっけ?」
「あれ?気づいちゃった?そうだよ。もし効果時間が切れるまで逃げ切って、私がゴーレムに倒されても私はダンジョンのシステムによって外に排出される。それに、外には私の仲間が待機してるから。あなたは絶対逃げられないよ」
「そうか。…じゃあ目標変更」
逃げ回るのでなく攻撃を、後退ではなく前進を。彼女の血で祝杯をあげよう。それはきっと気持ちがいい。
風を切りながら迫ってくる腕を跳んで躱す。強化を掛けなおしたが一瞬で解除されてしまった。躱す、躱す、躱す。後から現れた二体が攻撃に参加していないため何とか捌ききれているが、さらに敵が追加されればジリ貧になってやられてしまうだろう。
ーーしかし、なぜだ。なんで、血液操作は解除されない?
振り回される腕をスレスレで回避し、左手の爪で切りつける。しかしゴーレムの表面には軽く傷がついたぐらいでびくともしない。
考えろ。強化魔法と血液操作の違いはなんだ。どちらも同じ魔法だ。干渉ができないわけではないはず。両者の違い、「特殊系魔法の特殊性」…いや、これは関係ない!そこではないけど近いところで…あっ。
一瞬動きが止まったところを殴られて吹き飛ばされる。なんとか左手でガードできたためダメージを抑えられたが多少動きは鈍るだろう。しかし、そんなことはどうでもいい。どうせ少しすれば治る。
「そろそろ終わりかな。ゴーレム、気絶させて」
気付いた。強化魔法と血液操作の違い。それに、強化を無効化された時の感覚、これは今日の午前中何度も経験したものだった。
「それは…どうかな?」
左手に回さず残しておいた血液を、相手に見えるように操作する。すると、血液は不格好な形で固まった。
「無駄だよ。私のスキルが発動している限り血液の操作もさせない」
「それがわかれば十分だよ」
ゴーレムの陰に隠れて視線を切る。そして強化魔法を発動させた。今日読んだ本、「より強力な強化魔法について」。そこにあった魔法を成功させる。さっきまでの不完全なものではなく、完璧なもの、魔法名は確か最後にこうあった。
「『超強化』」
「なっ!まさか!」
目の前のゴーレムを二体まとめて吹き飛ばす。ヴェロニカがこちらを見つめるが、体に掛かった強化が切れることはなかった。
「その魔法、いつ知ったの?そんな暇はなかったし、習得する時間もなかったと思うんだけど」
「今日の朝だよ。使えるようになったのは今だけど」
「やっぱり天才だね、クーは…」
おそらく、ヴェロニカは他人の魔力を固定できるのだろう。循環を中途半端に止められた強化魔法はそれによって効果を失うが、俺が操作する血液は既に籠手として固定していたため効果を及ぼさなかったというわけだ。
それに気づいたのならあとは早い。強化魔法を血液操作のように固定させる。もっとも、それでちゃんと効果を発揮するかは賭けだったが。
「でも、これで、届く」
さっき吹き飛ばしたゴーレムは何事もなかったかのように起き上がっているが、倒せないにしてもゴーレムを吹き飛ばせるだけの力があることは確認できた。また新しく二体増えているが問題ない。走って斬って殺す。
「ふっ!」
地面を蹴って飛び出す。向こうも決着をつけるつもりなのか、六体全てのゴーレムがこちらへ向かっていた。
それに加えて大量の氷の槍、それが俺の全方位を取り囲むように発射される。
ーーガガッ、ドゴッ、ズガァン
躱せるものは躱し、ゴーレムを盾にし、それでも躱しきれないものは破壊する。壊しても躱してもいくらでも沸いてくる氷の槍に少しずつ傷が増えていくが問題ない。浅い傷は『超回復』で治っていくし、折れた骨は『回復魔法』でくっつく。
しかし、近づけない。ヴェロニカが経っているところにゴーレムを飛ばしても氷の壁で防がれてしまう。
「危なっ!」
顔の真ん前に氷の槍が生まれる。不意打ちのように生み出される槍も攻めあぐねる理由となっていた。
ヴェロニカの顔を見る。その顔は目や口から流れる血で赤く染まっていた。
槍を弾く、腕を振るう。身体を前へ、あと二メートル。
ーー戦いの終わりは近い
=====================================
【今回の殺害人数】
0人
【total】
356人
【獲得スキル】
『超強化』
すぐに続き投稿します。




