新たな知見
有限実行!
次の日、体に疲れが残っていないことを確認しながら目を覚ました。睡眠の必要がなくなってから、眠ると体力が回復しやすくなっているような気がする。
ベルのベッドを見ると丁度向こうも目が覚めた様子だった。
「おはよう。今日は頑張ろうね、ベル」
「…うん。私も頑張るよ」
ベルも少し緊張しているのか表情が硬い。不思議な話だ。この攻略が成功してもしなくても彼女は何の問題もないのに。それともあれだろうか、ダンジョンをクリアすれば俺と別れることになる。それが寂しいのだろうか。
「ベルは別に頑張らなくてもいいでしょー」
「ふふっ、そうだね。…きっと大丈夫だよね」
「朝ごはん食べたらすぐ向かおうと思ってるけどそれでもいい?」
「ちょっと待って。昨日の招集でちょっと用事ができたから昼からでもいいかな?」
これからダンジョンを踏破するというのに何とも幸先の悪いことだが、まあ、仕事なら仕方がない。
「わかったよ。それじゃあ…図書館にでも行っておこうかな」
「…図書館に行くなら物語読むのがおすすめだよ!たくさんあるから!」
「そうなの?じゃあ面白い話を見つけたらベルにも教えてあげるね」
話すのと並行して出発する準備を進めていく。最終的な計画は食堂で昼食を軽く摂ったあとダンジョンに向かい攻略するというものになった。
「あれ?ベルって杖使うの?」
「うん。今回は何が起こるかわからないしね。一応の備えってやつだよ」
ベルが見覚えのない装備を身に着けていたので尋ねる。杖は魔法の補助として使うらしい。杖があるのとないのじゃ魔法の遠隔操作などのしやすさが段違いなんだとか。お互いに準備を整え、身だしなみをチェックして部屋を出る。攻略後のことを考えて所持品をまとめようと考えていたが、そもそもまとめる所持品がないことに気付いたのは余談である。
◇
朝食を摂り、ベルと別れて図書館へ向かった。中に入ると人があまりいる様子がなく、検索機の前にも誰もいなかったため、一番近くの検索機を利用する。
ベルのおすすめ通りに物語を検索しようと思ったが、ふと思う。
ーーそういえば魔法に関しての本もベルがおすすめした三冊しか見てないな。
せっかく魔法学院に入ったのに魔法に関する本をほとんど読まずに出るのはもったいない気がする。一度そう考えるとその気持ちが大きくなったため、物語ジャンルを検索しようとしていたのをキャンセルし、強化系魔法と特殊計魔法について検索する。
その中で目に付いたのはこの二冊、「より強力な強化魔法について」と「特殊系魔法の特殊性」という本だった。
この二冊をレンタルして訓練場に向かう。この本に書いてある魔法が使えそうなものだったら試せるし、そうじゃなくても準備運動として動けるからちょうどいいだろう。
貸し切り状態の訓練場の真ん中に座り込み、本を開く。まず読むのは「より強力な強化魔法について」だ。関係なさそうな前書きは流し読みして大事そうな部分を探す。そして、ちょうど半分ぐらい読み進めたころそれは見つかった。
「”理想的な強化魔法の原理”…これかな」
強化系魔法は強化したい部位に魔力を纏わせ、その中で循環させることによって効果を発揮する。しかし、この本によると、纏わせた魔力を循環させた後に”止める”。これによって効果が何倍にも上がるらしい。
「試しにやってみるか…」
とりあえず試してみたが、なかなかこれが難しい。纏わせた状態で固定するというのはできるが、循環している状態のまま止めるというのがなかなかうまくいかない。例えるなら、ストロー中で水を動かさずに留め続けておくようなもの。少し力加減を間違えただけで失敗してしまうのだ。
しかし、しばらく練習していると、完ぺきとはいかないがある程度魔力の動きを止めることができるようになってきた。
大変な分効果は目を見張るものがあり、魔力の動きをほんの少し緩めるだけでも効果が二倍近くに上がったのだ。さらに、魔力の止め方が完璧に近い状態だと五倍以上は効果が上がっているように感じた。
ある程度できるようになったところで時間を確認して「特殊系魔法の特殊性」を開く。余裕があるわけではないが時間はまだある。こちらの本にはあまり期待していないので、面白い話であればいいなと最初から読み始めた。
「なになに…”特殊系魔法は異常である”と」
なかなか面白い書き出しだった。これは期待が出来そうだと読み進める。
ーー特殊系魔法は世界に広がった染み、あるいは呪いである。
ーー特殊系魔法の存在が確認できるのはここ八百年前間の文献のみであり、それ以前には一切その存在が現れないのだ。
ーー八百年前、それは誰もが知るであろうあの事件、『勇者の大量召喚』と『邪神の誕生』が起こった頃だ。
ーー結論を先に書こう。特殊系魔法に必要なものは邪神との繋がりであり、それすなわち邪神の加護である。
ーー特殊系魔法を使ってはならない。使わせてはならない。
ーー何かを操るということは自らもまた操られる危険があるということだ。
◇
「お待たせ―」
「私もちょうどこっちに来たところだよ!」
読み終わった頃にはもう時間ギリギリになっていたため急いで食堂へ向かうとそこにはすでにベルがいた。
「ちょっと面白い本に夢中になっちゃってね」
「へぇー。なんて本なの?」
「んー、秘密」
ベルはいじわるーと言って笑っている。別にどんな本を読んでいたからといって何の問題があるわけではないし、魔法についての本を読んでいたと伝えればいいはずだが、どうしてか言わないほうがいい気がした。
「昼は軽めにしておこっか。これから動き回るわけだし」
「そうだね。ここの昼は初めて食べるけど全部セットメニューなんだ」
「そういえばクーはここで昼を食べるの初めてだっけ。ずっとダンジョンで食べてたもんね」
この学院に入ってからはずっと…といっても今日含めて三日ぐらいしかいないが…日中はダンジョンにいたためここで昼食を摂るのは初めてだった。朝はビュッフェ、夜はファミレスになるここの食堂は昼には定食屋になるらしい。
一番おいしそうに感じたB定食を注文しテうけとり、席につく。ちなみに注文の際に量も選べるので「少なめ」にしておいた。
「これを食べたらとうとうだね」
ベルが言う。
「私は絶対攻略するから。ねぇベル、攻略が終わったら少し話をしない?」
短かった上に学校って感じはあまりしなかったが、学院生活ももう終わりだと思うと感慨深い気分になる。
いつもより早いペースでお互いに食べ進めていく。
俺より少しだけ早く食べ終わったベルはスプーンを置いて言った。
「うん。私からも後で…話したいことがあるの」
食べ終わったプレートを片付けダンジョンへ向かう。
緊張からかお互い一言もしゃべらず歩いていく。
ーーミラク魔法学院学内ダンジョン、踏破開始。
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【今回の殺害人数】
0人
【total】
356人
バトルシーンまでたどり着かなかった…




