ダンジョンアタック
怒涛の?連続投稿?です
睡眠の必要がなくても寝落ちはするんだなと思いながら目覚めると、向かいのベッドにはすやすやと眠るベルの姿があった。服に生活魔法をかけて立ち上がるとメモが置かれていることに気付く。そこには、「気持ちよさそうに寝てたから起こさないであげたよ!すぐ戻るって言ったのに眠っちゃうなんてひどい!」という文章と、奇妙な絵が描かれていた。
「なにこれ…人?」
どうやらベルは絵が得意ではないらしい。メモを折りたたんでポケットにしまうと同時に昨日の授業について思い出す。
「そういえば授業うけてなくない?…ちょっと!ベル起きて!」
「んぅ…なに…おはよ、クー」
慌ててベルを叩き起こす。少し申し訳ない気持ちはあるがしょうがない。
寝ぼけ眼をこすりながらどうしたのかと尋ねるベルに、俺は昨日受けるはずだった授業について尋ねた。
「昨日受けるはずだった授業!あれってどうなったの?もしかして無断欠席!?怒られたりする!?」
「もーっ落ち着いてって。授業ならちゃんと受けてたでしょ?」
「え?」
「昨日ダンジョンに潜ったじゃん」
「でも先生とか…」
俺がそういうとベルは自身の顔を指差した。
「私、先生」
「そういうことじゃなくて本当の先生ってことで…」
「そうじゃなくて!私先生だよ!クーの担当教官としてちゃんと申請してるから!」
「は?」
つまりはこういうことらしい。この学園での戦闘訓練には二種類あって、教官が希望者複数名をまとめて指導するものと、学園に指導可能として認められた生徒を担当教官として仰ぐもの。どちらにしても卒業要件には影響しないので好きなほうを選んでいいのだとか。
「でもそんな申請してないよ?」
「あれ?言ってなかったっけ?もう私が提出しちゃってるけど」
「聞いてないよ!」
「先生って呼んでくれたしもう説明したものと思ってたよ~いや~うっかりうっかり」
ベルが笑いながら、ごめんごめんと両手を合わせてウインクをした。こいつ…絶対反省してない。
しかし、俺は大人なので怒りたい気持ちをぐっとこらえて尋ねた。
「他になにか伝え忘れてることはないよね?」
「うん。たぶん大丈夫!…でもクーもちゃんとしないとだめだよ?これって入学したときに渡されるパンフレットに書いてあるんだから!」
言ってやったぞ!とでもいうような顔でベルが指をさす。入学したときに渡される…ね。自分は大人だが、さすがにもう怒ってもいいころだろう。
「パンフレットって、何?」
「もーしょうがないなぁ!私との試験が終わった後に渡して…わたして…たっけ?あれ?」
「貰ってないけど」
あれ?と言いながらベルは自分の机を漁り、一冊のパンフレットを取り出した。そしてゆっくりと、気まずそうにこちらを見る。うんうん、とりあえず冷静になろう。深呼吸深呼吸。
「何か言うことは?」
「ごめんなさい…」
その後、あばれ過ぎだとワーデンに注意されるまで俺とベルの追いかけっこが続いたのだった。…俺も怒られたことは解せないが。
◇
隣で平謝りしているベルを務めて無視しながらパンフレットを眺める。俺が調べたいのは二つ、卒業するにはどうしたらいいか、学園の外に出るにはどうしたらいいかである。この学園にいたら殺したいものも殺せない。それでは困るのだ。
ということで調べているわけだが、どうやら卒業するには二つしか方法がないらしい。
一つ目は魔法に関する論文を提出し、魔学院という機関に認められること。もう一つは、昨日も潜ったダンジョンの最奥、十階層に置かれているオーブを持って帰ることだという。現実的に考えて俺が取れる方法は後者のみである。さすがに一つ目の方法は時間がかかりすぎるが、その点ダンジョンなら昨日の時点で三階層まで行けたわけで、そこまで時間はかからないだろう。
次は学園から出る方法だが…どこにも記載がない。しょうがないからさっきから鬱陶しく頬をつついてくる彼女に尋ねるとしよう。
「もう許してあげるからさ、ベル、学園から出るのってどうしたらいいか教えてよ」
「え!許してくれるの!?やったーありがとう!」
全身で喜びを表しながら抱き着いてくるベルを引き離してもう一度尋ねる。
「それはもういいから。学園の外に出かけるにはどうしたらいいわけ?」
「えーとね、魔学院に論文を認められるかダンジョンの最下層に行くかじゃなかったかな」
「それは卒業のための条件でしょ?そうじゃなくて、学園の外に遊びに行くにはどうしたらいいかって話」
俺がそういうとベルは首をかしげる。しばらく考えた後納得したように手を打ち鳴らした。
「もしかしてクーって卒業まで学園から出られないって比喩みたいなものって思ってた?」
「あれって比喩とかじゃなくて本当にそうなの」
「卒業しない限りどんな手を使っても、何年経っても外には出られない閉じた場所」
「それがここ、ミラク魔法学院だよ?」
「だから学園の外に遊びに行くなんてことは卒業以外不可能なんだよ!」
なるほど…ベルの話を頭の中で整理する。つまりここは人を殺せず自由に出入りもできないという、人を殺して強くなるという性質を持ち、暗殺向きの戦闘スタイルである俺にとって天敵のような場所であるわけだ。それに、もし今俺が悪魔だとばれた場合、広いとはいえ町の三分の一程度の敷地で追いかけっこを繰り広げることになってしまう。それは…まずい。
「卒業要件さえ満たせばいつでも学園から出られるんだよね?」
「そうだよ。卒業要件を満たしたからと言って別にすぐ出なきゃいけないってわけでもないけど。もしかして、外で何か大事なこと残してきたの?」
「まあそんなところかな」
決定。取りあえず最優先目標は卒業要件の獲得、すなわちダンジョンのクリアである。それが終わったら適当に殺して脱出しよう。すぐに出ていくのなら顔がばれたとしてもそこまで問題はあるまい。ただ、卒業要件を満たしていて顔と名前を憶えているベルは…確実に殺す必要がある。
「というわけで、ちゃっちゃとダンジョンクリアしちゃうから!ベルもよろしくね!」
「うん。わかった。…外に、か。どうしよう」
ベルが最後につぶやいた言葉は俺の耳には届かなかった。
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【今回の殺害人数】
0人
【total】
356人
この調子で頑張るぞー!