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初めての…

 気がつくと俺は森の中に倒れていた。すぐそばには綺麗な湖がある。とりあえず俺は自分の状況を確かめることにした。


「これは…ワンピースか?あまり服については詳しくはないけどたぶんあってるはずだ。他には何か…」


 服装はさっきまで倒れてたせいか少し汚れた白いワンピース一枚だけ。今が暖かい季節なのかここが暑い地域なのかはわからないが、少なくともこんな薄着でも寒さを感じることはなかった。

 他には何かないかと思い体を弄ると、右の太腿にはナイフが収納されたホルダーが着いていることに気づく。


「これは...サバイバルナイフ?」 


 試しに取り出してみると、刃渡りが十七センチ程あるサバイバルナイフが出てきた。

 切れ味を確かめる為にも周りに生えていた草で試し切りをしてみるがなんの抵抗を感じる事もなく、面白いほど良く切れた。


「とりあえず武器としては問題なく使えそうだ」


 自分の装備を確認したところで少しの喉の渇きを感じ、すぐそばの湖に近づく。


「この水は…飲めそうだな」


 湖の水は底がよく見える程に透き通っていて、口に含むと仄かに甘さを感じる。満足するまで飲んだところで頭の中に声が響いてきた。


(聞こえるかい?僕は今君の心の中に直接語りかけているよ)

「その声はハオスか?」

(そうだよ。ある程度状況を確認したようだから補足説明といこうと思ってね。ちなみに口に出さなくても頭の中で考えれば伝わるからそこらへんは好きにしていいよ)

(こういうことか?…で、補足説明ってなんだ?)

(まずはその身体についてだね。実はその身体は身体能力が結構高くなっています。と言っても、平均的な成人男性より少し強いぐらいだけどね。その中でも跳躍力とか素早さは特に高い。…試しに全力でジャンプしてみてよ)

(ジャンプか?…いち、にっの、さん!…!?)


 言われるがままに跳躍してみると一瞬のうちに視界が高くなる。下を見てみると一メートルほどの高さになっていた。

 予想より遥かに高いジャンプ力に驚きバランスを崩したが、空中で一回転し少しよろめいたものの無事に着地することができた。


「ジャンプ力高すぎるだろ…」


 思わず独り言のように呟く。考えているよりも身体の力が強いようなので、体を動かしながら話を聞くことにした。


(まあだから出来るだけ早く慣れるようにね。君の予定しているであろうスタイル的に直接戦闘になったらあまり勝ち目はなさそうだけど、『勇者』に遭遇した時にそれじゃ逃げ切ることさえ出来ないだろうから)

(『勇者』って?)


 こういう話でよく聞く言葉が聞こえたためつい反応してしまう。しかし、自分のやろうとしていることから考えても確実に敵対するような相手だ。今尋ねたのは決して悪いことではないはずだろう。


(後から説明するつもりだったんだけど…。まあ先にしてもいいか。『勇者』は向こうの女神が僕に対抗する為に地球から引っ張ってくる人のことだよ。状況的には君みたいなものだね。魔物を倒すことによってレベルが上がって、レベルが上がることでもスキルを発現させるっていうやつらさ)

(普通はレベルが上がるだけじゃスキルは取れないのか?)

(そうだよ。レベルが上がることでスキルを得られるのは勇者だけの特権なんだ。君もレベルを上げるだけじゃスキルは習得出来ないよ)

(それじゃあどうやって習得するんだ?)

(それは実際にやってみながら説明するよ。あと五分ぐらいすると男が一人歩いてくるから、とりあえず殺してみて)

(わかった。殺し方はなんでもいいんだな?)

(うん。正面から襲いかかってもいいしそこの湖に沈めてもいいんじゃないかな。まあ好きなように)

(どっちから来るかとかはわかるか?)

(わかるけど教えない。だって教えたら簡単すぎるでしょ?)

(…なるほどな。その男は確実にここに来るんだろうな?)

(それは間違いないよ)


 そのあといくつかハオスから話を聞き、俺は男を待ち構え、湖の近くで眠っている振りをすることにした。



 眠った振りをしてから数十秒ぐらいした頃に、近くから草が揺れて擦れるような音が聞こえ出した。

 標的が来たのか確かめるために、顔を少し音がした方に向けると若い男がこちらの方に歩いて来るのが見える。


(あいつか…)


 男は俺に気づいたようで様子を伺いながらおそるおそる近付いてきた。


「…子供?」


 そして意識がないことに気がついたのか、


「おい、大丈夫か?」


 と体を揺さぶりながら声をかけてくる。

 二、三回ほど揺さぶられたところで俺は眠ったふりをやめて目を開ける。


「あ、目が覚めた。君、大丈夫か?」

「あなたは…?」

「僕の名前はウイギだよ。冒険者をやってるんだ。…と言っても駆けだしなんだけどね」


 男、ウイギは微笑みながら答える。見た感じでは気弱そうで、すぐに騙されてしまいそうな雰囲気をしていた。


「ウイギ…さん?」

「別にさん付けしなくてもいいよ。君の名前は?」

「名前…」


 答えようとして気づく、元の名前をそのまま使うとどう考えても怪しまれる。怪しまれないとしても疑問は感じるだろう。

 どう答えたものか迷っていると、頭の中にハオスの声が響いてきた。


(何も思いつかないなら『クリューエル』なんてどうかな?)


「大丈夫かい?」

「あ…すいません。ぼーっとしてました。私の名前は『クリューエル』です」


 しょうがないのでハオスが言った名前を使うことにした。向こうは急に黙った俺を心配そうに見ていたが俺が名前を言うと話を続けた。


「クリューエルちゃんか…もしかして君も薬草を摘みにきたのかな?」

「そ、そうです。…ウイギさんも?」


 ウイギは薬草を摘みにきていたようで、よく見ると腰には何かの草が入った袋が見えた。


「うん、そうだよ。魔物を倒せたらもっと簡単に稼げたんだけど、僕はそんなに強くはないからね。この剣は護身用さ。全く倒せないわけじゃないんだけど、あと一人ぐらいは仲間がいないと討伐系は危険だから」

「そうなんですか…」


 特に警戒している様子もなく喋ってくれるのであいづちをうって情報を引き出すのに専念する。


「ところで君はなんでここに倒れていたのか覚えているかい?もしかして魔物から逃げてきたとか?」

「…そ、そうなんです。急に襲われて…怪我はしなかったんですけど荷物も全部落としちゃって。なんとか逃げ切ったんですけど逃げ切ったと思って安心したら力が抜けちゃって…」


 適当にでっち上げた設定を言いながら様子を伺う。どうやら疑われなかったようで男は周りを見渡して、ギルドに伝えた方がいいかなぁと呟いている。


「それでここで倒れてた?」

「はい…」

「魔物の見た目はわかる?」


 わかる訳がない。とりあえずパニックになっていたせいで全然魔物の姿を覚えていないと答える。


「そうか…ここら辺だしやっぱり『山ゴブリン』かな。…君はこれから街に帰るだろう?よかったら送るよ」

「あ、ありがとうございます!」

「気にしないでいいさ。困った時はお互い様って言うだろう?」


と答えると男…ウイギは立ち上がりながら


「それじゃあ街に戻ろうか」


と言い元来た道の方を向く。


 そのまま歩き出そうと踏み出したウイギの左脚を、太腿から取り出したナイフで飛び込むようにして斬りつけた。

 ウイギは何かの革で出来た防具を身につけていたが、斬りつけた所はその防具が守っていない関節の部分。


「うぐっ!」


 ウイギは急に走った痛みに驚いたのか少し悲鳴を上げ、後ろに倒れそうになるが、受け身を取ろうと体を捻って両手をついた状態になる。

 それによってよく見えるようになった剣帯を切り落とし、ウイギの剣を奪ったところでウイギは痛みをこらえながらも驚いたような声で聞いてくる。


「クリューエルちゃん…?一体何を…」

「特に恨みがある訳じゃないけどお前を殺す。言いたい事があるならあの世ででも言ったらいいよ」


 そう言って俺はウイギの首にナイフを滑らせた。

 少しの手ごたえの後、手や足に暖かい液体がかかる。

 ウイギは血を止めようとしたのか首元に手を当て、声にならない声を上げていた。


 このままでもすぐに死ぬだろうが、このナイフの切れ味を確かめるため、何よりももっと斬ってみたかったので、ナイフを振り上げウイギの左手首に軽く振り下ろす。

 ナイフは肉を簡単に切り裂いたが、ガリッという音とともに止められてしまった。恐らく骨は簡単には切れないということだろう。よくよく考えてみれば当たり前だ。

 俺は少し考え、ナイフをそのまま押し込んでみることにした。喉を斬った時よりも明らかにゆっくりだが刃が沈んでいくのがわかる。

 骨も斬れることがわかったので、力いっぱいナイフを押し込む。すると急に抵抗がなくなり、勢いそのままにウイギの体に突っ込んでしまう。

 トスッという何かが落ちる音が聞こえそちらをみると、綺麗に切断された手が落ちている。

 無事切断出来たことを確認し、ウイギの腹からナイフを抜き取ると彼がもう死んでいることに気づく。


(初めて…人を殺した…)


 俺は初めて人を殺したことによる罪悪感など全く感じなかった。感じたのは今までに味わったことのないような快感だけ。

 手に残る肉を斬り、骨を絶ったナイフの感触も、体にかかる血の温かさも、斬られた相手があげた苦悶の声も全てが快感だった。


(お楽しみのところ悪いけど、ちょっといいかな?)


 俺がそれを受け止めて、反芻するかのように何度も思い返していると頭の中にハオスの声が響いてくる。

 俺は少し逡巡したがこの快感は今後何回も味わうことになるんだからと自分を納得させ話を聞くことにした。


(さて、レベルアップとかの説明をするよ)

(ただ殺したらいいんじゃないのか?)

(普通はそうなんだけどね。君はこの世界の魂じゃないし、この世界は僕の世界じゃないからね、少し面倒な手間がかかるんだ)

(手間っていうと?)

(君の場合は殺した相手の心臓を取り出して潰すこと。ちなみに順序は問わないから潰して取り出してもいいよ)

(なるほどな……これでいいか?)


 ナイフで胸を切り裂き心臓を抉り出す。死体のはずだが死んだばかりだからか綺麗な赤色をしている。

 俺は抉り出した心臓を掌に載せ、思いっきり握り潰した。


(これは…?)


 握りつぶした心臓から光が出てきて自分の中に吸い込まれる。少しの高揚感があったかと思うと直ぐに治り、それ以降は何も起こらなかった。


(これで経験値が君の中に入ったよ。今のでレベルも一つ上がったようだね)

(今のがレベルアップってことか)

(そうだよ。それじゃあ最期のチュートリアルだ。スキル取得の方法と街での注意点を教えようか)

明日も更新したいと思うんですが無理な可能性が高いです。出来るだけ頑張りますが無理だったら明後日に更新します。

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