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ベル先生の初授業

有言実行って大事…!

「美味しかったね〜」


 朝食を食べ終わり、一旦部屋に戻る。

 部屋に入り今日の日程表を見ると、戦闘訓練は今日の午後一時からだと書いてあった。つまり、それ以外の時間は自由である。とは言っても、その自由時間とは言うなれば自主学習時間なわけで…。


「私は昼まで図書館に行って勉強しようと思うけどベルはどうする?」

「ん〜、私は特にする事ないしクーと一緒にいようかな。道に迷うといけないしね」

「そっか。じゃあ案内して貰おうかな」


 支給されたノートとペンを、これまた支給された袋に入れる。

 この三つは魔導具らしく、ページとインクが切れる事なく使えるノートとペンに、入れたものが軽くなるトートバッグだという。なんとも便利なものだ。


「ところで図書館って、魔法の勉強?」

「うん。まだ普通の魔法って使ったことないし、やってみようかなって」


 魂の収集がろくに出来ない今、それさえしなければ何のためにここに来たのか分からなくなってしまう。


「それなら魔法の使い方教えてあげる!」

「え、いいの?」

「もちろん!先輩に任せなさい!先生って呼んでくれたっていいよ?」

「ふふっ、よろしくね、ベル先生?」


 ◇


「ここが図書館だよ!」

「結構大きいね…」


 想像よりもずっと長い時間をかけてようやく図書館に着く。この学院の敷地の広さを完全に考えてなかった。一人だったらまず間違いなく道に迷っていただろう。

 目の前にあるのは東京ドーム何個分なんだろうなと考えてしまうぐらいの大きな建物。これが図書館らしい。ちなみに、東京ドームは見た事がないので雰囲気である。

 蔵書数は約三千万。この世界で書かれた本の殆どがここにあるという。


「この中は静かにね」


 どの世界でも図書館の中は静かにするものらしい。

 建物の中は自分にも馴染みの深いもので、それはまあ悪く言ってしまえば地味なものだった。

 たしかに巨大な本棚は見ててどこか心が動かされるものはあるが、魔法学院というぐらいなんだから本棚が宙に浮いているぐらいの期待はしてたんだけど…まあ別にいいか。


「それじゃあ魔法関連の本は、と…」


 そう呟いて、ベルが向かったのは、元の世界で最近よく見かけるようになった検索機だった。…検索機だった。


「これ本当に魔法…?」

「ん?ちょっとまっててね…これと、これ。それと…これもいいかな」


 ベルが何回か画面をタッチすると、それから程なくして本が三冊飛んでくる。


「たしかクーは強化系に適性があるって言われたんだよね?だからとりあえずこの三冊がオススメかな。表面を上から指でなぞって“レンタル”って言えば館外に持ち出せるようになるし、やってみて」


 ベルがそう言いながら渡してきた本を受け取って言われた通りにしてみる。


「“レンタル”」


 すると、本が仄かに光り、少し経つと本が二つに増えて元の方が宙に浮き、何処かへ飛んで行く。元の場所に戻ったのだろうか。

 続けて他の二冊にも同じことをして、連れられるがままに図書館を出る。訓練所に向かうらしい。

 少し歩くと訓練場に着く。丈夫そうな素材で出来たその建物は横幅が図書館並みに大きいが、高さはそこまでなかった。

 中に入るとエレベーターの扉のような物が壁に沿っていくつかあるのが見える。

 エレベーターという存在の既視感に、もしかしたらそうなんじゃないかという予感がしながらも問いかけた。


「…もしかしてここも七不思議の一つだったりする?」

「すごーい!よくわかったね!」


 ◇


 七不思議の二つ目、「いつ入っても貸切状態の訓練場」について一時間、魔法の練習は想定以上にスムーズに進み、自分はする事が無くなった。


「凄いね!全部一発で成功するなんて!…もしかしてクーって天才?」

「うん、今自分でもびっくりしてるところ…」


 最初に始めたのは魔力を動かす訓練。ただ、それはほんの一分ほどで終わった。だってこれ、血液の操作と全く同じ感覚だったから。

 本とベルによると、強化系魔法においては魔力操作だけが重要で、逆に言えば魔力操作さえ出来て、あとは適性さえあれば魔法は使えるのだという。ちなみに、属性系魔法だと魔力の変質というのが大事らしいが、自分には一切その適性がないようで、属性系魔法を使うのは諦めた方がいいとの事だった。

 魔力操作が問題なく出来るとわかった俺はベルに教えて貰いながら本に載っている魔法を一つずつ試してみた。

 身体の強度、動きを高める『身体強化』に、小さな音でも聞こえるようになる『聴力強化』、動体視力が上がり遠くのものもはっきりと見えるようになる『視力強化』に、使用している武器を強くする『武器強化』、怪我を治す『回復魔法』などを一つずつ、丁寧に。

 そしてちょうど今、本に載っている最後の魔法を使ったところだった。


「他にも魔法についての本ってあったりする?」


 役目を十分に果たした本に指を当て、“リリース”と唱える。すると、本はキラキラと宙に溶けて消えていった。ベルは、顎に指を当てて唸っている。少しすると、困った顔をして言った。


「たぶんないんじゃないかなぁ…魔法についての本って殆ど同じ魔法について書いてあったり、まだ理論が確立出来てないものの研究だったりするし、そもそも強化系って種類がそこまで多くないんだよね」

「つまり、魔法の練習はこれで打ち止め?」

「いや、今は魔法がまだ使えるようになったってだけだから、これから魔法の練習を何度もしていくのはいいことだと思う。私もずっと使ってたら細かい調整とか出来るようになったし」

「そっか…」


 属性系の魔法に適性がないことが悔やまれる。火の玉とか撃ってみたかったんだけどなぁ…。

 それじゃあしばらくは身体強化でもかけて訓練場を走り回ってようかと考えた時、ベルがあっ、と声を上げた。


「そうだ!ダンジョンに潜ってみない?」

「ダンジョン?」


 ダンジョンとは、この魔法学院創立時に造られたという限りなく命の危険を排除した実践的訓練場の名称らしい。最下層は十層で、深くなるにつれて敵役のゴーレムが強くなる。そして、その最下層の終着点に辿りついたものは卒業する権利が与えられるとのこと。


「まあ私はゴール出来たってだけで十層の敵には手も足も出なかったんだけどね〜。『万象の瞳』を使って動体視力を極限まで上げて、身体強化も最大出力でやってもギリギリだったよ。まあでも、三層だったら丁度いい運動になると思うし、魔法の実践練習としても丁度いいんじゃないかな?」


 話を聞く限り結構楽しそうだ。魔法も実戦で使った方がいい練習になるだろう。


「へぇ…じゃあ試しに行ってみようかな」

「よし!じゃあこっち!ついてきてね」


 手を引かれながら訓練場を出て、そのままダンジョンへと連れられる。ベルはニコニコと笑って少し早足になっている。どこか楽しそうだ。…もしかするとさっきまで退屈だったのかもしれない。ベルは俺に教えるだけで何もしてなかったし。

 そして手を引かれるまま数分、どこか懐かしい雰囲気のある扉の前に着いた。見覚えも何もないはずなのに、何故か懐かしいと感じる。それも、結構最近感じたような…


「ほらほら!いくよっ!」

「あっ、ちょっと待ってよ!」


 その考えは、ベルに手を引っ張られたことで中断される。とりあえず今はこの奇妙な感覚を忘れて目の前のことに集中することにしようか。

 ベルが扉を開け、中に入る。中は自然に出来た洞窟のような見た目で、壁には等間隔に松明のような灯りが設置されていた。


「とりあえずここは駆け抜けていこうか。急がないと昼ごはん食べれなくなっちゃうしね。身体強化の準備はいい?」


 慌てて強化魔法を使う。慣れたら無詠唱でいけるらしいが、今はまだ魔法名を言わないと出来そうにない。ただ、そのかわりに『身体強化』と唱えるだけで、同時に『視力強化』と『聴力強化』は発動できるようにはなっていた。まあ、それは単純にその二つは無詠唱でもいけるが『身体強化』は難しくてまだ無詠唱が出来ないってだけだったりもするが。


「ちょっと待って…『身体強化』…いいよ」

「それじゃあしゅっぱーつ!」


 バイクなんかよりも速いスピードで走り出す。もし『視力強化』を使っていなければすぐに壁に突っ込んでしまっていただろう。

 ただ、そのおかげか一瞬で一層を抜ける。途中で破壊された敵役らしき物体があったのは少し前を走るベルが倒したからなのだろう。

 それから二層も抜け、あっという間に三層に着いた。


「とうちゃーく!クー、身体強化覚えたてにしてはすごく速かったね!まさかスピードを落とさずにここまで来れるなんて思ってなかったよ!」


 ベルが少し興奮気味に言う。というか、もしかしてついてこれないと思ってあのスピード出してたのか?まあついていけてたからいいけど。


「それじゃあ…たぶんこっちかな」

「?ここで敵を倒すんじゃないの?」

「それもいいんだけど…まあとりあえずついてきて」


 言われるままついていく。時折出てくる敵は自分が攻撃準備をするより先にベルに全部倒されてしまって、結局一匹も倒せなかった。

 時々行き止まりにぶつかりながらしばらく歩くと、入り口と同じ重厚な扉が目に映る。ただ、その扉は入り口のものとは違い、「Ⅲ」と大きく刻まれていた。


「これは…?」


 そろそろ説明してくれるだろうと思い、立ち止まって尋ねる。すると、ベルはにっこり笑って、守護者の間だよ〜、と言った。


「守護者の間?」

「うん、三層と四層の間を守る守護者の間。一層と二層は練習みたいなところだからないけど、最下層を除いてほかの階層にはその区切りごとに守護者が設置されてるんだよ。で、三層の守護者は数で押してくるから暴れるには丁度いいってわけ!」

「へ、へぇ。数ね…ところで、それって何体ぐらい?」


 俺はほんの少し嫌な予感がしながらも尋ねる。そして、直後に返って来た答えは予想通りのものだった。


「百体!普通なら五、六人でパーティーを組んで戦うものだけど、クーならきっと大丈夫だよ!私もいけたし!」

「…ベルが手伝ってくれたりはしない?」


 その問いかけに扉を片手で押しながらベルが答える。もう片方の手はいつのまにか俺の手を握りこんでいて、それは「逃げちゃダメだよ?」と言っているかのように思えた。


「危険だって思ったら助けるから!これもいい魔法の修行だよ!頑張って!」


 その言葉を言い終わるや否や、俺の体を部屋の中に引っ張る。中を見ると、魔法陣の中から銀色の敵…ゴーレムが次々と這い出ているところだった。…この先生ちょっとスパルタすぎません!?


 =====================================


【今回の殺害人数】

 0人


【total】

 356人


【獲得スキル】

『強化系魔法』

2021/06/09 矛盾点の修正

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