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学生寮

「ところで、最後のあれってなんだったの?」


 ショックから立ち直り、気になっていたことについて尋ねる。


「あれ?」

「ほら、この魔法を無効化したやつのこと」


 そう言って、ほんの少し圧縮率の下がった血液をうねうねと動かしてみせる。


「えっとね…魔法を遠隔操作をするときって、ほそーい糸みたいな魔力で魔法と使用者を繋いでるんだよね。ほとんどの人が無自覚なんだけど」


 ベルはそう言いながら掌を上に向け、小さな氷の球を生み出し、それをぐるぐると回し始めた。


「なにも見えないよ?」


 目を凝らし糸を探したがなにも見えない。試しに氷の球と掌の間に手を通してみても、なにも感じられなかった。


「そう!その魔力の糸っていうのは普通じゃ見られないんだよ。そこで使うのが、『万象の瞳』って言う特殊系の魔法でね。この魔法は動体視力を上げたり、魔力を見れるようになったり、頑張ったら数秒ぐらい先の未来まで見れるんだよ」


 ベルが説明してくれた特殊系の魔法…おそらくスキルは、思わず呆れたような声が出てしまうぐらい高スペックなものだった。


「…それってベルのほかに使える人っているの?」

「たぶんいないんじゃないかな…?だって…」

「だって?」

「あ、いや!なんでも!…そうだ!それでどうやってクーの魔法を解除したかだったよね!」


 露骨に話を逸らされる。…まあ別に気にしなくてもいいか。大したことじゃないだろうし。


「魔力を見れるようになるって言ったでしょ?魔力と魔力はぶつけると相殺できるから、剣に魔力を纏わせて魔力の糸を断ち切ったんだよ。ちょっとだけコツがいるけどね」


 だから基本私にしか出来ないってわけ。と、ベルは自慢気に胸を張る。


「他にも、万象の瞳を使ってる間は魔力が見える分魔法が使いやすくなったりするよ。その分約三分間しか使えないっていう時間制限があるんだけどね…」


 つまり、さっきの試験も約三分しか無かったということだろう。もっと長かったようにも感じたが、まあ、結構緊迫した戦いだったし、そういうこともあるか。

 それにしても、『万象の瞳』はスペックがおかしい。おそらく、いや、確実に、それを使った状態で本気で戦った場合、俺は負けるだろう。特に不意打ちが出来ないのがいたい。広範囲攻撃を持っていれば別かもしれないが、生半なものでは簡単に破られると断言できる。

 幸いにして連続使用は出来ないようだし、戦うことになったら効果が切れるまで守りに徹することにしよう。


「それで、これからどうしたらいいの?確かもう寮に入れるんだよね」

「えっとね…少しだけ待ってて欲しいんだけど、いい?お願い!」


 気になっていたことも聞けてスッキリしたところで寮に行って休もうと思いそう尋ねる。もう部屋は決まっているはずなのでベルは知ってると思ったんだけど、もしかして忘れたのかもしれない。…そういうことしそうなタイプっぽいし。


「いいけど…」


 自分で聞きに行ってもいいけど、疲れたことだしちょうどいいので待つことにした。

 ここの寮は基本全部屋個室らしい。要望があれば相部屋もできるらしいが、まあほとんどいないそうだ。増築についても魔法を使えばすぐに可能ということで、俺には嬉しい仕様となっている。…前の街では一緒の家に住んでたせいでバレたわけでもあるのだし、やっぱり一人がいい。


「おまたせ〜。準備出来たからついてきて」

「準備?…おっと」


 三十分ほどでベルが戻ってきた。立ち上がろうとしたところで少しふらつく。


「クー、大丈夫?今から部屋まで案内するけど肩貸す?」

「ううん、大丈夫」


 ふらついたのは貧血が原因だ。

 二日ほど前に手に入れた『超回復』と『回復魔法』という二つのスキル。これらは、失った血液までも取り戻すとはいかないが傷は完全に癒すことができる。

 そこで、ベルが行っている間に思い切って自分の血液の一部を『血液操作』の支配下に置くことにした。初めてで加減がわからなかったため、少しだけ血を抜きすぎてしまったが、まあすぐに戻るだろう。『超回復』は血液の生成スピードも早めてくれるらしいし。


「きっと疲れたんだね。ほらこっちだよ」


 ベルはそう言って俺の手を取って歩き出す。ほんの少し歩調がゆっくりになっているのはきっと気のせいじゃないのだろう。


「ところで、準備ってなにしてたの?」

「寮母さんに申請してクーと私を相部屋にしてもらったんだよ。ちょっと時間かかっちゃったけど…ごめんね?」

「大丈夫だって…」


 …ん?


「今相部屋って言った?」

「うん」

「誰と?」

「私と」

「誰が?」

「クー」


 待て待て落ち着け。…えっ、どういうこと?

 相部屋って一緒の部屋ってことだよな?同じクラスとかじゃなくて?


「ベルと私一緒に暮らすの!?」

「うん…もしかしてダメだった…?」

「それは…」


 正直言って断りたい。相部屋なんてこちらに全くメリットがない。というよりデメリットでしかない。

 ただ、表向きここで断る理由がないのも事実。というか断ったとして丸く収められる気がしない。

 そして何より…


「やっぱり…ダメ?」

「うっ…」


 今にも泣きそうなこの顔を見ていると、どうしてか、しょうがないなぁという気分になってくる。なんというか…可愛い妹からのおねだり、みたいな?


「しょうがないなぁ。…いいよ、相部屋」

「やったぁ!」

「ただし、今度からこういう時は相談すること!わかった?」


 そう言いながらベルのほっぺたを摘んで引っ張る。…すごくいい手触りだった。


「えへへ…ごめんなさい」


 ほんの少しだけあったムカつきさえ取り払ってしまうその顔を見ていると、もしかしたら自分と同じような魅了系のスキルを持っているのかもしれないと思ってしまう。

 …バレずに殺しをする方法はまた後で考えたらいいか。


 そんなことを考えながらしばらく手を引かれ、ようやく立ち止まる。目の前には、まるで闇雲に積み重ねた積み木細工のような建物があった。


「ついた!ここが学生寮『ドールズハウス』だよ!」


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【今回の殺害人数】

 0人


【total】

 356人

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