次の街へ
「それはそれとして…」
イザベラさんの心臓を離し、グラを召喚しながら傷口を見る。騙すためだとはいえ、少し深く刺しすぎたかもしれない。今は血液操作でなんとか出血を抑えているが、それも長くは持たないだろう。
イザベラさんを殺してしまった以上、この街に滞在し続けるのは難しい。彼女はほぼ毎日ギルドに顔を出していたので、いなくなったとなればすぐに誰かが気付くだろうし。
それに彼女は元とはいえ教会関係者だ。イザベラさんレベルの人と同時に何人も戦うことになったりするのは避けたい。
この街を出る理由は色々とあるが、一番の理由は…目の前で燃え上がっているこの家である。
「あれで勝ってたとして、イザベラさんどうするつもりだったんだろ…」
彼女が使った『太陽の手』というスキル。窓から出る時にその火が燃え移り、今では完全に燃え広がってしまっている。とりあえずグラが食べ終わった後の残り物を家の中に投げ込んだ。
拠点も無くなってしまったし、早くこの街から脱出しよう。…でもその前に、出来るだけ沢山殺してまわっておくことにしよう。
◇
「な、なんだおまっ」
ーーフォン
首を切り落とし即死させ、そのまま血液を支配下に置く。そしてそれを操作して体から直接心臓を取り出して潰した。
最初はいちいち胸を切り開いていたが途中から、血液の回収と同時に心臓を取り出す方法を思いつき、それからはスムーズに済むようになった。
途中で服屋にも寄り、イザベラさんとの闘いで燃えてしまった外套を交換したのでしっかりと顔を隠すことができている。もっとも、今のところ目撃者は一人も生きていないのだが。
「…ッ」
そろそろきつくなってきた。馴れない応急処置ではこれ以上続けるのは無理そうだ。何人殺したのかは数えていないが、そろそろいいだろう。自分の人間関係の範囲はとても狭いが、知っている顔は片付け終わった。
それに、押し入った家は全部燃やしているので程よく街は混乱状態だ。
「一体何が起こってるっ!?」
「きゃあぁっ」
家から飛び出してくる人も、見落としていたのか向こうから走ってくる人も少なくなってきた。
最初に目標としていた、街の住民を皆殺しにするということはまだ達成出来ていないがしょうがない。ここらが引き際だろう。
外壁があるところまで、人がいそうなところを選びながらも真っ直ぐ突っ切っていく。もちろん視界に入った人を狩るのは忘れずに。
グラは、最初は自分のスピードに付いてこれていなかったのだが徐々に速くなっていき、今では自分と同じぐらいのスピードで走りながら、器用に服などを避けて死体を吸収している。
少し走ると外壁に着いた。血液をワイヤーのように伸ばし外壁に引っ掛け、そのまま自分の体を持ち上げる。
振り向くと、片側が燃え、もう片方は少し騒ぎが伝わりつつも平和なままという対照的な街の姿があった。沢山殺したつもりではいたが、街全体を見ると半分にも満たないぐらいだったとは。
またしばらくしたらここに来よう。そう決意して壁から飛び降りた。
◇
何回か血で足場を作って減速しながら着地してすぐにハオスを呼ぶ。後で召喚するつもりで壁の内側に置いてきたはずのグラがくるんと一回転して着地したところであいつの声が聞こえた。グラがこの高さを一瞬で登れるほど強化されているという事実に正直驚きを隠せないが、まあ今はそれどころじゃない。
「いや〜大変そうだね。それで?傷を回復するためのスキルが欲しいんだっけ?」
ハオスの呑気そうな声に少しだけ苛つく。こっちは今にも倒れそうだってのに。
「なんでもいいからはやく…この傷を治せるスキルをくれ」
「あー…本当にヤバそうだね。じゃあ要望にお応えして…うんうん。沢山殺したおかげで選びたい放題だね。とりあえずは…これとこれかな」
体が一瞬発光する。と同時に痛みがどんどん引いていった。まだ痛みはあるがさっきほどじゃない。
「今追加されたスキルは『超回復』と『回復魔法』。『超回復』の方は傷の治りが早くなるっていうのと副次効果として傷の痛みが和らぐっていうのがある。『回復魔法』は治す傷の深さにもよるけど魔力さえ足りればどんな傷でも治るってやつだ。とりあえず使ってみるといいよ。習うより慣れろって言うしね」
もう毎度恒例となっているハオスのスキルについての説明を聞き流し、『回復魔法』を使ってみる。
「回復」
すると、ごっそりと魔力の抜けたような感覚と共に、胸にあった深い刺し傷は少しの後も残さずに消えた。
傷が深かったからか、それともそういうスキルなのか、今までで一番使う魔力が多かったが、それでもまだ後何十回も使えそうなほど魔力に余裕があった。
「いくらなんでも魔力だけ一気に増えすぎだろ…」
「そりゃあこれだけ吸収してたらね」
「ん?今何か言ったか?」
「いや、なんにも」
なんで魔力だけこんなに多くなっているのか理由はわからないが、多いに越したことはない。『回復魔法』がある以上魔力さえあれば即死しない限り死なないわけなんだし。どうせこの身体のスペックとして魔力の伸びがいいとかがあるんだろう。
まあそういうのは後でまた考えるとして、まずは次の街をどうするのかだな。
「ハオス、次行くのにおすすめな街はどこだ?」
「そうだね…ここから走って一日も掛からず着くところに一つ街があるよ。歩いても二日掛からないしちょうどいいんじゃないかな」
「へぇ…じゃあそこにしようか。ところで、なんて名前の街なんだ?」
食料とかを持ってくるのを忘れたので近いというのは嬉しい。そこに行くことを決め、ハオスにその街の名前を尋ねる。…そういえばこの街の名前ってなんだったっけ?後でハオスに聞くことにしよう。
「その街の名前は水の街『セード』。特殊な魔力の流れのせいでほぼ毎日雨が降っているっていうところだよ」
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【今回の殺害人数】
256人
【total】
356人
【獲得スキル】
『超回復』『回復魔法』
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