想定外の展開
まずは手ごろな家を探し、侵入する。
家の中を片付けるのにも慣れてきて、今までもそこまで時間がかかっていたわけでは無かったが、すぐに片付け、家の中に誰も残っていないことを確認した。…今度索敵みたいなスキルを取得しようかな。
確認が終わったところで最初の死体があるところへと戻る。スキルの練習をするためだ。このために、まだグラに死体を食べさせていなかった。
他人の血液…死んでいるか体から離れているという条件があるらしいが、それを操るためには自分の血を一滴混ぜる必要があるらしい。とりあえず挑戦してみた。
「ん…少し抵抗があるか?」
指先を少し切って床の血溜まりに突っ込む。血を混ぜてすぐは少し動かしにくかったが、少しすると自分の血液と同じぐらいには動かせるようになった。
そしてまずは昼にやっていたような練習をしてみたが…なるほど。ハオスが言っていたのは本当だったらしい。少しの血を操る時よりもはるかに簡単に動かすことが出来た。試しに遠隔操作を試してみたら一発で成功したぐらいだ。遠隔操作はまだぎこちないがすぐになれるだろう。
残りの二人分の血液を回収し、心臓を握りつぶしたところで残った肉をグラに喰わせる。おそらく自分の操作する血液が多いほど他の血液を取り込むのも簡単になるのだろう。二人目の時にも感じた抵抗感は三人目の時には殆ど感じなかった。
集まった血液で色々と実験してみる。それでわかったのは三つ。
まず一つ目、これは昼にもわかっていたことだが、形を変えたり維持したり、圧縮したり遠隔操作したりすると魔力を消費する。圧縮するときに使う魔力が一番多く、それ以外は気にならない程度だから気にしなくていいだろう。
二つ目は圧縮する血液の量が多いほど必要な魔力も多いということ。圧縮するときには魔力が必要だが、圧縮した血液を維持したり操作するときの消費魔力は通常と変わらないことが救いだろうか。
三つ目は、同時に出せるのは三つが限界らしいということ。その中でも遠隔操作が出来るのは二つまでだった。これからその数が増えるかどうかは不明だ。
とりあえず一つのナイフの形に圧縮し、いつも使っているナイフはホルスターにしまう。
斬れ味を試してみたが、まあ及第点だろう。元のナイフほどでは無いにしても十分な斬れ味を持っていた。
試したいこともあるしそろそろ別の家に向かおう。
窓から飛び出して隣の家に移る。その家の窓には鍵がかかっていたが、壊してしまえば何の問題もない。この世界に来て、一体何回窓から出入りしているんだろうかなんて考えながら部屋に侵入する。
部屋には誰もいない。が、誰かがいた形跡はある。恐らくトイレにでも起きたのだろう。扉の前に立って戻ってくるのを待ち構える。少しすると戻ってくる音がし、すぐに扉が開いた。
相手がこちらに気付く前に喉を塞ぐ。そのまま下に振り抜けばそれで終わりだ。心臓を握りつぶし、血液を支配下におく。
血でできたナイフで斬れば新しく血を混ぜる必要がないらしく、すぐにコントロールできるようになった。
別の部屋にいたもう一人もしっかりと殺す。この家で集めた血液は爪の部分を尖らせ、左手に纏わせるようにして固定した。これで直接心臓をとることだってできる。
今日は少し遅くなるかもしれないけどいつもより多くの家をまわろうと思う。見まわりをしている兵士も殺せたら殺したいけど…とりあえず服屋に行って顔が隠れるような服を取ろうかな。ここにある服はちょっと使いたくないし。
◇
今夜の成果!
襲撃した家、計二十軒。
襲撃した兵士、計七名。
道端で寝ていた人、計五名。
合計殺害人数はなんと六十二名です!
取得物は黒いフード付きの外套と兵士達が身につけていた鉄製の装備とランタンでしたが外套以外は全部路地裏にポイしました。まあ正直持って帰っても邪魔にしかならないしね。他の素材なら燃やして証拠隠滅できたのに。
まあ証拠隠滅しなくても自分がこの街にいることはバレてるんだから姿を見られない限りはもう問題ないんだけどね。人はこれを開き直りと言う。
まだ暗いとはいえ朝が早い人ならもう起きて…はないにしても、もう帰った方がいい時間帯だ。あと三時間もすれば日が昇ってくるだろう。ゆっくりと見つからないように帰るとしよう。
今日集めた血液は半分ずつナイフと左手に分けてある。家に帰ったら全部まとめて小さく圧縮するにしても、まだ何があるかわからないのでそのままにしている。
途中で見つけた人を不意打ち気味にサクッと殺しながらも家にたどり着く。そしてそのまま窓から家の中に入って呟いた。
「ただいま」
「ああ、おかえり。遅かったなクリューエル」
誰もいないと思って油断していた身体がこわばる。
声のした方を見ると、そこには白銀の鎧を纏い、腰から提げている剣に手をかけている赤髪の女性が立っていた。
「イザベラ…さん」
どこか哀しげにこちらを見ている彼女は、冒険者というよりもまるで…騎士のようだった。
「クリューエル、お前に聞きたいことがある。こんな時間に、外で何をしていた?」
俺は答えない。というより、考えがまとまらなくて声を出すことが出来ない。
「今日だけじゃないはずだ。ここ最近、お前が来てから起こった原因不明の失踪事件。…いや、殺人事件か、あれはお前がやったことだろ?」
ハオスから聞いたこの世界の情報を思い出す。
この世界には騎士と呼ばれる人は二種類しかいない。国に仕える『王国騎士』と、教会…神に仕える『神殿騎士』だ。
そして、昨日聞いた勇者の情報。街の中には確かに、勇者が召喚された、ということを話している人はいた。だがその名前まで知っている人は見当たらなかった。
イザベラさんが勇者の話をしたとき、名前に気を取られて気にしていなかったが、普通噂話で名前まで伝わってくることは少ないだろう。
彼女はそれを元同僚に聞いた、と言っていた。つまり、彼女の元の職業は…
「イザベラさん、神殿騎士だったんですね」
「ん…ああ、色々あってやめなきゃいけなくなったんだけどな」
「でも…なんで私がその、悪魔だなんて思うんですか?私なんてただの子供ですよ!」
「ははは、面白いことを言うな。なんでもなにも、そんな武器を持ってる奴が…いや。そうだなクリューエル。お前が、もしお前がただの子供だっていうのなら。ただ罪を犯しただけで悪魔でもなんでも無いっていうのなら、その武器を置いて私と一緒に教会へ来い。懺悔をしたいなら聞いてやってもいい」
「それは…」
イザベラさんは表情を変えない。
「出来ないだろう?」
何も答えられない。何を答えたらいいのかわからない。とりあえずここを切り抜けなくちゃ。そのためには…やることは一つしかない。
イザベラさんの表情が変わった気がした。哀しみを押し殺したような、何かを諦めたような顔に。
そして俺は、クリューエルは、弾かれるように飛び出し、右手のナイフを彼女に向かって突き出した。
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【今回の殺害人数】
六十四人
【total】
九十九人
次回も早めに投稿できたらいいなって。
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