8 ”流星”
怪我による養生から3日程経ち、僕達は新しくクエストを探す為にギルドへ赴いていた。
毎日少しずつミーシャの回復魔法による治療も行い、クエストもこなせるだろうという所まで体調は回復している。
もう一日くらいは安静にしても良いのでは?とミーシャから提案されたが、まだこの世界について理解していないところも多い。あと、少しは冒険者然としていたい気持ちもあるので、毎日とは言わずとも可能な限りはクエストを受けておきたい。
怪我で後回しにしていた自分の分の報酬を受け取りに、二人と分かれて行動して受付へ寄る。
ステータス検査の際に使用した共鳴石ならぬ、魂鳴石なる石を握ると、自分の直近で倒したモンスター等の情報がギルドの方へ伝わり、その情報を元にクエスト内容と照らし合わせて報酬が受け取れる、という。何て便利なんだろう。
電気も無けりゃパソコンも無いが、こういったシステムが成立しているのは楽で良い。
こちとら物心ついた時からスマートフォンやら電子マネーやらの文明に浸かって育った人種なのだ。娯楽にしても仕事にしても、楽で、且つ効率が良いに越した事はないに決まっている。
「ではイムヤさんの今回の報酬は⋯⋯ジーマ林道西口のモンスター12体討伐ですので、3万ゴールドですね。はい、どうぞ。それとレベルが上がっておりますので、こちらの用紙をご確認ください。またよろしくお願いします」
受付嬢の笑顔に頬を緩めながら受付を後にする。
クエストでレベルが上がると、その都度教えてくれるのか。益々便利だなあ⋯⋯。
渡された用紙を確認すると、レベル9になり、それによって変動したステータスの表が記されていた。
スキルに関しては、変わらず黒く塗りつぶされたまま。
自分でカウントしていた討伐数より明らかに多いのも含め、僕が突然大暴れしてモンスターを薙ぎ倒したのと何か関係があるのではと疑いもしたが、このままでは何も判らない。
まあ、強くなったのは素直に受け止めておこう。無理矢理原因を探ったところでロクな目には合わないだろうし。
⋯⋯しかし、死にかけたというのに1体あたり2500ゴールドか。
何日か過ごして判った事だが、基本的に通貨のレートは僕の元の世界と大差が無い。
おおよそ1ゴールド=1円と捉えて差支えがなさそうである。それを踏まえた上で⋯⋯。
「死にかけたのに3万か⋯⋯」
割に合うかどうかというと怪しい。
日本でもし、日当3万のバイトが有れば喜び勇んで飛び付くとは思うが、ただし生死の責任は負いません、仕事内容は複数の猛獣と戦って勝つ事!等と抜かされたらどうだ。
いや、無理でしょ。と思う。
「えーと、ミーシャが72500、リーゼが67500だったかな。全部合わせて17万か。僕の武器も新しいの買わなきゃならないし、生活もあるし⋯⋯もうちょっと頑張らなきゃなあ⋯⋯」
この世界、特に冒険者稼業は世知辛い。
命と隣り合わせの職業であるが故に、無理をしなければしっかりと生活出来る程の収入は得られる。
が、いつまでも最初のステージでレベル上げを繰り返していた所で、成長は簡単に頭打ちになる。
己の限界を超えてこそのレベルアップである。しかし、慣れたステージから見知らぬ強敵の蠢くステージへ移動するのは、とてつもなく勇気が要るものだ。
それを恐れる余り、冒険者の中には数年間レベルが大して上がっていない者も多いと言う。
そういった者達は大体が引退し、その経験を活かした商売を始める等も、よくある話だそうだ。いずれ自分の身にも起きうる話ではあるが、商売に活かせる程の経験だって積まなければならない。
少し早い独り立ちだと思って、この世界で頑張って生きよう。
あの二人は問題だらけだが、少なくとも僕よりは断然に強い。先の件で落ち着いてくれた筈だし、僕のこれからの人生の一助になってくれるならば、是非とも助けてもらおう。
考え事をしてるうちに前向き思考になってきたので、心なし笑顔で二人を待たせている食堂まで向かった。
「おう、お待たせ」
「んー」
椅子に座ったリーゼが手をぷらぷらとさせて雑な返事を返してくる。
その向かいでミーシャが、何故か泣きながらジャガイモ料理を頬張っていた。
「……何やってんの」
「イムヤ!おかえりなさひっ!凄いんです、このお芋、皮が一つも残っていないんでひゅ!私、感動しひゃって……うう、塩辛すぎるなんて事も無くおいひいっ……!!味の良い物を食べられるというのはこんなに幸しぇな事だったんでひゅねっ!!」
「お、おう。ていうか飲み込んでから喋ってくれ」
なるほど、僕が寝込んで外に出られなかった三日間の食事が余程堪えていたのか。
ミーシャが意気揚々と料理の腕を奮おうとしたまでは良かったが、その結果は散々だった。
この世界では多くの国で主食となるジャガイモの皮がまともに切れないわ、塩の分量は一つまみと一つかみを間違えるわ、色が綺麗だったからと買ってきた調味料から薔薇の香りがしてそもそも使い様が無いわ、等々。
出来上がった料理を飲み込んだ瞬間のミーシャとリーゼの顔は、きっと一生忘れられ無いだろう。顔が整っていようが崩れる時は一瞬なんだなあと思った。かく言う僕も酷い顔をしていただろう。
「本当においしいでひゅ!ずっと食べていたいくらいでひゅ!」
「私の料理も食ってたでしょあんた。おいしいおいしいっつって喜んで食ってた癖に心変わり早過ぎない?」
「リーゼ、その話はしばらく……しないでくれると助かる……」
「私は何も聞いてませんもぐもぐ!おいしい!すごくおいしい!!何もかも忘れるくらい!!」
「失礼な奴等ね!誰もまともなもん作れないんだから作ってやったってのに何よその態度は!言っとくけどあんた達が私より美味いもん作れない限り、料理番はずっと私がするからね!覚悟しなさいっての!」
睨んでくるリーゼから視線を逸らす。
ミーシャの料理にキレたリーゼが「明日の料理を楽しみにしていなさい。本当の美味しい料理ってのを味あわせてあげるわ」と啖呵を切った翌日の夜。丁寧に保存された肉を皮袋に詰めて持って帰ってきたリーゼがそのまま料理に入り、見るからに美味そうな一品を仕上げた。
見た目通りの素晴らしい味に舌鼓を打った僕とミーシャはリーゼを褒めた。それはもう褒めまくって伸びたリーゼの鼻は天井まで届くレベルだった。
僕の世界では口にした事の無い変わった食感の肉であったが、野菜やジャガイモの調理も完璧なので、その日は特に気にすることなかった。人は見かけによらぬもの(悪魔だけど)、そう実感した。
しかし、更に翌日。同じように肉をたいらげた後、ふとミーシャが何の肉なのか聞いたのが良くなかった。
リーゼはあっさりと肉の正体を教えてくれたが、それを聞いた僕とミーシャの顔は一気に青ざめた。最初に教えられていたら間違いなく口にするのを躊躇していただろう。世の中には知らない方が良い事もある。そう、実感、した。
因みに僕は生まれてこの方、料理をした事の無いまま人生が終わってしまった身であるため早々に諦めたし、リーゼに文句は一切言っていない。それでも胃の奥から込み上げる、えも言えぬ感覚は止められないが。
昨日の記憶を何とか忘れようとしていると、ようやくミーシャが食べ終わったのか食器を片付け始める。
「けぷ⋯⋯⋯⋯し、失礼しました。少し食べ過ぎましたね⋯⋯」
口元を抑えながら慌てて食器を返しに席を立つミーシャ。なんと慌ただしい事か。
その姿を見てある疑問が湧き、頬杖をついて呆れた顔をしているリーゼに問う。
「なあ、ミーシャって結構食う方なのか⋯⋯?一応家から出る時、僕達ちゃんと朝御飯食べて来たよな?」
「んー。私もよく知らないけど、天界に喧嘩売りに行った時は殆どの確率で何か食べてたわね。ていうか今日に限らず外に出歩いてる時は必ず何か食べてるわよあの天使」
「え、えぇー⋯⋯」
食費とかどうなってるんだ。稼いだお金は三人できっちり合わせて共有しようと提案はしたが、もしかすると金庫番も必要かもしれない。
「戻りました!美味しいものを食べて元気も出た事ですし、張り切ってクエストを探しましょう!おや?イムヤ、どうされましたか?」
僕は、軽快に戻ってきたミーシャのお腹に視線をやる。
便宜上は鎧を装備しているものの、胸当てと腰当てはあるが腹部は覆われていないデザインだ。
⋯⋯お腹触らせてとか言ったら怒るよなあ。
天界に居た時から大食いだったとしたら、新陳代謝とかはどうなっているのだろう。パッと見ではスリムなウエストをしているし、食べても太らない体質なのか。それとも天使は人間とは違う構造なのだろうか。
「あ、あの⋯⋯そう身体をまじまじ見られると恥ずかしいのですが⋯⋯」
迂闊だった。うっかり我を忘れてミーシャのお腹あたりを見続けてしまった⋯⋯。とんでもなく失礼な真似をしてしまった罪悪感があるものの、余計な事は言うまい。誤魔化そうと試みる。
「いや、ごめん。何でもない」
「これはえっちな事を考えている顔ね。天使サマに欲情してるわよこいつ」
「え、えっちな事を考えているのですか!?欲情をしているのですか!?」
「ししししてねぇーーーし!あああんまり適当な事言うのやめてくんねえかな!」
このクソ悪魔!せっかく事無きを得そうだった物を!
顔を真っ赤にしてるミーシャを尻目に、愉快そうにリーゼは続ける。
「ふん、どーだか。前回より反応に必死さがあるわよ。これはもう一押しすると化けの皮が剥がれるタイプね」
「ば、化けの皮が⋯⋯?イムヤは悪魔だったのですか⋯⋯!?」
「そう、男は皆ワーウルフ。満月の夜には女とあれば天使であってもその迸る獣慾をぶつけるものなのよ⋯⋯」
「迸る獣慾を!ぶつけるの!ですか!?」
「謝れよ!全国のワーウルフさん達に謝れよ!」
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食堂で一頻り騒いだ僕達は、掲示板の設置されている広場へと向かった。
存分に僕をからかったのに満足したのか、リーゼはにっこにこしてる。ミーシャは尚も顔を赤くして俯いたまま静かになった。
不必要に疲れてしまったが、とりあえずはクエストを探さねば。
掲示板に貼られた無数の依頼用紙をざっと眺める。
近年はモンスターの数が増加しているらしく、その数は膨大の一言に尽きる。
学生の頃によく見ていた黒板よりも大きいサイズのボードが横一列に数台並び、討伐、輸送、雑務等のカテゴリ別に分けられているが、そのどれもが用紙で埋め尽くされていた。
この中からこれという一枚、自分に合ったクエストを選び出すのは大変だ⋯⋯。
『愚者の森にてデッドリーマンティスの討伐、推奨レベル35』。
『カロン山岳にて特殊鉱石ヘビーメタルサンダーの採取、山の主であるサンダーファルコンに注意。推奨レベル40』。
『封印獣ガルギリウス討伐。場所は伏す。推奨レベル測定不能。挑戦者求ム』。
適当に目に入った物でさえこれである。
ふざけんな。幾ら初心者から上級者まで幅広く仕事を取れるからって測定不能て。場所を伏すな。挑戦者ってなんだよ。剥がしちまえ。
とてもじゃないが触れるのも躊躇う依頼用紙ばかりを目にし、げんなりとした気持ちでいると、リーゼが一枚の紙に指をさす。
「これ、これなんかどうかしら?『愚者の森中腹部にてデスマンドラゴラ採取』!余ったら夕飯のレパートリーが広がるわよ!」
「却下」
「なんでよー!!」
「レベル30とか書いてんじゃねえか!採取だけだから余裕とか思ってんじゃねえだろうな!つかそんな明らかにやばい名前のブツを食わせようとしてんじゃねえよ!」
愚者の森……名前が既に禍々しいが30や35というレベルから鑑みるに、暫くは用の無い場所になりそうだ。出来るなら一生お世話になりたくないけど。
抗議の声をあげるリーゼを無視していると、ミーシャが服の裾を引っ張ってきた。
「あの、イムヤ。あれを⋯⋯」
何だろうと思ってミーシャが指差す先を見ると少し離れた場所で、冒険者というより荒くれ者と呼ぶに相応しい外観の大男が三人、フードを深く被り、大きなバックパックを背負った低身長の子に絡んでいるのが見えた。
周りの人々はその成り行きを横目で見つつも、手を差し伸べる事は無さそうだ。
「本来なら私が進んで行くところですが、勝手なことをとイムヤに怒られるのも忍びないので⋯⋯」
「待て待て。その判断は確かに正解だが、あんな屈強そうな男達の間に割って入る度胸は無いぞ」
暗に、助けに入れと言いたいのだろう。だが、いかんせんこの世界に来て多少のモンスターを相手どった程度の僕にそんな勇気は無い。自分の身ながら、少しくらいは強くなってるのかもしれないが、仮にあの大男達と喧嘩したらまずボコボコにされるのがオチだ。
そう、厄介事に首を突っ込むのは避けるべき、避けるべきなのだ⋯⋯。
「良いんじゃない?助けてあげれば?」
おっと、意外な所から。
「意外だな、リーゼは悪魔ってくらいだから、面倒だし無視しなさいって言うかと思ったけど」
「それも考えたんだけどね。ほら、助けて恩を売った方が何かと楽しそうじゃない?こういうのは売ったもん勝ちよ。それに相手が女の子だったらイムヤも念願のお腹触り放だ」
「よし!行こう!助けに入るべきだな!断じてやましい気持ちがある訳じゃないしリーゼは何か勘違いしてると思うけど助けるぞ!うおお!!」
「なあおい、頼むよー。あんた自分に見合うパーティが無いからソロでやってんだろ?結構有名なんだぜ?俺らのとこも魔法使いがいなくて探しててよぉ」
「ですから、私は今のところ誰と組む気も無いです⋯⋯お願いですから諦めてください⋯⋯」
「おでらの腕が信用できねえってのか!?おぉ!?」
「そ、そう言うわけでは⋯⋯うう⋯⋯」
なるほど、どうやらあの子は名の知れた魔法使いらしい。見た感じ、あの連中は戦士しか居ない自分達のパーティへと、何とかスカウトしようとしている最中なのだろう。
が、スカウトにしては何とも目に余る光景だ。とても穏やかな空気ではない。
「あ、あのー。その人も困ってる事ですし、その辺にされた方が良いかとー……」
「うわ、腰低っ。明らかな暴漢が相手でもあの態度とかヘタレよヘタレ」
「こ、こらリーゼ!そういう事は思っても口にするべきでは無いです!」
後ろの外野がうるさすぎる。
知らない人に話しかける時は敬語を使えって教わってるんだよこっちは。大体、冒険者となって少し強くなったからと言ってすぐ増長するような人間ではありたくないものだ。礼儀は大切なんだぞ。
「あぁん?何だてめぇ?」
赤いモヒカンの大男がこちらを振り返る。その人相は、とても礼儀を期待できそうにない。
漫画とかでよく見るモヒカンギャング!大体が主人公への噛ませ犬と化すビジュアルをしているが、こうやって目の前で凄まれると、その迫力だけで失禁してしまいそうになる。
目を合わせて話す等、できたもんじゃない。
「なんだぁー?ニーチャン、俺らがやましい事しようとしてるように見えたってのか?」
「いえ、いえ……そういう訳では……無い……かもしれない……ですね、はは……」
いやだって僕の頭二つ分くらい身長に差があるもん。めちゃめちゃ屈みながらガン付けられてる。無理だよ無理。仮に話が通じる相手だったとしてもまともに喋れる気がしないよ。
赤いモヒカンに続き、青いモヒカンも僕の方を向く。
「勘違いしてくれちゃってよぉ。それとも何か?おめえも”流星”を狙ってるタマか?それにしたって俺達がスカウトしてる最中に間から割って入るのはマナー違反じゃあねえのか、おい?」
その隣で緑のモヒカンが腕を組みながら頷く。モヒカン、モヒカンばっかじゃねえか。顔もよく見たら三人とも似てる。兄弟なのだろうか。
「んだんだ。”流星”はこの街じゃあ有名だもんなあ。割っででも欲しいっつー奴ぁ幾らでもいんべ。だども、今はおでらがスカウトしてる最中だ。とっととあっち行っでぐんねえか」
一人だけ口調の違う緑のモヒカンに、しっしと手で払う動作をされる。
何だか助けに入ったのではなく、僕が横からスカウトしようとしてると勘違いされてる。駄目だこりゃ、と途方に暮れつつあると、モヒカン達の身体の隙間から、”流星”と呼ばれているであろうローブの子と、目が合った。
フードの下に、長く銀色の前髪の奥。その青く透き通った瞳を一目見ただけで、庇護欲めいたモノが沸いてしまった。のかもしれない。
「……はぁ。そうだ、俺はその子に用がある。だからさ……雑魚キャラは早くどっか行ってくれるか?」
「「「あぁ!?」」」
はい、調子に乗りました!切ってはならない啖呵を切ってしまいました!
だってよ、そんなあからさまに「助けて」って顔されたら引くに引けねーじゃん!男たるものこういう時こそ虚勢を張るべきだって聞いてます!けど本当にそれが最高のタイミングだったかは大変疑わしいですけど!
モヒカン三兄弟の殺意に満ち溢れた眼差しが突き刺さる。やっべぇ。ちびりそう。
フードの子が不安そうに僕の顔を見ている。それだけじゃない、僕が調子こいた発言をした瞬間に、遠巻きに見ていた野次馬達もざわっと騒ぎ始めている。
背後からはリーゼとミーシャが「喧嘩?喧嘩ね?殴るのね?」「やめなさい!今は静かにしておく所ですよ!」とのやりとりが聞こえる。
絶望的状況下、流石に絶命はしないだろうけどぶっ殺される未来しか見えない。正直、ジーマ林道のモンスターハウスより恐い。
「てめぇ、俺達が誰だか知った上で喧嘩売ってんだよなあ?」
「ふん、知る程の価値が自分たちに有ると思っていりゅのか?」
噛みました。顔では平静を装ってみるが、超恥ずかしい。
僕の返答に赤のモヒカンが高笑いして返す。
「ぶひゃひゃひゃ!世間知らずもここまで来ると笑えてくるぜ!おいクソガキ、よーく聞きやがれ!あの世でも忘れられ無ぇ俺達の名を!赤のトライン!」
「青のネレイド!!
「緑のフォボス!!!」
バシバシバシッとポーズを決める大男三人。
「北の大地より一攫千金求めてやって来た!我等が三兄弟!!その名も⋯⋯ゴファ!!?」
「ゲヒィ!?」
「アベシッ!?」
僕の後ろから割って出てきたリーゼが、いきなり拳をモヒカン達の腹部に突き出すと三人とも奇妙な断末魔をあげながら倒れていく。
ワッ!!とした歓声の声が野次馬達から上がった。
僕とフードの子はと言うと、一瞬の出来事に呆気に取られていた。
「さあ!喧嘩よ喧嘩!ほらほら、さっさと来なさい!!まさか一発で終わりってんじゃないでしょうね!」
多分、終わりなんじゃないかな。モヒカン達は三人共白目を向いて気を失っていた。
続いてミーシャが僕の所まで走ってくる。
「イムヤ、すいません!何とか取り押さえようとしたのですが、力及ばず……!」
「いや、うん、お陰で助かった。リーゼがバカでよかった」
この場合、勝てない戦いを挑もうとしてた僕が一番のバカだろうけども。
「すげぇ!あの女、『北のサザンクロス』を一撃で!!あいつら結構腕は立つんじゃなかったか!?」
「最近話題になってるミーシャイェールとかいう聖剣士じゃねえか。あっちの騒がしいロリが魔闘士のベルゼリーゼだっけか?」
「やばそうな奴等がこの町に来たって聞いたけど、こんな早くにやらかすとはな!堪んねえ!」
ざわざわと賑やかになる野次馬達。
冒険者と言えば荒くれ者が多いし、こういうイベントも彼等には娯楽足り得るのだろうか。ていうか、北のサザンクロスってなんだよ。ツッコミどころが多過ぎるよあのモヒカン達。
「あの大見栄切った男は何もんだ?あの二人の仲間か?」
「一緒に居た所は見たけど、だとしたらあいつも上級職なのかね。それにしちゃあ装備が貧相だが」
すいません。何の変哲も無い初級冒険者です。すいません。
「ギルドの者です!何の騒ぎでしょうか!?通してください!!通してください!!」
人混みを掻き分けながらギルドの職員が声を張り上げる。
あ、これは拙い。直感的にそう思った僕は、急いでフードの子の手を取りミーシャとリーゼに呼び掛ける。
「ミーシャ!リーゼ!一旦逃げるぞ!!早くしろ!!」
「えぇ!?は、はいっ!」
「ちょ、何よもう!喧嘩は!?」
「あ、そ、その……!」
異世界に来て一週間も経たず、大きくギルドを騒がせた僕達は、名前も知らない子の手を引っ張りながら、脱兎の如くその場から逃げ出した。




