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天と魔が降る明星に  作者: 地下渓谷
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6 ジーマ林道

聖剣士(パラディン)。弱き者を守りたいという、強い正義の心を持った剣士が最後に行き着くと言われるクラス。

自らより強き者を前にしても挫けず、諦めず、戦い続ける真の勇者にしかなれないらしい。派生クラスには聖騎士(クルセイダー)があり、強く、そして清らかな忠誠心を持つものはそちらが適正クラスという。

「くっ、すいません、仕留め損ないました⋯⋯!」


魔闘士(バトルマージ)。戦い、戦い、そして戦い。勝つ為に戦うのでは無く、戦う為に戦い、その為ならばありとあらゆる武器も魔法も貪欲に覚える、一見戦闘狂に思えるが実は努力家なクラス。似た名前のクラスに魔剣士(マジックソードマン)というのがあるが、これは魔法剣士の略称であり、中級クラスである。

「もう!すばしっこいったら!イムヤ、そっち行ったわよ!仕留めて!」


初級冒険者(ビギナーノービス)。文字通り、冒険者始めたての者、殆どがここから始まる。初級だか上級だかの判断は、共鳴石の示した数値をギルド側の基準に合わせて設定される。この数値に関して、万年初級冒険者の方々からの「基準厳し過ぎ!もっと下げろ!」との抗議が毎年絶えないらしい。武器の熟練度に合わせて、剣士や弓兵といった様々なクラスになれる、可能性の卵といえば聞こえは良いが⋯⋯。


「だああっ!よし!手応えありぃ!」

「ばっか!全然ダメージ入ってないわよ!ピンピンしてるじゃない!」


⋯⋯つまりは、最弱職。




---------------------------------------




ジーマ林道。

僕達が丘から下りる際に通り過ぎた林道である。

ギルドにて登録を終えた僕達は、その翌日から冒険者稼業を開始する為にクエストを受けた。


初級クエスト、スピードラビット五羽の捕獲。生死は問わない。


このジーマ林道、昔はそうでもなかったらしいが、ここ最近でモンスターの出現報告が増えたとのこと。

中でもこのスピードラビットは繁殖力の高さに、猫の様な機動力、そして⋯⋯。


「う、ウサギというのはもう少し可愛いものだと思っていたのですが⋯⋯!何故この生き物はこんなに敵意剥き出しなのですか!?」


そう、とんでもなく攻撃的なのだ。


僕達はジーマ林道でウサギ型のモンスター、スピードラビット六羽と戦っていた。

僕の知っているウサギより一回り大きく……特に脚がムキムキで、小型サイズのカンガルーかと見紛う見た目。

そして敵を見つけると一直線に飛び掛かってくる。この戦闘も、いきなり突進してきたスピードラビットをリーゼが反射的に叩き潰したのが始まりだった。

攻撃手段は突進のみだが、大変な脚力から繰り出されるそれは、成人男性の肋骨くらいなら容易く粉砕してしまう。

そして動かなくなった獲物を、その鋭い前歯で⋯⋯。


「ウサギに殺されてたまるかよぉぉお!」

とにかく全力で突進をかわしながら反撃するが、いかんせん攻撃が当たり辛いし、毛皮のせいで僕の攻撃は全然致命打にならない。


「もぉー!!めんどくさい!”フィアー”!”フィアー”!!”フィアー”!!!”フィアー”ァァァ!!!!」

詠唱を短縮し、四連発で恐慌状態を引き起こす魔法を唱えるリーゼ。その乱雑に放った魔法がスピードラビット二羽へと、奇跡的に当たって動きを封じる事ができた。

打ち漏らしたのは僕に飛んできた。


「ああああああ脚がああああああ!!!!」


急に腰から下、そしてナイフを持つ腕ががガクガクと震え始めて身動きが取れなくなる。

「……いや、マジでごめん」

「ごめんで済むかよおおおおお!!あぁぁぁウサギが!ウサギがくる!!」

真顔で謝ってくるリーゼだが、今は謝罪より救護をお願いしたかった。

動けなくなった僕目がけて、残りの三羽が次々と僕へ飛び掛かってくる!


が、煌めく金髪が目の前をふわりと通り過ぎると、瞬く間に三羽共その身を切り裂かれ、瞬時に空中で事切れたまま、地にくずれ落ちていった。

ミーシャが剣を一振りして血を払い、鞘に収める。その姿は正しく聖剣士に相応しい、美しい仕草だ。


「なるほど、誰かが囮となって動かなければ、ウサギたちはその人だけを目掛けて攻撃してくるのですね。攻略しにくさの割に初級クエスト扱いされてる理由はそこにあるのかもしれませんね……イムヤ、お怪我はございませんか?」

「うううううううん、か、か、身体の震えがががが止まらないないないけどけどねねねねね」

「わ。……こほん。じ、時間が経てば治るかと思われますので暫く待ちましょう」

おい、ちょっと引いてんじゃねえよ。


「はい、ほい、どーん!と。はいよー、こっちも終わったわよ」

生々しい打撃音が三つ続いた。恐慌状態に陥った三羽も、たった今始末を付けたようだ。リーゼがその亡骸を袋にほいほいと詰め込む。

五羽のみ、生け捕りも可とあったのに初めにリーゼが叩いた分合わせて七羽、結局全部倒してしまった。しかしこんなウサギ、とてもじゃないけど生け捕りは無理だ。

がくがくと身体の震えが収まるのを待ちながら、明日はもう少しだけ、やさしいクエストにしようと思った。




その日の夕暮れ時。

報酬交換所にてスピードラビットを納品し、1羽1万ゴールドで交換した僕達は、ギルドの食堂兼飲み屋で山盛りの唐揚げと何枚かの小皿に乗った食事を三人で貪っていた。


「もぐもぐ、この世界の食べ物も⋯⋯中々どうして⋯⋯イケますね、もぐもぐ」

「喋るか食べるかどっちかにしなさいよ⋯⋯あ、それもーらい!」

「あっ!てめっ、僕の手羽先を!」

「いいじゃないの、今日一番ウサギちゃんを倒したのは私よ?言わばMVP。手羽先の1つや2つ、増えるくらいの特例が合ってもいいと思うの。まあどっかの人間くんはあわあわ言いながら最後にはガタガタ震えてたけど?ぷーくすくす!」

「待て、震えてたのはお前の魔法のせいだろ!それに確かに今回僕は何も出来なかったが、このクエストの推奨レベル18って言うじゃないか!道理で僕の攻撃が当たっても全く通じないわけだ!僕のレベルが8ってのは見ただろ!?」

「そうだっけ?ウサギ程度なら私一人でもいけるでしょって思ったんだけど。実際全部一撃で倒したわよ?」

「こ、こいつ⋯⋯!まあリーゼがこのクエスト持ってきた時点では、推奨レベルなんて物があるのを知らなかったから仕方がないけどさ。こんな関係じゃなかったらとても言えないけど、次は僕が居るって事を念頭に、もうちょっとレベル下げたやつ選んでくれよ」


こんな関係、とは、あくまでこの二人は僕が異世界に慣れるまでの世話役という件だ。

慣れるまで、の基準が曖昧なので、とりあえずこの世界で冒険者として安定するまではよろしくという事にしておいた。


「もう、わかったわよ。しょーがないじゃない、これまで誰かと一緒に戦うなんて事なかったんだから。そんなに言うなら手羽先くらい返してあげるわよっ」

僕の文句を疎ましそうに頬を膨らませ、僕の皿から奪い取った手羽先を再び突き返し、他の唐揚げを口にかっ込む。


ミーシャとリーゼのレベルは僕より高い。それに加えて元々のステータスも最高水準に近く、上級職である事によるボーナスにより、更なる底上げまでされてると言う。

レベルはあくまで1つの基準であり、それが絶対的な結果をもたらすとは限らない。

しかしこうまでハッキリと数値で表されていると認めるしかないが、このパーティでは僕はお荷物である。


とは言え、この二人ばかりが経験値を稼いでも仕方がない。結局、最終的には自分が強く生きられるようにならなければならないのだ。

その為にも、立場が弱い事を気にして抗議のひとつも出来ないのでは命に関わると、今日1日で痛感した。


「ふふん、昨日ちょっと有能な働きをしたからってリーゼに何も言わなかったのが間違いでしたねもぐもぐ。ですが私は違います、もう明日のクエストを受けてきましたよもぐもぐ!イムヤのレベルに合わせたクエストをねえもぐもぐごくん!⋯⋯あ、イムヤ、その手羽先いらないなら貰ってもよろしいですか?」

「だから喋るか食べるかどっちかにしろよ⋯⋯ほらよ」

「あっ!ずるい!ミーシャにあげるなら私が食べても良かったじゃない!」

「飯の事でまで喧嘩するなよ⋯⋯」


昨日に続き、今日までもギルド内でぎゃーぎゃーと騒がしい僕等⋯⋯というかこの二人。

お陰で中々に周りの目が気になり、目の前の唐揚げに伸びる手の速度も遅くなるというものであった。




---------------------------------------




「ところで、ミーシャとリーゼはこの世界で有名人なのか?登録の時、えらく騒がれてたけど」

「えっ!? その、あはは⋯⋯あまり自慢する様な事では無いのですが⋯⋯」

「そ、自慢するような事じゃないから今は言わなくていいでしょ?いつか機会があったら教えてあげるわよ。ま、この大悪魔ベルゼリーゼ様ほどになると、天界に魔界どころか人間界にまで名が広がるのも当然だけどね?」


「そうか、それは凄いな⋯⋯じゃあこの状況、なんとかしてくれるか」


更に翌日。ミーシャの受けたクエストへ向かった先は、またもやジーマ林道。

ただし昨日は北口、今回は西口から突入した。出てくるモンスターに僅かながら違いが有るという。


ジーマ林道西口にて可能な限りモンスターを討伐せよ。報酬は出来高制。推奨レベル6。



⋯⋯なお、パーティメンバーは6人以上を推奨します。



そう、僕達は無数に沸く獣型モンスターに囲まれていた。


「最初、私達が出会った丘にハンターウルフが現れたのも、このモンスターハウスからあぶれた個体だったのでしょうね」

「それにしたって多すぎるでしょ。出来高制なんて雑なやり方でクエスト提示するだけあるわ」


モンスターハウス。森やダンジョン等のモンスターの生息する場所にて、雑多な種類のモンスター達が集落の如く一箇所に集まってる現象をそう呼ぶという。

丘で出会ったハンターウルフを始め、それの亜種と言われる毛皮が黒いブラックウルフ、スピードラビットより能力は劣るが攻撃性は変わらない角の生えたウサギのアルミラージ、全然可愛くない顔で威嚇しまくってくるスリートキャット、目の様な模様の羽をした巨大な蝶の姿をしたバタフライアイ⋯⋯ざっと見ただけでも気が遠くなるモンスターの数々だった。


初心者はコレを狩れ!とギルドに置かれてたガイドブック的な物に載っていたモンスターばかりで、どれも個別ならレベル3もあれば危なげなく処理できる所謂雑魚敵ではあるが、レベル20が二人いた所で、こう数が多過ぎては無双も難しい。

現実はゲームほど簡単ではない。暴力的な数というのはそれだけで脅威だ。

ミーシャとリーゼが魔法を使えたなら無双も余裕だったろうが、今現在そういった攻撃魔法はこのパーティに持ち合わせがない。

単体攻撃出来るのが三人揃ったところでジリ貧になるのは当然の事である。


「もうお前らの取ってくるクエストは信用しない⋯⋯次からは僕が選んでくる⋯⋯」

「そ、その⋯⋯はい⋯⋯ちょっと数が多いくらいなら私とリーゼで余裕かなと、そう思ってました⋯⋯すいません⋯⋯」

「おう、何も言ってないのに自白してくれてありがとう⋯⋯。そして昨日リーゼがクエスト取ってきた時と同じ理由だけど、レベルが低い分まだマシと思ってたのは伝わるよ⋯⋯。しかし確認しなかった僕に学習能力が無かった事を差し引いても、今日はミーシャの分の手羽先は無しだ」

「そんなっ!」

「馬鹿言ってないで何とかするわよ⋯⋯っとぉ!」


飛びかかってきた狼を殴り飛ばし、立て続けに他も4、5体ほど薙ぎ倒すリーゼ。

しかし、それでもわらわらと現れる後続のモンスターの群れに突破口を開けない。

一進一退を繰り返し、じわじわとモンスターの輪に距離を詰められる僕達。


「もう無理矢理突破してでも逃げるぞ!二人で力を合わせて道を開いてくれ!幸いここのモンスターなら僕でも攻撃をいなすくらいできる、二人の後ろを追いかけるから頼⋯⋯」

「えっ、リーゼと力を⋯⋯?そ、それはちょっと⋯⋯」

「仕方なくこうやって一緒に居るけど協力とかは無いわー」


この生死の瀬戸際に、想像を遥かに超えた返答が二人から帰ってきて思考が止まってしまった。

天使と悪魔、仲が悪いのは仕方がない。昨日、一昨日と目の前でそれはしっかりはっきりと理解した。


⋯⋯⋯⋯ここまでとは思ってなかったが。


「おま、お前ら、しょう、正気か⋯⋯?マジなのか⋯⋯?この絶体絶命の状況下で⋯⋯?」

「気を触れたみたいに言われると心外です!ですが、どうあってもこの悪魔と力を合わせるなど考えられませんね!」

「こっちこそ、パーティ?って言うの?ただでさえ同じパーティ内に居るのが我慢ならないのに、仲良く協力なんてごめんだわ⋯⋯あ」


と、そこまで耳を疑う回答が返ってきた辺りでリーゼが僕の方向を向いて声を上げた。

正確には僕の後ろ。いきなり背中にドンッと衝撃が走る。


「だ、大丈夫ですか!?⋯⋯はぁっ!」

巨大な蝶、フライングアイの体当たり攻撃。受け身も取れず地面に倒れたが、次の攻撃が来る前にミーシャが斬り伏せて仕留めた。

アホな問答をしている内に、一匹、また一匹とモンスター達が飛びかかって来る。


「くっ⋯⋯!まずい⋯⋯!」

「もう!イムヤ、あんたも自分の身は自分で守りなさいよ!」

「わかってるよ!⋯⋯がぁ!?」

僕も起き上がって応戦するが、モンスター達から受け損なったダメージによりじわりじわりと体力が削げていく。

まずい。これはまずい。本格的な焦りを感じ始めるが、攻撃を開始するモンスターは一つ、また一つ増えていく。

ミーシャとリーゼはレベル差の問題でダメージ自体は殆どなく、一度に何匹と敵を屠るが、僕に襲いかかる敵を捌き切れていない。


やがてブラックウルフが僕の腕へ食らいつく。きつい痛みに耐えて引き剥がそうと腕を振るも、その間にハンターウルフ、スリートキャットまでもがこの身に歯を食い込ませる。

ここまで来ると、数日前まで平和ボケしていた僕ですら。

この数の殺意を獣達に向けられて尚、どこか現実離れした、まるでゲームをやっていた様な気分が抜け切れていなかった僕ですら。



”死”という現実が迫ってきている事に気付く。



身体にまとわりつくモンスターも引き剥がせない。流れ出る血に乱れる呼吸。

ナイフを振るうのもおぼつかない。


「――――!!――――――――!!?」

「――――――――!――――――――!」


遠くから、酷く遠くから声が聞こえる。

僕の名前を呼んでいるのだろうか?

声は段々と、ゆっくりと、少しずつ遠くなり、聞こえなくなった。


嗚呼。

これは、もう、死ぬ。

死んで異世界に流れ着いた筈なのに、また死ぬのか。

今度はこんなにじっくりと。生を惜しみながら死ぬのか。


全身を抉る激痛は最早無く、ただ、体中が業火で焼かれる様に熱い。

それでいながら、雪国に放り出されたのかという寒さも感じる。

目の前の景色がチカチカと点滅し始め、残った意識で最期を悟った。


その瞬間。




「ああああああああああッ!!」




「⋯⋯!?」

「ちょ、何!?」


突然の絶叫、そして目の前で薙ぎ倒されていく、僕に纏わり付いたモンスター達。

咆哮の如き叫びに怯んだのか、後ずさるモンスターも一つ、また一つと僕の前で切り裂かれていく。


「がっ!がっ!!があああああああ!!」

乱暴に、無為に、ナイフを振るう腕が何度目かの肉と骨を斬り、唐突にバキリと音を立てて砕け散った。

そしてそこでようやく気付く。

今の絶叫は自分自身の物だった事を。無数のモンスターを薙いだ刃物を振り回していたのは自らの腕だった事を。


「ぐおおおおおお!!あああああ!!」

「うるさっ!?何よ、この人間、キレたらヤバいとかそういう系!?」

「わかりません!何が起きているのかはわかりませんが、とにかく今ので活路は開きました!一気に駆け抜けます!!」


自分の声の喧しさで、聴覚が戻ったことが判った。

ミーシャとリーゼの声も、獣達の咆哮も、悲鳴も、全て聞こえる。

まるで自分の身体を、別の誰かが操作していて、自分はそれをどこか他人事のように聞いている感覚だった。

砕けたナイフの柄を構わず振り乱し、この身の行く先を邪魔する者は屠りさる。

飛び散る血飛沫は誰のものか。

僕という意識はどうする事も出来ず、その光景を眺めていた。

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