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天と魔が降る明星に  作者: 地下渓谷
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4 タトスの町

タトス。

この世界で最も冒険者の数が多いとされる町である。

冒険者はタトスに始まりタトスに終わると言われる程に、大小様々な冒険者向けの仕事……所謂クエストの取引が行われている。

この町がこのような発展を遂げた最大の要因は、これまた世界最大のギルドの存在にある。


ギルドとは、職業別に仕事を斡旋し、その案内料にて運営が成り立っている組合。

この世界では依頼主がギルドに仕事を依頼し、冒険者がその依頼を請け負うのが主流のようだ。

大まかな仕事内容としては、やはりモンスターの討伐が大部分を占めるが、中には貴重な素材の収集、不倫の調査、子供のお守り、お悩み相談と、一攫千金から小遣い稼ぎまで幅広い。


タトスのギルドは規模だけで言うならば、この世界において絶対なる覇権を握る巨神国家ゼロウスのギルドすら越えるとされている。

が、ゼロウスには名うての冒険者が多く集い、高難易度のクエストが掲示板を占めていたり、西の国イグラートでは貿易・文化交流が盛んな事もあって輸送クエストが多かったりと、地域毎の特色が色濃く反映されているのが伺える。


その点、このタトスでは一般人でもできる超初心者向けクエストから、ボスと呼ばれる上位種のモンスター討伐等の超高難易度クエストまで幅広く取り扱っているので、この町を好む冒険者は後を絶たない……らしい。


という話を僕は目の前の老人から聞かされている。


「儂が冒険者だった頃はまだクエストというシステム自体が広まってなくてのう。自分達の足で仕事を見つけたりしておったわい。そんでちょっと自分には合わないと思った依頼を、ギルドで雇い手を探してみたらどうか?と提案してみたりのう。いやあ働き甲斐のある時代じゃったわ」

「へえ~、そうなんですか……ははは……」

「……zzz」

結構長い事この老人の話を聞いてる気がするが、僕の隣に座っているリーゼは尚も完全に爆睡していた。




何事も無く林道を抜けてタトスの町へ辿り着いた僕は、全く見慣れないその巨大な町の風景に圧倒される。

町の通行人を見渡すと、角や羽根が生えた人がちらほら見受けられたり、獣や爬虫類、果てには骨が服着て二足歩行していたりなど中々に壮観な光景だった。

後で聞いたが、タトスは冒険者だけでなく異種族の出入りも他の町より多いという。


まるで夢のようなこの町を暫く見て回りたい気持ちがあったが、日本の学生服を着ていたからだろうか、通行人からの視線がひしひしと感じられていたたまれなくなったので、ミーシャがギルドへの道筋を通行人に聞いてくれ、足早に向かうことにした。


着いてからすぐに待合室を探し、僕を置いてミーシャがギルドの施設内の詳細を調査しに席を立った。

そしてすぐにリーゼも、ちょっと出かけて来るわと席を立つ。


一人取り残されていると、通りがかったおじいさんが僕の服を見て興味深げに寄ってきたので、世間話を聞いてあげながら適当に相槌を打っていた。

この世界についての基礎知識的な話も交えていたので始めの内はなるほどと思いながら話を聞いていたが、やはり老人の話が長いのはどこの世界も同じみたいだ。

そしていつの間にやら、紙のような物を持って戻ってきたリーゼだが、老人の話を聞いてる僕を一瞥して隣に座り、そのまま爆睡を決め込んでいた。


「それでな、儂の孫がまた可愛くてな……」

気付いたら孫の話にまでなっていた。

まずい、このままでは無限に話を聞く羽目になってしまう……さよなら現世、このまま僕は悠久の時を過ごし、僕の亡骸に樹が生え、そこから新しい生命の息吹が……等と下らない思考にふけっていると。


「イムヤ、リーゼ、待たせてしまい申し訳ございません!」

「おっと、救世主の登場だな」

「? 何がですか?」

「いや何も。……リーゼ、そろそろ起きろよ。という訳でおじいさん、色々お話してくれてありがとうございましたまた会いましょうははは」

「え、イムヤ、ちょっと待……リーゼ!早く行きますよ!うわ全然起きない!」

「そこでバカ息子が戯けた事を抜かすのでな、儂もまだまだ若いもんには負けんわいと言い返してな……」


ようやく帰ってきてくれたミーシャの姿を確認するやいなや、そそくさと立ち上がって逃げるようにその場を後にする。

全然起きないリーゼを起こそうと苦戦するミーシャの救難信号も、僕が立ち去ったのに延々と関係ない話をしゃべってる爺さんの声も、何もかもを聞こえないフリをしてとっととこの場から離れた。

さらば物知りじいさん。ギルドに通う事があればまた会えるだろう。長話は程々にしてくれ。




ミーシャの報告を聞くために受付の設営がされた広間に出た。

この町で最も人の流れが行き交う場所であり、非常に雑多に賑わっていた。

数々のクエストが貼り付けられた掲示板の近くで立ち話の形で集まる。

周りを見ると、似たような形で話し合いをしている冒険者の風貌をした者達が散見された。


「もう、ひどいじゃないですか置いていくなんて!」

「悪かったって。でもミーシャもえらい長くなかったか?こっちはそのお陰であの爺さんの話を延々と聞かされる羽目になってさ……」

「ふあぁ……ん~……これだけ人を待たせてたんだから何か重要な事とか有ったんでしょ?」

眠い目を擦りながらリーゼがそう言うが、お前は殆ど寝てただろ。


「あうう……それはすいませんでした。ですがこの町の事やギルドの事について、ちゃーんと情報を集めてきましたよ!まず、この町のギルドは何とタトスに始まりタトスに終わると言われる程に巨大なギルドがあってですね!」

「うん、多分今から喋ろうとしてる内容はもう全部知ってる」

「えぇ!?」

自信満々な表情でこの町について語り始めたミーシャだったが、二秒くらいでその表情は崩れた。

そうだね、大切だもんね町の紹介。でもさっきの爺さんから全部聞いている。


「じゃ、じゃあこのギルドは超初心者から超上級者まで、どんな冒険者であっても仕事を斡旋出来るほど幅広くクエストを取り扱っている事も……」

「知ってる」

「そ、そんな……」

「ていうか何であんた一人で行ったのよ」

「ぐうう、何も言い返せません……案内の方に冒険者の初歩について聞いたまではよかったのですが……つい、聞いてる内に人間界での文化に興味を持ち、この町についての話を深追いしてしまったのがいけなかったのです……」

こっちはこっちで捕まってたというか、ミーシャがご丁寧に色々聞きすぎてたんだろう。


「ところで、このギルドでクエストを受けるにはどうしたらいいんだ?それについてもギルドの案内の人が詳しく話してくれたろ?」

「こほん、勿論です!ええ、ええ。話しましょうとも!」

がっくりした顔から一転、いい笑顔を見せてくれる。本当に嬉しいのが伝わってくるな。


「ええと、まずは受付で冒険者登録を終えて、許可証を頂かなくてはいけません。登録の手順としては名前と住所が必須。あと自由枠に自分の得意とする、或いは優先したい分野⋯⋯⋯例えば討伐か、輸送か、等ですね。それらを申し込み用紙に記入してギルドに提出。その後、魔導共鳴検査によって個人の身体能力や魔導回路の検査を行います。これはすぐに結果が出る画期的な検査法であるが開発に至る歴史は大変に困難を極めた苦難の連続で⋯⋯」

「おーけーおーけーそこまでにしよう。これ以上の長話は沢山だ」

「はっ!す、すいません⋯⋯」


着実に逸れ始めたミーシャの話を遮り、爺さんの長話が脳内にリフレインしそうになった。

と、黙って聞いていたリーゼが口を開く。


「で、住所って何書いたらいいのよ」

「え?幾ら大悪魔ベルゼリーゼ様と言えども住所の意味も知らないのは恥ずかしいのではございませんか?え?え?またまたご冗談を!うふふ!」

おお、ミーシャの煽り攻撃。何となくだがこれは凄く珍しい予感がする。覚えておきたい。

リーゼは眉をピクッと動かしたが、しかし淡々と続ける。


「いや、私たち今さっき来たばっかなのに住所も何も無いでしょ」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯あ」

「ていうかそこ一番重要じゃないの。それ聞いた時点で「大変ですう〜!このままじゃ冒険者になれましぇ〜ん!」って泣きながら言いに来るとこでしょ。あんた1時間もなにやってたのよ」

「イ、イムヤ⋯⋯リーゼが⋯⋯リーゼがひどいです⋯⋯何も言い返せません⋯⋯」

「やめ、やめろ。僕に振らないでくれ⋯⋯」


煽り攻撃はタイミングを間違えると恐ろしいダメージが帰ってるものだ。

僕は目の前でそれを見せつけられて、あんまり下手な事は言わないようにしよう、と思った。




「はい、と言うわけでここに部屋の契約書がありまーす」

リーゼが先程から持ってた紙をぴらりと僕達に見せつける。

それを手に取って目を通すと、住所と思わしき番地の数字、部屋の内装の概要などなどの記載がされていた。


「あ、もしかしてさっき出かけるって言ってたのは⋯⋯」

「そ。この建物入った時に賃貸がどうとか書かれた立て看板あったからね。まずは拠点が必要とか言ってたじゃない。どっかの脳みそお花畑天使ちゃんの様子見に行ったら、熱心に人間と話してたし、どうせ勝手に部屋取る真似もしないでしょと思ってね。お金の支払いがどーとか言ってたけど、そんなもん無いって言ったら後払いで良いってさ。この世界は融通効くわね」

「有能大悪魔ベルゼリーゼ様じゃん⋯⋯」

「そうでしょうそうでしょう、もっと崇めてもいいわよ。これでも魔界じゃ最も気が利く悪魔リーゼ様って評判だったのよほほほ」

何という有能悪魔。これには一日リーゼ様と呼ばざるをえない。最も気が利く悪魔って称号はどうかと思うけどな。


「ところで先程調子に乗りまくってた天使ちゃんは?どうしたの?私に何か言う事ないの?ん?ん???」

リーゼのカウンター煽り攻撃!ミーシャは死ぬ!


「しにます」

どこから取り出したのか、ぐるぐる目でナイフを自分の首に向けていた。

何を本当に死のうとしてるんだ正気か。


「バッ!おま!やめろ!!」

「思ったんだけど、あんたちょっと私のこと馬鹿にしすぎじゃない!?」

「りりりリーゼにこの様な事で遅れを取るくらいならいっそ自決した方が⋯⋯!」

「よーしそこに直りなさい。私が直々に引導を渡してあげるわ」

「ストップ!ストーップ!周りの人も見てるから!見てるから!」


この人の多さでもぎゃーぎゃーと騒いだのが余程目立ったのだろう、他の冒険者達からの目が痛い事になっていた。


とりあえず、とりあえずは。

これで住むところを確保できたのであった。

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