じゅっこめの話
「さーて、それじゃいっちょ、全員一緒にクリアといきましょうか!」
そこに四人が現れた後の、最初の言葉がユキのそれだった。
「そうですね、皆揃ってあと少しなんですから、今日で終わりますよね!」
「そこ、微妙なフラグ構築はするな!」
桃香のその言葉に小百合はそう言い、
「元気だねー」
「あのテンションには、正直ついていけないです」
そんな三人を見ながら、スフィアと奏がそう呟いていた。
「とにかく、いつでも準備オッケーだから、エレメントカマーン!」
「そう言われてもなー」
そんなテンション高めな小百合の言葉に、スフィアは辺りを漂いながら冷静な声でそう呟いた。
「そういえば、なんかゲームだとこういうクリア直前ってボスラッシュ的なのがあったりするわよね」
「だから不吉なことを言うなって!」
なんとなく呟いたユキの言葉に、小百合は指差しながらそう文句を言った。
「あの蛇みたいなのと、また戦いたいですか?」
「それは勘弁して欲しいですね」
そんな奏の疑問に、桃香はため息とともにそう答えた。
「さて、ひと通り騒いだからもういいでしょ。私は何かが来る前にちょっとヤボ用を済ませちゃわないといけないからね」
ユキがそう呟きながら剣を出し、
「……これは、何の冗談なのかなー?」
その切っ先はスフィアに向けられていた。
「冗談、というつもりはないわよ」
スフィアの言葉に答えるように、ユキはそう話し出した。
「こっちに私が来てからもう五ヶ月、それこそいろいろとあり過ぎて困るくらいなんだけど……ちょっと疑問点が多すぎるっていうのが困りものなのよね。その疑問の中でもわりと分かりやすい部分が明確になったのが先週よ」
「疑問って、なんだい?」
ユキの話を聞いて、スフィアは剣の切っ先から逃げるように辺りを適当に動きながらそう尋ねた。
「先週、蛇から出てきたナミダを渡した時に、確か私はこう言ったわよね……三等分にしてって」
「だから、三つに分けたじゃないか」
「私はね、三等分、にするように言ったわけよ。それなのに三人の小瓶の中身がほぼ同じ量で終わったのを見て、それを確信したのよ。ねぇ……なんで中身の量がバラバラだった三人が、三等分されたナミダで同じ量になって終わったのかしら?」
ユキの疑問に対して、スフィアはただ浮きながら沈黙するだけで時間が経過し、
「答える気がなさそうだから推測で話させてもらうけど、あなたはナミダの量を意図的に操作できるってのが、先週の一件で分かったわけよ。つまり、私があと少しってところで止まったのも、あなたが意図して操作した結果なんじゃないかってこと。それなら、あの時も先週もあの蛇が現れた条件が合致した理由が納得のいくものになるの。あの時も確かあなたがナミダを分割してたからね。それでひとつ聞くけど……あなたはどこまでここの状況に干渉できるの?」
さらに続いたユキの疑問に対し、
「それはさすがに漠然とし過ぎてて、どう答えていいのか分からないんだけど、こっちもひとつ言いたいことがあるんだよねぇ……君がここのことをどの程度まで推察したのかは知らないけど、少なくとも君たちはここが本来あるべき形を根っこから壊し始めてるんだよね。だからさ……ちょっと仕事が増えちゃって困ってるんだよ。駆除作業、ていう仕事がね」
そう続けながら、ゆっくりとその体が球体から変化をし始めた。
「じゃーん! いやー、人間の姿を模るのも久しぶりだなー」
そしてスフィアが変化したのは、肩まで伸ばした髪を三つ編みにした、桃香と同じデザインの赤い服を来た少女だった。その姿を見た瞬間、ユキは無言のまま飛び出し、そのままスフィア目掛けて剣を振り下ろしていた。
「おっと、この姿になっても意外とあっさり斬りかかってこれるんだね」
「そりゃそうよ、目の前で変化されたなら、あんたがスフィアだっていう事実は頭の中で理解できてるからね……それにしても、あんたは空気を読まないだけかと思ってたけど……まさに人を怒らせる天才ね!」
振り下ろされたユキの剣を右腕で受け止めながら言ったスフィアの言葉に、握った剣に力を入れたままユキはスフィアを睨みつつそう言い返した。
「ああ、あとね……どこまでここの状況に干渉できるのかって質問に関しては、本当にどこまで干渉できるのか実際に限界までやってみたことがないから、明確には知らないってことではっきりとは答えられないんだけど……とりあえずこれくらいはできるんだよね」
そしてそのまま左手を上に振り上げた直後、スフィアの後ろに赤いトカゲが唐突に出現した。
「これくらいって……結局エレメント呼べるんじゃねーかよ!」
スフィアの後ろに現れたトカゲを見て、小百合はそう文句を言った。
「別に呼べるってわけじゃないよ。これは先週のやつをいくらかピンハネした分で急造したやつだから、ある程度の指示を受けて動いてくれるような代物になってるんだよ。性能面は前のより相当なレベルで劣化しちゃってるだろうけど……ま、君たちにとっては初見だろうから、前もって対策を立てられてない分を考えれば十分な戦力かな」
スフィアがそう言い終わり、そのままユキの剣を弾きつつ後ろに跳ぶのと同時に、トカゲは素早い動きで四人に向かって駆け出していった。
「で、どうするんだ?」
「どうするって言われても……とりあえず自分の身は守っといて!」
「適当過ぎだろ!」
小百合とユキはそう言葉を交わしつつ、向かってくるトカゲに対して身構えた。
「とりあえず、これやっとくけどいいよな!?」
「何やるか大体分かってるから、とりあえずやっておいて!」
小百合が手のひらを縦にしながら言ったことにユキが答えた直後、小百合は向かってくるトカゲの正面に大きな鉄板を出し、その進路を塞いだ。それに激突したらしい大きな音を聞いた直後、
「まだまだ!」
続けてその鉄板の左右にそれぞれ、おおよその位置を予想してトカゲを囲むように大きな鉄板を出す。
「まだまだだよ!」
そんな掛け声と共に、スフィアが小百合の出した鉄板を飛び越えてきた。
「ちょっと待て! その身体能力はいくらなんでも反則だろ!」
鉄板を飛び越えてきたスフィアを見て、小百合はそう大声で叫んだ。その直後、スフィアはそのまま落下して地面に顔面から激突する。
「……いやー、身体能力自体は皆と大して変わらないからねー。さっきのジャンプもあれを踏み台にして跳んだだけだぉあ!?」
スフィアは起き上がりながら軽い感じでそう呟いているところに、小百合は無言で上から鉄板を落とし、それがスフィアに直撃した。
「……煽るだけ煽っておいて緊張感を削ぐのは、この怒りの矛先を見失いそうになるからやめてほしいんだけど」
「好きでやってるわけじゃないんだけどね」
真顔でそう言うユキの言葉に、スフィアは鉄板を退けながら起き上がりつつそう答えた。そこに、
『あー、あー、テステス』
急にそんな声が辺りに響き渡った。そしてその声のした方に全員が視線を向け、そこには桃香が立っていた。
『……聞こえてますかね、これ』
「……服が喋ったー!」
その声が自分の着ている服から発せられていることに気付き、桃香は大声でそう叫んでいた。
「というか、その声は司書さんじゃないですか! なんで服になってるんですか!?」
『服になってるわけではなく、服を通して声を届けているだけですよ』
そんな桃香と服との会話を、他の三人はただ見ているだけだった。
「その声……ひょっとして『指標』だね?」
『おや、やっぱりあなたがいますか』
その唐突に始まった会話に割り込んだのはスフィアだった。
『今日も頑張ってお仕事ですか。相変わらず仕事熱心ですね』
「そっちが本来の仕事を放棄したせいで、こっちにその分がのしかかってきているだけだよ」
『それはそれは、ご愁傷様です。私からしたらそっちの不幸がもの凄い楽しいんですけどね。実際に目の当たりにできないのは残念ですよ』
「あのー、人の服を使って世間話するのやめてくれないですか?」
そんな司書とスフィアの会話を、今度は桃香がそう遮った。
『そうですね、あまり茶番に時間を割くのは得策ではないですし……それなので、ちょっとそこの人たち、借りていきますね。拒否は受け付けませんよ』
司書の声がそう言うと、急に四人の足元に穴が開いて落ちていった
そこは辺り一面が本棚で埋め尽くされた場所だった。
「四名様ごあんなーい」
天井に開いた穴から落ちてきた四人を見てそう言ったのは、フードを目深に被り茶色い外套を身にまとった女性だった。
「いやー、思った以上に意表をつけてうまくいきました」
「いや、ちょっとハイスピードで状況が変化していってて、いろいろとよく分からないんだけど……確か司書って桃香ちゃんが呼んでいたわよね……ということは、ここのところ毎日のように桃香ちゃんを拉致って連れ込んでいたあの司書かしら?」
そんな軽い口調で話している女性に、ユキはそう話しかけた。
「なんかもの凄い誤解を招いていることが容易に想像できる発言をされましたが……ひょっとして、私のことを話しました?」
ユキの発言を聞いて、司書は桃香にそう尋ねた。
「いやあの、なんか毎日のようにここに引っ張り込まれるとですね、さすがに心配になってきちゃって、ちょうど相談できそうな人がいたら、うっかり口を滑らすと思うんですよ」
そんな司書の視線に気が付いた桃香は、早口でそう言い訳をしていた。
「つーか、知り合いか?」
桃香と司書の会話を見ていた小百合が、桃香にそう尋ねる。
「知り合いというか……突発的に会ったというか……」
「最初はちょっとした手違いというか、うっかりでここに引っ張り込んじゃいまして、その時に会いました」
説明しようとする桃香を引き継ぐように、司書がそう説明した。
「で、あなたは誰なの?」
「そうですねぇ……やっぱり図書館っぽいところにいるので、司書と呼んでください」
怪訝そうな表情でそう尋ねたユキに、その女性は軽い感じでそう名乗った。
「いや、名前についてはもう桃香ちゃんから聞いてるから、別にどうでもいいのよ」
「それで、そのジージョがどういうつもりで私らをここに引っ張り込んだんだ?」
「人の名前をもの凄い間違い方してますね」
ユキの言葉の後に続いた小百合の質問に、司書はそういう反応した。
「とりあえず、なぜあなた方をここに連れ込んだのかについてはですね、いろいろと私の思惑というものがあるのですが……とりあえず、何も知らないままでは思い通りに動いてくれそうにないので、漠然としたものでない質問にはできるだけ答えて、ある程度の状況を理解してもらうつもりで呼んだんですよ」
「漠然としたものでない質問ねぇ……じゃあまず、ここどこ?」
「見ての通り、図書館のような場所です」
「いや、そんな見れば分かるような答えを期待してるんじゃなくて……」
自分のした質問の答えを聞いて、ユキはため息混じりにそう言い返した。
「あなたのいう『ここ』が、この場所を意味するのか、こちら側全体を意味するのかは知りませんが……正直に言いまして、明確な名称というものがそもそも存在してないのですよ。なので、何と呼ぶかはそちらにお任せしておきます」
ユキの文句に対して、司書はそう説明を追加した。
「そういえば、ここで使われている名称や固有名詞なんかも、確か私たちの前にここに来てた人が付けてたって言ってたわね」
「そういうことです」
そんなユキの呟きを司書は肯定した。
「じゃあ、質問を変えるわ。私たちが戦ってきたこっち側って、どういう原理で存在してるの?」
その質問を聞いた司書は、少しの間だけ何かを考えるような素振りをして、
「原理については、私も明確なことまでは知りませんが、そうですね……残留思念という言葉がありますよね。その残留思念というものはあなた方が生活している側で発生して、こちら側では糸のような状態で漂っているような存在なんですよ。そしてそれはより強い思念に引っ張られていき、その糸のような残留思念がだんだんと絡み合っていくんですよね。それが繰り返されることで、徐々に相応の形を形成していき……」
「それってまさかとは思うけど、それがエレメントになるってことじゃないでしょうね?」
「そのまさかで、あなた方がエレメントと呼んでいるものになるのですよ。それが本来なら平時ではそこまで大したものに形成はされないのですが……人間の歴史って、これでもかってくらい残留思念の集約が行われる事態が起きまくってるんですよね。そのせいで、あまりにも膨大な思念の集合体が発生してしまいまして、その結果として生み出されてしまったのがこの場所なのですよ。さて、ここまでで何か質問はありますか?」
彼女がそこで話を区切り、他の四人の反応を確認する。
「……なんか、理解の範疇を超えてる気がして、頭痛くなってくるな……」
「こういう謎が増え続けていく話って、あまり好きじゃないんだけど……そもそも、聞きたいことが多すぎて何から聞いたらいいのか分からないっていう問題もあるのよね」
そんな小百合とユキの呟きを聞き、
「なら、このまま説明を続けていくので、疑問があったらそこで尋ねてくださいな」
彼女はそう言ったのだった。
「それでこの場所なのですが、ただ集合の規模が増えただけなら大した問題ではなかったのです……そういえば、あなた方がいつも相手にしているあの物体の数々が何なのか、どう聞かされてますか?」
「疑問があったら尋ねろと言った矢先に質問された!?」
司書が切り出した話の途中で質問が出てきたことに対して、小百合がそんなことを言っていた。
「確か……あれが通り抜けてあっち側にいったら、なんか災害みたいなのが起こるとかなんとか……」
「あー、すでにそこで間違えてますね」
そんな桃香の答えを司書は即座に否定し、
「あれにそんな物理的な現象に干渉するような力はないですよ。こっちに来ているあなた方が精神だけの状態であるように、あれもまた精神だけのような存在なのですから。まぁ、出来たとしても人の心に干渉して何かしらやらかすくらいじゃないですかね。ほら、あなた方の言葉で『魔が差す』というじゃないですか、それが起こる程度ですよ。そもそも、そこら辺を漂っているようなのは出来損ないでしかないですから、それこそ大した干渉はできませんよ」
そう説明を加えた。
「出来損ないってことは、そうじゃない完成品みたいなのもあるってことよね」
「あっ、あのなんか動物とかの形で出てくるの、あれがそうなんじゃないですか?」
司書の説明を聞いてユキが呟いたことに、桃香がそう聞き返した。
「残念ながら、そういうのも含めて出来損ないなんですよ」
桃香の質問に対しての司書の返事がそれだった。
「それじゃあ、どういうのがそうなんで……」
「……その前にちょっと気になるんだけど、そもそもあなた自体が何なの?」
桃香の次の疑問を手で制して、ユキが司書にそう質問をぶつけてみた。
「私は見ての通り、司書ですけど」
「そういう意味で聞いたわけじゃないってのは、あなたも分かってるんでしょ。だいたい、こんなところにいるってことは、どう考えてもあんたは人間ってわけではないわよね?」
司書の答えに対し、ユキはそんな指摘をした。
「分かりやすくいえば、出来損ないじゃない方の存在ってことですね」
「つまり、エレメントの一種ってこと?」
「それで正しい認識ですね。つまり完成品というのは、私のように自己の意識を持って稼動できるように作られた存在、という感じです」
ユキの疑問に対して、司書はそんな答えを話していた。
「なんでそんなものを作る必要があるのよ?」
司書の答えを聞いて、ユキはそんな疑問を口にしていた。
「例えば……あなた方がこっちで何らかの理由で倒された場合、向こうにある身体の方はどうなると思いますか?」
「たぶんだけど、擬似的な精神が動かすようになるのよね」
「……推測ながら即答したところをみると、すでにそうなった人に会ったことがあるのですね?」
ユキの答えに返すような形で発せられた司書のその質問に、しばらくは誰も答えなかった。そして、
「……会ったどころの騒ぎじゃないんだけどね……」
「ちなみに、精神がこちら側に来ている間も身体を動かすために、自律精神という身体を動かす精神が存在します。それで、こっち側で精神の方が消失してしまえば、その自律精神も維持することはできなくなります。そうなると、当然身体の方は空っぽになる。そこに完成品の側に分類される私のような存在が、こっちで脱落した人と入れ替わるために存在しているということになります。そうでなければ、精神が消失した時点で謎の不審死が発生してしまいますから」
そんなユキの呟きに、司書は笑顔で説明を続けた。
「……ひょっとして、あいつの中身もすでに変わってるってことか?」
ユキの出した結論を聞いた小百合が、震える声でそう聞いていた。
「ここに来てから一年以上経っていれば、そうなってますね」
「……ちょっと待って、それってもしかして一年以上経たないと入れ替わらないってこと?」
「そりゃ、剥離した精神とはいえ、ここにある以上はそうそう消えはしませんよ。まず、あなた方が着ている服はこちら側であなた方が精神だけで存在するためのものであり、向こう側の身体とこっち側の精神を連結させるためのものでもあります。同時に、向こうの身体を動かすための自律精神の維持と連結も行っています。そのため、それを着ている限りはこちら側で何があっても、こちらの精神も向こうの自律精神も即座に消滅することは絶対にありません」
小百合の呟きを聞き、やや口調を強めて司書はそう言い返した。
「……ということは……」
「……マジか!」
司書の説明を聞いて、ユキと小百合は顔を見合わせながらそれぞれそう言った。
「あの、何があっても、と言いましたよね」
「ええ」
「ひとつ聞いていいですか? もしここで自分から死ににいった場合って……」
「刺そうが叩こうが潰そうが爆破しようが、痛いというだけで死にはしませんよ。まぁ、その痛みが向こうに戻っても身体に響きはしますけどね」
「あー……やっぱり……」
奏の疑問に司書はそう答え、彼女は上を向きながらそう唸ったのだった。
「つまり一年以内であれば、あの蛇に飲み込まれた奴らも助けられるってことでいいんだよな?」
「『回収口』によって回収された精神は、時間経過を待つために催眠状態で保管されている状況ですから、助けようと思えば助けられますよ。ただ、それを行うには『選択肢』の索敵を回避して『紡ぎ手』を倒すという、非常に難易度の高いことをやらないといけませんけどね」
「かいしゅうこう? せんたくし? つむぎて?」
小百合の疑問に答える形での司書の話の中に出てきた何かを示す単語を聞いて、桃香がそう繰り返すように呟いていた。
「『回収口』というのは、あなた方が戦って倒したあの蛇の姿をした存在のことですよ。それで『選択肢』はあなた方がスフィアと呼んでいるあれのことで……『紡ぎ手』というのが、いわゆるここで行われているあなた方がエレメントと呼んでいる存在からあなた方がナミダと呼んでいるものを集積させて、私のような意思を持った存在を生み出すための、いわばここで行われているサイクルを司る心臓部分と言っても過言ではない存在です」
そんな桃香の呟きを聞いて、司書はそう説明を続けた。
「そうそう、これの事を失念してたわ。このナミダって呼んでる代物なんだけど、これって何なの?」
そこでユキが小瓶を取り出して、司書にそう尋ねる。
「残留思念の集合体が内包するエネルギーの結晶体を液状化させた代物ですよ。それが剥離した状態の身体と精神を複合する修復剤のような役割をして、あなた方がここで戦っている理由である『正しく生き返る』ことが成立するようになります。その小瓶は、それを行うために必要になる量を表しているのですよ」
「……これ集めると生き返るっていうの、嘘じゃなかったのか……」
そんな司書の答えを聞いて、驚いた表情で小百合がそう呟いていた。
「なんか……もの凄い部外者感がするのですが……」
「この次から次に出てくる情報に、頭がついていけてないのか……まぁ、私も半分は理解できてないが」
そんなやり取りの中で、頭を抱えながらそう呟く桃香を見て、小百合が呆れた表情でそう言っていた。
「そうねぇ、ここで話しているだけでも時間はどんどん経過しているでしょうから、早いところ話を切り上げて本来やることに戻りたいところだけど……なら、これで最後の質問にします」
そんな桃香の様子を見たユキがそう言って、
「その『回収口』とやらに飲み込まれた子達を助けるには、『紡ぎ手』とやらを倒せばいいってわけよね。それで、具体的にどうすればその『紡ぎ手』とやらのところに行けるわけ?」
そんな質問を司書にぶつけていた。
「予想以上に話が早くて、私としましても非常に助かります」
その質問を聞いた司書の最初の返事がそれだった。
「なるほど、その様子だと私たちを使ってその『紡ぎ手』を倒させよう、そんな算段だったって判断してもいいのよね?」
「少なくとも今はそのつもりでやってます。まぁ、それを思いついたのが『回収口』が潰された時ですけど」
「でも、あなたもエレメントの側の存在でしょ? なんでまたこっち側を壊すようなことを考えてるの?」
「ここが間違った存在だということを理解している、とでも思っていてください。それよりも……そうですね、私があなた方を利用する代わりに『紡ぎ手』をどうにか潰せたら、成功報酬として私が研究用に保有しているナミダと呼んでいるものを使って、あなた方をちゃんと生き返らせるという交換条件はどうでしょうか」
「……いいじゃない、あなたのその思惑、ひとつ乗らせてもらうわ。どっちにしろ、私たちだけじゃどうしようも……」
自分の疑問にそう答えた司書にユキはそう言いかけたところで、
「見ーつけたー」
そんな声が奏の後ろから聞こえてきた。