はじまりの話
気が付くと、彼女の意識は不安定な感覚の中を漂っていた。例えるならば、水の中をただただ浮き沈みし続けている、そんな感じだと彼女はふと思った。
「あー、あー、テステス……おーい、起きてる?」
なんとなく揺れ動いている様なその感覚に浸っていたところで、彼女は突然そんな声を聞いた。
「……起きてる」
「うん、起きてた。起きてたなら早速、今の君が置かれている状況を説明するね」
姿を見せないままに響いてくるその声は、返事をした彼女に明るい調子でそう話しかけていた。
「まずは……そうそう、ここがどこかってところからかな? ここがどこだか分かるかい?」
「んー……夢?」
「あー……まぁ、普通はそういう答えになるよね」
彼女の答えに、質問をした声は口調を変えずにそう話し出した。
「ここはね、いわゆる三途の川だっけ? 君たちの住んでいる辺りだとそんな感じで表現されるような、簡単に言うと生死の境にあたる場所だよ」
「それ、なんかもう死んでるみたいに言われてる気がする」
そんな声に彼女はただ宙を見つめながら、そう話しかけていた。
「当たらずとも遠からず、といったところかな。分かりやすく言うと、死にかけてるんだよね」
「死にかけてる……あ、なんか思い出してきた」
その声の発した言葉を聞いて、彼女はどうしてそうなったのかをふと思い出していた。
「思い出したのならもう分かってると思うけど、君は現在、本来なら病院のベッドの上で寝てることになるね。まぁ、身体の方は、と付け加えるべきかもだけど」
「てことは、死んじゃったのかな?」
「なんかあっさりとこの状況を受け入れる体勢に入ってるね。言っておくけど、正確にはまだ死んでないよ。ただ、このままいけば確実に死ぬことになる、というところだけどね。だから生死の境だって言ったんだよ」
そこでその声は一呼吸をおいて、
「さて、ここで本題に入るけど……君はまだ死にたくはないよね?」
口調を一切変えることなく、そう彼女に話しかけた。
「そりゃ、そう聞かれたら誰だって死にたくないって普通は答えると思うよ」
「そうだよね」
少し考えた後に発した彼女の言葉にその声は同意し、
「まぁ、まだ死んではいないから、ここで死ぬのを止めることだけはできるよ。ただ、後でいろいろと手伝ってもらうことになるけどね」
「手伝うって何を?」
その言葉に彼女はそんな疑問を投げかけ、
「んー……その辺はいろいろと複雑だから、説明するのがちょっと難しいんだよね。だから、それはその時になったら順を追って説明すると思うよ。それで……君はこの提示された条件を前に、どうする?」
そう説明した後に尋ねてきたその声に、彼女は同意を示す形で声を出さずに小さく首を縦に振っただけだった。