第一話 転生
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目を覚ました俺の目に映ったのは、二本の梁が堂々と掛かる三角形に尖った木造の天井だった。
(ここは……どこだろう?)
俺はまだ眠い瞼を擦りながら、そんな事を思った。
少し肌寒かったので柔らかな掛布団を足に掛けたまま、上半身を起こし部屋を改めて見渡してみる。
(あれ?ヤケに物が大きいな……)
その部屋を見て俺が感じた事は、ここにある物全てが巨大だという違和感だ。
チョコレート色の扉に青空の見える窓、意匠の施された箪笥や綺麗に整理整頓された勉強机、天井に吊された飾り付けのない照明すらも大きく見える。
まるで、俺が物語に登場する小人になってしまった様な不思議な感覚だ。
(まぁ、最近は残業続きだったからなぁ。疲れてるんだろう。違和感より、なんでこんなところで寝てるのか。そっちの方が大事だな…何してから寝たっけ?)
そう考えた俺は首をひねり、昨日眠りにつく直前の記憶を必死に探る。
(昨日は、長い残業が終わって近くにあるコンビニに寄って弁当と飲み物それからプラスαを買った筈だ。プラスαはご想像にお任せする。誰に言ってんだ俺は。)
俺は自分でツッコミを入れながら話を続ける。
(ご飯は自分で作った方が美味しんだけどなぁ。学生の頃は、母さんの帰りが遅い時とか偶に、俺が妹の分まで作ってたっけ。そしたら「お兄ちゃんのご飯の方が美味しい!」とか言ってたなぁ。お兄ちゃんは、あの時の言葉を一生忘れないよ。だがしかし!今の俺は悲しい事に、あの超絶ブラック企業に入社してしまって、肝心の時間がない。許すまじ、◯△株式会社。おっと、話しがズレてしまったな……。その後は、店を出て家まで歩いたな)
途中関係ない話があったが、ここまでは俺の代わり映えのしない日常そのものだ。我が人生ながら退屈な日々だと思ってしまう。
(……そして何時も通り、帰り道にある横断歩道を渡っている時に、急にトラックにクラクションを鳴らされたんだよな。あの時は間違いなく青だったのに……。そんで、音の聞こえた方を見たら目の前が真っ白に…その数秒後、全身に今まで感じた事のない痛みが走って……それから)
そこから先がわからない。
それ以降の記憶が、ハサミで切り取られたみたいに綺麗さっぱりに。
(……あれ?おかしいな、そこからの記憶がない。ってかそれだと俺、昨日寝てないね)
俺が昨日眠るまでの記憶を探っていた筈なのに予想外のところで終わっている。
(まぁ眠ってはいるけど……。それ、永遠の眠りですよね。ははは、そんなはずないって……ほら、足だってちゃんと……)
気付いてはいるが認めたくない。
そう思って、まだ下半身に被せていた布団を思いっきり捲る。
そこには、しっかりと白く柔らかな衣服に包ませた二本の足が付いていた。
そこ有ったのは、俺がホッと安心するものはなく、寧ろ現在の状況を認めざるを得ない代物だった。
それは、とても成人男性のものとは思えぬ、綺麗で細く小さな足だったからだ。
(えっと、話を整理するに、社会人をしてた頃の俺は事故に遭って死んでしまった。そして、目を覚ますと見知らぬ場所、デカく見える周りの景色や小さなの足……)
俺は思いの外落ち着いており、今までの出来事を纏めていた。
そして、結論する。
「つまり、転生して……子どもになったのか?」
無意識のうちに出ていた声は、いつもの俺の低い声じゃなく、聞き覚えのない高い子どもの声だった。
その声は、前世の俺は死んで新たに転生した事を証明していた。
「ほ、本当にあるとはなぁ……」
漫画や小説でよくある『転生』『生まれ変わり』と呼ばれる設定。
まさかそれが実際にあり、現在俺の身に起きている。
俺はそのあり得ない事実に困惑していた。
しかし、それは次第に薄れて行き、終いには「これで、あの退屈な日々にオサラバする事が出来る!!!」と笑みを浮かべながら口にしていた。
「そりゃあ、心残りはある……。けど、死んでしまっているならどうしようもない……」
仮に転移したのなら元の日常に戻ろうとした筈だ。
しかし、俺は誰かに召喚されたりした訳ではない、だから帰る術がない。
例え帰る術があったとしても、既に俺の身体は火葬されもうこの世には存在しないだろう。
だからこそ今の状況を受け入れている。
「そんな終わった人生の事を考えるより、新たな人生を楽しもう!」
俺はそう呟きながら右手を握りしめ、新たな世界に心を躍らせていた。
U・x・U兎吉「辞書は友達!(使命感)」