第一話 願い
はじめまして、兎吉と申しますw
「ウサギが好きだから」と言う適当な理由で付けた名前ですが、覚えてもらえると嬉しいです(*´ω`*)
決して難民だからじゃないよ(´・ω・`)
鈍足更新なので期待せずに待ってて下さい!
誤字、脱字、矛盾等があったらすみませんm(__)m
「ハァ……ハァ……」
世界が夜の帳に包まれる最中、ひとりの女性が『ナニカ』を抱え、その森を息を荒げながら一心不乱に駆けている。
年の頃は二十代半ばと言ったところだろうか。
衣服は襤褸布の様に所々開け破れており、それを着る彼女も傷だらけであり、その美しく小波立った金色の長い髪もまた、薄汚れて見る影もなくなっている。
だが彼女は、自身の姿には目もくれず、ただ只管に駆けていた。
「ハァ……ハァ……きゃあ!!!」
落ち葉に隠れていた樹々の根に右足を取られ転んだのだ。
そして右足からは、まるで紅玉を溶かした様な液体が、湧水みたいに溢れ出していた。
「痛ッ!…血が、出てる…」
彼女は一瞬、苦悶の表情を見せ出血した右足を押さえた。
そして、手に持っていた『モノ』を、上下左右あらゆる方向から徹底的に調べ上げる。
「傷は……良かったぁ……無さそう、ね…」
彼女が倒れる瞬間、咄嗟に身を丸め庇ったことで傷一つ無かった。
それが無事だと確認したら、自身の傷の応急処置すらせず、再び動かし走り出していた。
限界など疾うの昔に越えているのに。
彼女が森に入り走り始めてから、幾度躓き転倒したかは定かでない。
だが、彼女が両手で大切に抱える薄灰色の無地の布に包まれた『モノ』は、傷どころか汚れさえも殆どついていないのだ。
それ程、彼女にとってその『モノ』が自身の命よりも大切なのが窺える。
「大、丈夫よ……キッと、助かるわ……」
彼女は誰もいない虚空にそっと呟いていた。
その言葉は、自分を励ます様にも、ここには居ない誰かにそっと語りかけた様にも聞き取れた。
―――――半刻ほど時が流れ、夜も愈々本番と言った頃合い。
森の中を駆けていた彼女は、一際大きな精霊樹に背凭れにし、足を伸ばして座り込んでいた。
彼女の顔は、疲れ果て全てを諦めている訳ではない。一分でも、一秒でも長く身を休め、次の一歩を踏み出そうとする穏やかな表情だ。
その姿を通り掛かった人が見れば、その美しい容姿と相まって妖精が身体を休めているのだと見間違えられたことだろう。
その両手には勿論、彼女の命よりも大切な『モノ』がいつも以上に優しく大切に抱かれていた。
「あうう…」
言葉にならない声。誰かの声。それは彼女の声ではない。
しかし、どこか彼女の声音に似ている。そんな声。
「ゴメンね…窮屈よね。あの人のところまで、もう少しだけ我慢して」
彼女は、その声に驚きもせずに、心寂しげな口調で声の主に謝罪を告げていた。
彼女が声を掛けた先にあるモノ。それは彼女に抱かれた薄灰色の無地の布。それに包まれた『モノ』を覗き込んで見る。
なんと其処には、まるで真冬の山脈にふった新雪の様な白銀の髪をした赤子がいた。
その澄み渡った大空みたいな淡い青色の双眼で、何処と無く目元が似ている女性の顔へ左手を伸ばし見上げていた。
「あ、ああう!」
「大丈夫、気にしてないって?」
笑みを浮かべてそう言う赤子に、彼女も微笑みながらそう返す。赤子自身になりきる様に。
「あう、あうあー!」
「うふふ、『頑張れ!』ってアナタ、私を励ましてくれるの?」
何の意味も持たない言葉。それが己を激励しているのだと信じて疑わない。
「都合の良い解釈だ」と人は言うだろう。
勿論、彼女も分かってる。分かっているがそう捉えてしまう。
それ程彼女の旅路は、長く険く孤独なものだったのだろう。
「あう!」
赤子は「そうだ!」と言わんばかりに明るく答える。
「ありがとう、元気でたわ。頑張るからね!」
側から見れば、仮初めだと偽りだと分かってしまう、そんな虚ろで儚げな幻想だっただろう。
「さあ、元気が出たところで、そろそろ行きましょうか」
だが彼女は、本当に元気が出た様に笑顔だった。
そして、赤子を落とさぬ様に立ち上がり、一歩また一歩とこの森を抜けた先に居るであろう、あの人の元へと歩みを進める。
最愛なる君へ。
これは君への願いだ。
どうか最後まで聴いてくれ。
お金持ちになって、何不自由なく暮らして欲しい。
偉い人になって、人々を正しい方へ導いて欲しい。
頭が良くなって、世紀の大発明をして欲しい。
世界に君の名を轟かせて欲しい。
なんて私達はそんな事を決して望まない。
俺達が君に望むものは
唯一つ、君が幸せであって欲しい。
そんなちっぽけな幸せを毎日祈っているよ。
それから、終わりの方になったけど
―――――いつでも君を愛しているよ、シエル。
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