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Edition.Ⅳ 『基礎値と属性』

「それじゃあ優君、まずは基礎値と属性を計測しましょう」


「基礎値、ですか?」


「そう、基礎値。私達だけが持ち得る特殊な気、聖魔力(マナ)の総量と、特殊な抗体のランクを測るの」


 そう言いながら、エアリスはポーチからコードのついた指輪と、コードが繋がる手の平サイズの機械を取り出した。明らかに入りきる大きさではない。


「なんですか、今の」


「天魔の不思議技術。今はそれで納得してちょうだい。とにかく、これを指にはめてくれる?」


 それで簡潔にまとめ、優に指輪を差し出す。

 彼はその返答にジト目になりながら、指に指輪を通した。指輪は白金の指輪と同じように伸縮し、彼の指にぴたりと装着される。


「はい、オッケーよ。外していいわ」


「もうですか?」


「ええ、一瞬だけでいいの」


 優は指輪を指から抜き、エアリスに返した。

 彼女はそれを受け取り、機械の画面を覗き込む。が、次の瞬間エアリスは目を見開いて固まってしまった。


「……さすがは四大天使、と言うべきかしら」


「なんですか? 何か、まずいことでも」


「そう言うわけじゃないわよ。ほら、これを見て」


 優は目の前に見せられた機械の画面を見る。

 それには、こう書かれていた。


 聖魔力(マナ)量:S

 対邪抗体:S


「Sランクって、凄いんですか?」


「凄いなんてもんじゃないわ。最高評価はAなんだけど、それを超える評定……評価規格外よ。今の時代は凄いわね、こんな逸材に加えてもう一人Sランクがいるんだから。というか、彼女と優君以前にSランクは存在してないのよ」


「ってことは、俺とその人だけってことですか?」


「そういう事」


 はー、と優は画面をもう一度見る。Sランク、なんとも現実味がないが、それを言うなら今この状況が現実味などとうの昔に消えている。

 自分と同格の天魔……一度会って見たいと、優は素直に思った。


「次は属性ねっと」


 エアリスがピッ、と画面をタップし、画面を切り替える。

 次の画面を、彼女と一緒に覗いた。


 主属性:〈光〉

 副属性:〈死滅〉

 特属性:〈天魔波旬〉〈■■〉〈大空の寵愛〉〈■■〉〈■■■■■〉〈■■■■■〉


「天魔波旬……!? いえ、時期的に考えればおかしなことじゃないのかしら……」


「ど、どうしました?」


 優の属性を見ると、いきなりエアリスがくわっと声を荒げた。

 しかしすぐに収まり、顎に手を当てると考え込んでしまった。優は頭に疑問符を浮かべる。


「ああ、ごめんね。天魔波旬って言うのは、一つの時代に二人しか所有者がいないって言う属性なの。一人が優君で、あと一人がさっき言ったSランクなのよ」


「どんな偶然ですか、それは」


 思わず乾いた声が漏れる。それもそうだろう、優とその天魔はそのままでもSランク。それに加えて途轍もなく希少な能力の天魔波旬を二人とも有しているなど、天文学的数字に等しい。


「……もしかしたら、偶然じゃないのかもね」


 ぽつり、と、エアリスが小さく呟いたが、その声は誰にも聞かれずに空気に溶けてしまった。


「大空の寵愛って言うのは、なんですか?」


「それは大空の加護の上位版ね。風や雷、雪とかを操れるわ。勿論それを操る天魔には勝てないけど、補助位にはなるの。あとは運気が上がるとか?」


「地味に有効な気がします。じゃあこの四角は?」


「未だ目覚めていないけれど、行動によっては目覚める可能性のある属性の事。目覚めるかはわからないし、かつてこれを持っていたけど死ぬまで覚醒しなかった天魔もいるわ。だからないものとして扱った方がいいわね」


 なるほど、と優は頷く。今まで普通の勉強ばかりしてきたが、こう言う非日常的な知識は面白い。まだ自分にもそんな――"未知への興奮"という感情があったのかと、優は少しだけ驚いた。


「これで属性はいいかしら。次はこの世界について、基礎を確認するわ」


「はい、わかりました」


「この世界は平面で、盆に乗った世界に等しい。海を渡って行く端は、滝が流れていて落ちたら消滅する。それが普通に知られている事実ね」


「はい」


「だけど、この世界にはまだ秘密がある。私達がいる世界は表世界と呼ばれていて、マナの有無に関わらず存在出来る場所。

 そしてこの裏、空間災害の主な原因である世界が、裏世界。ここはマナを持っていないと消滅する、という特性を持っているわ。

 更にこの二つの世界の間に狭間が広がっていて、滝の最終到達点よ。そこはマナを持っていないと裏世界のどこかに飛ばされてしまうの。で、消滅。裏世界から落ちたら表世界に飛ぶ。けれど私達天魔は落ちても転送されないの。マナを持っているからね。

 これがこの世界の秘密、その一端よ」


 それはかなり危ないのでは、と優は思ったが、口には出さなかった。

 その代わりか、一つ、疑問に思う。


「俺の指輪って、何で出来てるんですか? 能力封印装置って、表世界で採れる鉱石じゃ多分作れませんよね」


「良い質問ね。それは聖魔鉱石(マナダイト)って言って、狭間でしか採れない鉱石よ。天魔にしか加工出来ないけど、術式を込めたりすればそれを記録して一種のマジックアイテムになるの。優君の指輪は何重にもプロテクトがかかってて術式を読み取れないけど、能力封印なんて何の術式なのかしらね。検討もつかないわ。

 いったいどこで手に入れたのか、質だって最高純度だし」


 エアリスが首を傾げる。それほどまでに優の指輪が守られているということだろう。勿論、優も。

 だが、最後の一言で、頭の中に不穏な予想が浮かび上がる。

 どこで手に入れたのか――。それはもしかして、どこかからパクってきたのでは? と。

 優は自分の父がそんな事をするとは思っていない。思っていないが……もしかすると、と思うのだ。


(父さん、まっとうな手段で手に入れたものだよね)


 思わず口調が変わってしまうが、仕方ないだろう。そんな事とは露知らず、エアリスは説明を説明を続けた。


「続けるわよ。学園ではね、パートナー制度というのがあるの」


「パートナー制度?」


「簡単に言えば、違う天魔同士で、一緒に行動する事ね。一人だと不慮の事故で死ぬ可能性があるから。

 優君のパートナーはお楽しみにね」


「ダブルSですか?」


 空気を読まずにぶったぎる。 まさにKYであるが、マイペースと言うべきか。

 エアリスはその返答に対し、はぁ、とため息を吐いた。


「そこは灰斗さんと桜譲りなのねー……」


「そうですか。誉められてる気はしませんけど」


「誉めてないからね。そうよ、ダブルSよ。あの子すこーしだけ性格に問題があって、中等部から通ってるのにパートナーが出来ないのよねー。正確には短期間、臨時で組むことはあるんだけど、相手の方が心折れて……」


「待ってください、そんな人と俺が組むと?」


 優はジト目でエアリスを見やる。エアリスはうっ、と奇妙な声を漏らしたあと、もう一度、しかし苦労の滲み出るようなため息を吐いた。


「……あの子はね、自分の信用する相手以外には決して心の扉すら見せない。見えていても、開けられるかは別だけどね。

 あの子が比較的信用してるのは私だけ。さすがにそれじゃあ、可哀想なのよ」


「それで俺を宛がおうと? 俺が信用されるかなんてわからないのに」


「いいえ。あなたなら出来るわ。彼女の扉を開けられる」


 妙に確信に満ちたその声に、優は口をつぐむ。自分がそんなことを出来るような崇高な存在ではないと知っているからだ。

 父と母が死んだ時の光景が頭を縛り、自傷してしまうような人間が他人を救える訳がない。救世主(メシア)とは、万人を分け隔てることなく救うことができる欠点のない人間が成る存在なのだから。

 少なくとも優は、自分がそんな事が出来るとは思えなかった。

 そんな不景気な考えが顔に出ていたのか、エアリスは優しく微笑んだ。不器用な弟に接する、お節介な姉のような笑みを。


「まあ、それはおいおいね。と、見えてきたわよ」


「え? ……ああ」


 優が窓から覗く景色を見ると、とある建物――否、国家とでも表す事が可能な程のものが見えた。

 合計七つの大きな学園、花びらのように別れた敷地。緑豊かな水上の都。

 呆気に取られる優を見ながら、エアリスは透き通る声で、言った。


「水上都市、学園都市、色々な呼び名があるけれど、普通はこう呼んでいるわ。複合学園国家――アポカリプト、と」

書きだめラスト。

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