Edition.Ⅲ 『非常識への誘い』
——キーン、コーン、カーン、コーン……。
今週一週間の最後の授業終了のチャイムが鳴り、教室の雰囲気が一気に緩む。
「はーい、この課題を月曜日までにやって提出すること。それでは解散」
教師が荷物を持って教室を出て行き、その場には生徒のみが残された。
生徒たちはリュックに物を詰め、友人と話し、部活の準備というそれぞれ思い思いの行動を取り始めた。
勿論優は帰宅派だ。そんな派閥があるかどうかは別として。
優は名札を取ろうと、胸ポケットに手をやる。
そこに触れた時、妙な感覚があった。
「なんだ?」
小さく呟き、裏地を見る。そこの物入れに、白いものが見えた。
彼はそれに手をやって引き抜くと、首を傾げた。
「……手紙? またなんで」
そもそも優は、そんな所に入れられるほど無用心ではない。
だとしたら脱いだときだが、今日は一度も脱いでいないはず。
(他人宛てだったら捨てるか)
そう思って裏を見る。そこには――
――天ヶ瀬優様へ
と、記してあった。
「捨てるのは、駄目だよな」
ここまではっきりと記されてあっては、見るしかなくなる。
優はため息を吐くと手紙を鞄の中にしまい、忘れ物がないか確認して教室を出たのだった。
◇◆◇
ボロいアパートの一室、自分の部屋に優は帰ると、早速鞄から手紙を取り出す。
紺色の羽を象ったシールを剥がし、破かないように中の便箋を引き抜く。
それを広げ、目を通した。
天ヶ瀬 優君へ。
早速だけど、この手紙を見てくれてありがとう。まずそこに感謝するわ。
私の正体が気になるでしょうが、まずそれは置いておいてちょうだい。
君の事はよく知っている。正確には、聞かされていただけど。
あなたは、自分の父と母の正体を知りたくないかしら?
「っ!?」
その一文を見た刹那、優は目を見開いた。
それだけではなく、閉じていた扉がゆっくりと開くような、そんな感覚も彼は覚えた。
この手紙の主は、自分の父親と母親を知っている。更に、正体という自分が知り得ていないものを知っている。
その事実だけで、彼はこの手紙に価値を見出だしたのだ。
優は逸る気持ちを抑え、続きの文へと目を動かした。
こんな言い方をすれば、あなたは来るでしょう。来て、しまうでしょう。
ですが、知っておいてほしい。灰斗さんと桜の息子である、あなたには。
明日の土曜日、とある場所で落ち合いましょう。時間はいつでもいいわ。
場所の地図はこの手紙に同封してあるわ。交通費もね。あと、警備員には同封してあるカードを見せれば通れるわ。
それじゃあ、また明日。来てくれることを祈っているわ。
あなたの父の友人より。
「……」
読み終えた優は、ゆっくりと息を吐いた。
父親と母親が目の前でトラックに轢かれて死んでから、十一年。
ずっと覚えている。父親と母親の血液や肉片が飛び散り、自分の顔を濡らした事を。
ずっと覚えている。以前までの幸せな日常が、あの日あの時あの瞬間に無に帰した事を。
何度も何度も夢に見て、何度も何度も慟哭した。
それでも夢は消えず、忌まわしいあの一瞬を忘れる事はない。
あの時、何故俺を突き飛ばしたのかと恨んだこともある。一人遺されるくらいなら、いっそのこと全員で死にたかった。
何度も首を斬ろうとした。しかし刃が首に触れた刹那、自分の突き飛ばした両親の笑みが脳裏で蘇り、ナイフを握る力が抜ける。
彼を縛る呪縛は、既に彼の精神を狂わせてしまった。
痛みは遠く、全てが他者のもののように思える。それが酷く恐ろしく、いつか自分が消えてしまうのではないかと言い様のない不安に襲われた。
そして、それを痛みとして繋ぎ止めようと自傷行為に手を出した。
痛みを感じている時が、己が存在しているのだと実感できたからだ。
別に優は痛みを快感に変換するマゾではない。しかし、痛みが彼を救っていたのもまた事実。
何度か、女とも交わった。
快楽が己を繋ぎとめ止めてくれるのではないかと期待したからだ。しかし快楽は痛みよりも遠く、繫ぎ止めるには値しなかった。
結局、痛みしか自分がここにいると判別できず。
だがそれは、歪な救い。
「……行くか」
それに頼っていれば、いつか本当に壊れてしまう。
優は決断した。この人物に会って、己の事を知ると。
そして願わくば――
「俺は、普通に戻れるのかな」
彼は戻れることを、祈った。
――それが違う形で裏切られる事になるのは、今この時の優では予想出来なかった。
◇◆◇
同封されていた紙は三枚あった。
一枚目が件の女性と会うための場所の地図。
二枚目が、交通費だと思われる千円札。
三枚目が、警備員に渡せと書かれていた招待状のようなカード。
優としては交通費すらバイト一回分に匹敵するので、かなりありがたい。
が、一つ問題があった。
「……ここって、アポカリプトへのフロントエリアだよな」
複合学園国家アポカリプト。
太平洋上に浮くその都市は、日本本土とは一本の直通線と三本の貨物線を除いて断絶されている。
各国家、アメリカ、ロシア、日本、中国の四つの国からしかモノレールは通っていない。
それらモノレールはかなり厳重なメンテナンスが行われており、崩れる、事故るなどの事故はほとんど起きていない。速度も控えめなので、事故っても海に落ちたりはしないのだが。
そしてそのモノレールが通る場所はフロントエリアと呼ばれるのだ。
場所の地図に記された場所は件のエリアの一つ、日本が有するフロント・神奈川フロントエリア。
その場所で落ち合うのだから、アポカリプトへと渡る可能性が高い。
「何故に俺が。確かに全国模試は三十位以内だけど、それ以上の順位はいるし」
優は再度首を傾げたが、まあいいかと考え直す。どちらにしろやる事は同じなのだから。
彼はリュックに明日持って行く手紙を、長年使っている財布に交通費を入れ、同じくリュックに詰めた。
そして明日への期待と一抹の不安を抱えながら、風呂に入って勉強してから眠ったのだった。
そのまま寝る事はしない。優は潔癖ではないが、綺麗好きなのだし。
次の日。
優は電車に揺られながら、流れ行く風景を窓から見つめていた。
時刻は朝の五時。近くの駅から始発に乗り、悠々と席に座れた。
これがあと二時間もすれば人混みに押し潰される羽目になるので、この時間が最適と言える。優は決して軟弱ではないが、屈強でもないのだから。
ちなみに優の服装は、安売りされていた白色のパーカーにジーパンだ。
優自身の容姿が並外れているのでそこまで気にはされないが、安物という点でなんとも悲哀を誘う。
優の容姿は詳細に記せば、灰色に黒髪メッシュ、無機物的な金色の目、目元の涼しげな無表情で整いすぎた、だが違和感のない顔となる。
彼は人外染みた美しさと、自然的な美しさを両立させているのだ。
「ここか」
優は下ろしていたリュックを背負うと、ポケットに手を突っ込んで電車を出た。
手紙を見ながら、フロントエリアへの道を進む。
「ねえ見て、あれ」
「わ、凄いイケメン」
「でも目付き悪くない?」
「それがいいんじゃない」
ひそひそと、優を見ながら女達が話している。優の聴力はいいので丸聞こえなのだが、彼はこういう手合いは関わるととても面倒という事を知っているので、自然に無視している。
そのまま歩いていると、黒い駅のようなものが見えた。
「あれがフロント……。大きいな」
感嘆の声を吐きながら、優はその入り口へと進む。
入り口付近には二人の警備員がおり、彼が近づくのを見て手を出した。
「誰だ? 学園の生徒か?」
「いや、この手紙を出した人間に会いに来た。これを見せろとも書いていたよ」
ポケットから渡せと指示されたカードを出し、提出する。
警備員はそれを目を見開いて見たあと、通ってよし、と道を開けた。
「マジで何者なんだ、この人」
小さく呟いたあと、優はフロントの中に入った。
ビー!
と思ったら、ゲートの上部にあるセンサーが鳴った。どうやら金属探知機のようだ。
「失礼、何か反応するようなものは持っていないか?」
「それなら多分、これだな」
ジーパンに下げておいた金属……アクセサリーの類ではなく、切れ味の良い小さなペーパーナイフを取り、警備員に見せる。
「ペーパーナイフ? 何故?」
「別に持っていないとダメってわけじゃないんだが、その場合結構大変な事になるから持ってるんだよ。詳しく聞きたいか?」
「ああ。話してくれ」
「自傷衝動」
そう言った途端、二人の警備員の顔が歪む。哀れむような目で優を見つめ、ゆっくりとペーパーナイフを返す。
彼は肩を竦めると、それを受け取って元の位置に戻した。
「そんな目で見ないでくれ。不愉快だ」
「……すまないな。とにかく、通れ」
優は今度は反応しないなと確認し、足を進めた。
奥に入ると、中はモノレールが一本だけ停まっている。席などもあるが、誰もいない。アポカリプトへ渡る学生は滅多なことでは本土に帰らないので、当たり前だろうか。
そこを見渡すと、一人の女性がいた。
その女性は目を閉じ、ベンチにゆったりともたれかかっている。光を反射する美しい金髪は背中まで伸び、カソックの上からでもわかるメリハリのついた体つきだ。
そして優と同じ、人外の美しさを醸し出している。優が人形とするならば——こちらは、妖精だろうか。
「……あの人か?」
優はゆっくりと、その女性に近寄っていく。
あと数歩、となったところで——
「来てくれてありがとう、天ヶ瀬優君」
女性の目がゆっくりと開き、その翡翠の目が優を見据えた。
「……はい。それで、あなたは」
「ああ、申し遅れたわね。私はエアリス・グレイグラット。あなたの父、天ヶ瀬灰斗、母の天ヶ瀬桜の友よ」
灰斗に桜――間違いなく、優の両親の名だ。
彼はそれに加え、エアリスの様子を見て確信する。彼女は、自分の敵ではないと。
優は五歳の頃から、醜い大人ばかり見てきた。そのためか優は目が効くわけではないが、その人物の持つ『感情』に酷く敏感だ。あるいは、生きるために仕方なかったのかもしれない。
その目でエアリスを捉えたときから、その中の色は見えていた。
その色は澄んで。清流のように清らかで、そして何より懐古と、敬愛の念を宿している。
それが己の両親に向けたものという事は明白。
そんな彼女に対し、彼は完全とまではいかないものの、警戒を解いていた。
「少しは信用してくれたみたいね」
「わかるんですか?」
「警戒心がなさすぎ……いえ、なかったと言うべきかしら。
ともかく、心を隠しすぎるのも逆に怪しまれるからやめた方がいいわ。
今みたいに、適度な警戒心を出しておきなさいな」
「はい」
行きすぎれば怪しまれる、という事かと、優は頷いた。
「これで自己紹介はある程度済んだことだし、本題に入りましょうか。モノレールに乗るわよ」
「え、てことは」
「アポカリプトへ行く、っとことね」
何か言いたそうな優を引っ張り、モノレールに乗り込む。どうやらお金は必要ないようだ。
あとで聞いたことなのだが、国からお金が出ているらしい。
優とエアリスが乗り終えたタイミングで、モノレールの扉が閉まる。
その中の向かい会う席に座ると、エアリスはその「本題」を口に出した。
「優君、あなたは空間災害について、どう認識しているのかしら?」
「空間災害、ですか。普通にいきなり物が壊れるとか、酷い時には街が消滅したとか、まあ意味のわからない現象と認識してます」
「そうね、概ねそれが正しいわ。
でもね、本当は意味のわからない現象なんかじゃないのよ。私達は、その答えを何百何千年、人類史が始まった時から認識しているの」
「人類史、って……冗談ですよね?」
さすがに信じられない優が聞き返すが、エアリスは至って真剣に言う。
「冗談じゃないわよ。本当の話」
「……だとしたら、なんで俺に? 一般に言っていい情報じゃないでしょう」
外の変わらない群青色の海の景色、それをエアリスは眺めながら、一言。
「それはね、優君。あなたが一般じゃないからよ」
「……どういう意味です?」
「そのままよ。あなたは普通じゃない。あなたの父親も、母親もね」
「……」
優は黙り込んだ。その事実を、頭の中で何度も確認していたのだ。
確かに優は精神的な異常を抱えている。しかし、両親はその面では普通だったはずだ。それにエアリスの語った「一般ではない」のインストレーションとは、違う気がする。
「そうね……あなた、指輪を持っていない? 白金で出来た、白い」
「なんでそれを……確かに持ってますけど」
「見せてくれない?」
優は少し逡巡し、自分の手を差し出すことで妥協した。エアリスは苦笑すると、真剣な面向きで指輪を見始めた。
少しの間見ていたエアリスだったが、何かに納得したのか頷くと、優の手を離す。
「やっぱり封印が六割がた機能してないわね」
「封印?」
「ええ。優君、それを外した状態で、何か強い感情に支配されたりしなかったかしら?」
「……ありますね」
一昨日の一件、彼らは彼の指輪を外した。
それがきっかけで優は「殺してでも奪い返す」という怒りの感情に支配され、彼らをボコし、指輪を奪還した。
もしも彼らが半端に強かったなら、優は文字通り殺して奪い返しただろう。ある意味では、彼らが弱くて助かったとも言える。
「でしょうね。その時、何か熱を感じなかった?」
「感じました。全能感が全身に満ち溢れるような」
「今でもそれは感じる?」
言われて、優は体の中に意識を向けた。
隅々まで見ると、この前のものより幾分か小さな『熱』を、身体の中心、つまり心臓の近くに感じた。改めて言われなければ、気がつかぬ程に存在が薄い。
「それを引っ張り出してみなさい。それが何よりも確たる証拠になるから」
「はい」
あの時感じた全能感と、体が作り直される感覚。
それは普通では得られないものだと、彼は知っていた。それ故に、確たる証拠というのも頷けるかもしれない。
優はその『熱』に、意識を集中させた。
この前のような堰き止められていたものが解放され、濁流のように流れ出るようなものではない。もっと静かに、自然な流れで解放させる。
とくん、とくんと、優の全身にその『熱』が流れ始めた。細胞の隅々まで浸透し、肉体の再編が行われて全能感と快感が全身を包むが、それらに流されないよう意識を硬くする。
流れると同時に、優の体にも見てわかる変化が訪れていた。
鈍い灰色の髪はどんどんと色が変わっていき、美しく輝く白銀へと変わる。体は少しだけ筋肉質になった。
優はそれらに気付かず、引っ張り出す作業を続けていく。
そして『熱』を全て解放し、全身に行き渡らせたその刹那——
「うぐっ……!?」
優の口から、呻き声が漏れる。
それもそのはずで、彼の背中から、何かが生えてきていたのだ。
白く輝く、超常の存在だとわかる威圧感を持つ、美しい翼。
それが三対、優の背中の肩甲骨辺りから生えていたのだ。
「な、なんだ、これ」
「天使の羽。それも最上位、熾天使の六枚羽」
エアリスが簡潔に答える。優は翼をはためかせながら、慌てて彼女を問いただした。
「わ、ちょっと風がくるんだけど」
「そんな事より、どういうことですか。なんで俺にこんなものが」
「落ち着きなさい、と言ってもそこまで慌ててはいないわね。それじゃ、説明するわ。
まず一つ、あなたは人間ではない。正確には、半分ほど人間じゃないの。
優君の種族は天人。天使と人間のハーフよ」
「天使と人間のハーフ……え!? ってことは俺の両親は……!」
「そうよ。あなたの父親、灰斗さんが天使で、桜は多少特異な点もあるけど、人間。
そして六枚羽。それは片親が天使の中でも最高序列、熾天使である事を示す。
こんな風にね」
エアリスの背中に光が集まり、ある一つの形を形成していく。
それは優のものによく似た、六枚の天使の羽だった。彼の目が天使の羽を見たと確認すると、彼女は翼を光にし、体に収納した。
「私も、片親が熾天使なの。名はアザゼル、かつて神の怒りを買った熾天使。
そして優君、あなたの父、灰斗さんの本当の名はウリエル。
ミカエルとも並ぶ四大天使にして、その中で最強の戦闘能力を誇る瞬光と破壊の天使。それがあなたの父親で、あなたはその能力を受け継いだ新人類……天魔なの」
「とう、さんが?」
優は途切れ途切れの言葉を発した。あまりにも、衝撃的すぎたのだ。
しかし同時に、一つの疑問が浮かぶ。
「もし、そうだとしたら……父さんは、死んだんですか? 天使、なんですよね。それに、なんで母さんも?」
「……子供を作った天使と悪魔は、力を失って近いうちに死ぬの。色々な理由があるけれどね。私の親は病死だったわ。
桜は天使の眷属化していたから、ウリエルと一緒に死んでしまったのよ」
「そうですか……」
優は拳を握り、開く。それを何回か繰り返して、優は目を閉じ口を歪めた。
そして、小さな嗚咽が漏れる。
「父さん……母さん……俺は、俺はなんなんだよ……」
十一年前、目の前で二人が死んで。それ以来、ずっと一人で普通の人間として生きてきた。
けれど本当は、天人という人外で。そもそも普通の人間としてなど、生きられなかったのだ。何故それを伝えてくれなかったのか。
結局、自分はなんなのか。なんのために生まれ、なんのために生き、なんのために死んでいくのか。それすらもわからず、全てが闇に包まれたように何も見通せない。
それが彼には、たまらなく恐ろしく思えた。
しかし。ここで、エアリスが口を開く。
「その指輪は、優君の天使の力を封印する装置にもなっているの。どんな方法かは知らないけれど、特殊な鉱石を使ってね。
それを着けて、普通に過ごしていれば優君は『普通の人間』として、普通に生き、こちら側に来ることなく、一生を終えていたでしょう。それが私が灰斗さんと交わした約束の一つだからね。
でも彼は、もう一つ私に伝えたことがあるの。
『もしも優がこちら側に来るようになったら……多少でいい。あの子を助けてやってくれ』と。
彼はね、何よりもあなたを愛していたわ。こちら側に来ることで、死ぬ可能性は高くなる。だからこそ最初は無縁の世界に居させて、来てしまったなら手引きをして死なせないようにと。
私も頼まれたわ。こちら側では結構上の立場だからね。
だから優君、あなたは生きなさい。親から繋がれた命を、せめて嫌な形で喪わないために」
ガツン、と。優は、頭を鈍器で殴られたような感覚を覚えた。長年詰まって居たものが、その衝撃で解放されたような。
そして優は頭を上げ、エアリスを正面から見据える。
「正直、まだわかりません。繋がれた、というのも、なんとも。
ですが、目的は見つけました。俺は自分が生まれた意味を探します。存在の意味を、証明を、定義を、俺は探します。
そうすればいつか、父さんと母さんが俺を作った意味も証明できる時が来るはずです。俺は両親に、俺を生んだのは意味のあることだったと言いたいのです。
ですから、エアリスさん。
お願いします。俺をそちら側に、行かせてください」
優の決意を込めた瞳。それに写るエアリスは、過去を懐かしむ思いを出していた。
しかしそれが消えると、新しい世界への期待の念を込めて——
「私、エアリス・グレイグラットは、あなたを歓迎します。
ようこそ……世界の裏側へ」
そう、言ったのだった。
アザゼルは何故熾天使なのか、という問いについては、もっと先のお話に理由があります。
ただひとつわかっていてほしいのは、この作品における『堕天使』とは、天使の善性と悪魔の悪性を兼ね備えた強大な存在であるということです。ちなみに天使から堕ちるのみなので、悪魔が堕天使化はないです。