Prologue 『いつか来る終わりの為に』
とある一軒家——
少し古びたその家に、二人の男女が住んでいた。
彼らは見目麗しく、それでいながらこの古びた一軒家に住んでいるとあって、様々な噂が立っている。
曰く吸血鬼だとか、良いところの子供が駆け落ちしたのだとか。
それはある意味で間違っていて、そしてある意味正解している。
その家の中で、ある青年が椅子に座っていた。
途方もなく整った、西洋風の人形のような顔に灰色の髪と金色の目を持ち、シンプルな白い服を着ている。その出で立ちは、まるで神の使いのよう。
彼は天井を見上げ、何かを考えているのかのように瞳には思案の色が浮かぶ。
——がちゃり。
「ん、桜か」
入ってきた女性をそう呼んで、青年は視界を落とした。
「どうしたの、何か悩み事?」
その隣に座った、生き物の自然な美しさを持つ黒髪赤目の女性は、そう青年に声をかけた。
男性は頭をかりかりと掻くと、彼女が腕に抱く赤子——彼ら二人の子供を見る。
「いや、な。……この子が生まれた以上、俺はもうすぐ死ぬだろう。一年後か五年後か、はたまた明日かはわからないが、そう思うと、途端に憂鬱になる」
「私も、それは考えてるわ。……不便なものよね、なんでその程度の事すら許してくれないのかしら」
「仕方ないさ。これが俺の役目であり、天明であり、宿命なんだ。終えたら、もう用済みっていう事だろう。
ああ、でも、俺はちゃんとお前の事を愛しているから。だからこの子を——優を作ったんだ」
すやすやと眠る、優と呼んだ赤子を撫でながら、青年は優しい声質で語る。
「だけど、本当に良いのか?」
「何が?」
「俺の眷属になんてなったら、お前だって近いうちに死ぬ。そうしたら優を育てる事が出来なくなるぞ」
「確かに私は、この子を育てるのが夢だった。けどね、気付いたのよ。
私がこの子と一緒にいたら、優を不幸にしてしまう。あなたもわかっているでしょう? 私を連れ戻そうとする、あいつらの事」
「ああ。……わかった、もう止めはしない。
ただ四歳の時までに死んだら、エアリスに預けるぞ。五歳の時は、普通に親戚だ。それ以降もな。
四歳か五歳で、優はこちら側に来るか否かが決まる。出来れば来ないでほしいもんだがな」
青年はため息を吐くと、己の息子を預けるかもしれない女性の姿を思い浮かべる。女性の頭の中にも、それと同じものが浮かんでいた。
「確かにね。それじゃ、お休み」
「お休み。明日、眷属化の儀式を行う。そうしたら本当の一蓮托生だ。
……ごめんな」
「何謝ってるのよ。ほら、ベッドに行く行く。この子の世話もしないといけないんだし」
「わかったわかった」
青年と女性は先程までの湿っぽい空気を少しだけ残しながら、ベッドに向かって歩いて行った。
これは、天魔の物語。
影と偽りと欺瞞に満ちたこの世界で繰り広げられる、偽典と原典、或いは終わりと始まりの物語。
それは、神を殺す物語。