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悲哀の土  作者: 左鶏守
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彼が人形に願うこと

 昔あるところに不思議なものばかり売る商人がいました。その商人は男に一塊の土を見せ、

「この土で人形を作ってみなさい。最も理想とする人を思い浮かべながら作ればその通りになるでしょう」

と言いました。男はそんな商人の売り文句に心惹かれました。男にはもう一度会いたいと思っている「最も理想とする人」がいたからです。商人からその土を飼うと家に持ち帰り、早速制作にかかりました。

最初は半信半疑でしたが、土をこねているだけでイメージはどんどん具体的なものとなり、気づけばどんどん人の形に近づいていました。それからわずか数分後、目の前に「最も理想とする人」である彼の妻が現れました。半年前、理不尽な凶刃に倒れた妻でした。

まるで眠っているような姿に男はしばらく見とれてましたが、彼女の足元にあった紙切れに気付き目を通しました。それは商人が土を渡したときに注意事項として書いたもので、男はそれを見た時「本当に?」と思いました。

 そこには二つの事が書かれてました。

「一つ、あなたが作り上げたものはこのままではただの人形です。しかしその人形と口づけを交わすことでその人形に命が宿ります。口づけしたものが死ぬか『土に還れ』と願わない限り存在し続けます」

書かれている通りに恐る恐る口づけを交わすと触れた時はひんやりと冷たかった唇は徐々に温もりを帯び始め、きつく閉ざされた眼がゆっくりと開かれました。

ところが彼女は男の姿を捉えた途端キッと眉をひそめ飛び退くと、

「やめて、近寄らないで。あなたの顔なんて見たくない!」と言い放ちました。

「二つ、口づけを交わしたものの記憶こそ共有しますが、そのものに好意を寄せることはありません。むしろ憎悪の対象として見続けます。意識がある間永遠に」

男はためしに尋ねました「本当に君は俺の妻か?」と

彼女は答えました「そうよ!『あなたが殺した』妻よ」

男は少し救われた気がしました。今一番聞きたかった言葉だったからです。

むろん、彼女を手にかけたのは彼ではなく、見ず知らずの人間でその犯人は他にも数名襲った後、自ら命を絶ちました。

事件後、男は犯人を憎んでいましたが、それよりずっと自身のことが許せずにいました。

だからあの紙きれを目にした時二つ目の項目に「本当に?」と思ったのです。「本当に俺のことを許さないでくれる?」と

 その後も「あなたのせいで私は……」「なんであなたが生きているの」「もっと生きていたかったのに」と次から次に責められ続けました。

男は「絶対に『土に還れ』と願わない」と決めました。

そう、死ぬまでずっと……

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