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3 三日夜の餅


栴檀は

双葉より

何とやら


笛に筝

絵や書や和歌に

至るまで


教える端から

のみ込みが早く

その上達は

日々目覚ましく


師として

まことに

鼻高々の

末頼もしい

自慢の弟子も


ほんの一日

二条の院から

足遠のいて

戻ってみれば


私の不在を

すねて

うつむく

あどけなさ


罪の意識と

笑顔見たさに

浮気を繕う

情夫さながら

機嫌取り々々

貴女をあやして


数日は

外に出かける

気も失せた


そうかと言って


男女の情理

妹背の契り


謎をかけても

ふざけてみても


気が抜けるほど

とんと解さぬ

おぼこの貴女の

天真爛漫


世話役は

お手上げで

打つ手もなくて

ただ苦笑した


貴女が邸に

来て四年


もう決して

早すぎるとは

思わなかった


純粋無垢な

掌中の玉の

貴女ではもう

飽き足らなくて


これ以上

待てなくて


待つ気も

なくて


ある晩

貴女と

枕を交わした


おいでと呼べば

いつも変わらず

喜々として

我が懐に

飛び込んでくる

初心な貴女に


おいでと呼んで

ほろ苦い

切ない夜を

味わわせた


昨日まで

父だ

兄だと

任じた輩が


ある日突然

男という目で

貴女を女と

眺めれば


裏切り者の

烙印押されて

恨まれるのは

必定なれど


それでもいいと

覚悟した


いつかはと

決めていたから


貴女を娶ると

決めていたから


貴女の

最初で

最後の夫に

私がなると

決めていたから


それが

たまたま

あの晩だった

それだけのこと


さはさりながら


恥じらいと

怒りと

不信で

口も利かない

新妻が


初めて目にする

“後朝の文”を

何と見るやら

閨を去るのも

気が気ではなく


“三日夜の餅”の

いわれを貴女に

説く夜は

さすがの私も

照れくさかった


童女わらわめ

たおやかな

女性にょしょうに変ずる

不思議を見ながら


貴女のすべてに

ぞっこんだった



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