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1 十かそこらの

源氏の問わずがたり

(1)


--- 面ざし通う

紫のゆかり

なかりせば


あの日

あのとき

私が貴女に

目を留めることは

なかったろうか?


病得て

鬱々過ごした

山里で


偶然見かけた

十ほどの

幼い貴女が


かの人の

面かげ宿す

血続きの姪と


物好きな

詮索高じて

知ることなくば


私が貴女を

見初めることは

なかったろうか? ---


急ぐ気もない

答えはいつも


うやむやのまま

うっちゃっていた

若かりし日の

気負った自問


私を置いて

黄泉路へ発った

貴女を腕に

抱いて今


止まらぬ涙に

往生しながら


その

穏やかな

永遠の寝顔に


否としか


悔しいほど

否としか


その一言しか

浮かばぬ答え


貴女が

貴女で

あればこそ


誰彼の

ゆかりを問わず

私は貴女の

虜になった


手弱女ながら

気丈夫で

賢いがゆえに

馬鹿にもなれて

凛としてかつ

従順な


貴女が

貴女で

あるかぎり


またいつの世に

いずこで

逢おうと


性懲りもなく

私は必ず

貴女の虜に

なるだろう




(2)


この世の中で

誰より先に

誰より深く

貴女に懸想

した者として


いや

今もなお


逝った貴女に

懸想を止めぬ

者として


最大限の

思慕と

敬意と

吃驚の

念を込めて


敢えて

“くせに”と

戯れて言うのを

赦されよ


あの山里で


あの日

あのとき

貴女はほんの

十かそこらの

幼女の“くせに”


愛くるしくて

無邪気で

素直で


それでいてなお


芯があり

筋を通して

おいそれと引かぬ

意地があり


貴女はほんの

十かそこらの

幼女の“くせに”


源氏と呼ばれた

この私をして

遅疑や

躊躇の

猶予も与えず


たちどころに

恋い狂わせた


五年のち

十年のちの

貴女を

誰より

間近で見たくて


あまつさえ

他の男に

やりたくなくて


未来の貴女を

妻に娶ると

即刻

その場で

心に誓った


晩春の

日も落ちかかった

山里で


小柴の垣の

隙間から


偶然目にした

十かそこらの

幼な児の

夫になると


十八の

私は固く

心に決めた



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