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キャベツ「危険な警察官と馬鹿な女子高生」

「は?」


 唖然である。

 私は我が耳を疑った。何を言っているのか理解出来ないからだ。


 目の前の男――警察官さんは、笑いながら難しい言葉をべらべらと止まることなく口にしている。

 授業が始まるまで後十五分。まだ学校にも着いていない私は、けっこうピンチだ。

 高校三年にもなって警察官さんとお話ししてました、なんて遅刻の理由にはならないだろう。

 そう、ピンチだ。


 はっきりもう一度言おう、何を言っているのか分からない。日本語なのは確かだが、経済的に、や、社会的に、など。

 政治の話だろうか? 何か選択を迫られているのは理解できるが、何を勧められているのか分からない。


 だが、選択したらかなり、そう、経済的にも社会的にも私は勝ち組になるらしい。


「……選べば、私の為になるの?」


「もちろん! ミラちゃんは、必ず幸せになれる! 昨日だって、そう言ったじゃない?」


 昨日? はて、昨日とは?

 私の記憶では、この警察官さんとは今日が初対面な気がする。


「その前も、いつもいつも、選択してくれたでしょ? 選んでくれたじゃない! そして、喜んでくれた! 僕は嬉しいんだ。ミラちゃんだって、それを望んでる」


 初対面なのだが、名前まで知っている。どこかで出会っていたのかな?


「あの、どこかで会ったっけ?」


「……忘れたの? 僕達はずっと前、夢の中でも会ったよ! 本当に忘れちゃったの? ミラちゃんは少し薄情だね。僕は一日たりとも忘れた日は無いよ。だって、約束したでしょ?」


 はて? なんの事やら。でも警察官さんが会った、というなら会っているのだろう。

 よく見れば警察官さんの切れ長で綺麗な二重の下には、濃い隈が出来ている。寝不足の様だ。

 大変な事件でもあったのだろうか? もしや、私の生命の危機? 知らない間に人質か何かになったのだろうか?


 それにしても、経済的と社会的はどう違うの?



 そんな事を考えていると、再び話し出した警察官さんを、じっと見上げる。

 何かを必死に私に訴えているが、何せオール三以下、二に届くかどうかの成績である私には難しい。


「あの、とりあえず了解した! 私、学校行かなきゃいけないから」


「……それって、了承してくれたんだよね? 僕の提案、了承してくれたんだよね?」


 りょうしょう って何だろう?


「うん、うん。りょうしょうした」


 頷きながらオウムの様に返せば、警察官さんは一気に嬉しそうな顔に変わった。

 花が咲くような笑顔で私の両手を取った。そして優しく、包み込んだ。


「ああ、僕は幸せだよ。ミラちゃんが僕を受け入れてくれるなんて! これで僕達は婚約したも同然。付き合う期間も楽しかったけれど、やっぱり限度はあるからね。さあ、これを受け取って」


 何やら話していたが、包んでいた手が離れたと思ったら、私の左手の薬指に指輪が出現した。

 え、何これマジック?

 警察官さんを見上げると、彼は少し照れた顔をして愛おしそうに指輪を撫でた。


 マジック成功したのだろう。

 分かった。今までのは全部マジックの準備だったに違いない。成功して満足しただろう。


「じゃあ、私行くね」


「あ、うん。勉強頑張ってね! 帰り、またいつもみたいに迎えに行くから!」


 マジックまだ続いてるのかな、初対面なのに。なんて思いながら私は走り出した。

 それなら指輪は取らない方がいいかな、と。


「え、ミラ彼氏出来たの?」


 学校にギリギリで着くなり、隣の席の麻衣(まい)ちゃんが目を見開いて駆け寄ってきた。


「あ、これ? マジックの練習みたい。帰りにまた続きやるから取らない方がいいかなって思って」


「マジック? え、マジシャンに会ってきたわけ?」


「うーん、趣味じゃない? 警察官さんだけど」


「警察がマジック? ……もしかして、ミラのこと、いつもめっちゃ見てる四番街の交番にいる警察官?」


 麻衣ちゃんは、考え事をしていたと思ったら、急に青ざめて私に詰め寄ってきた。


「あー、そうだった、かも?」


 四番街ってどこだろう? 分からないけど、いつも歩いているなら、今日も通ってきた道だろう。


「やばいよ! 止めときな! 取っちゃいなよ、こんなの! 遂に話し掛けてきたんだ! いつも気持ち悪いくらい見てたもん、絶対婚約指輪とかだって、これ!」


「え? え?」


 言うや否や、私の手から指輪を外し、指輪を眺めると「名前まで刻んである」と泣きそうな顔をしていた。


「ねえ、ミラは好きなの? あの警察官。噂じゃ、親が警視庁の偉い人らしいから、お金はあるだろうけど……顔も、まあ、悪くないし? でも、絶対ストーカーだよ、あれ!」


「でも、指輪綺麗だよねー」


「……ミラ、あんた聞いてた? あいつストーカーだって!」


「ストーカーがいるの? 相談しなよ、警察官さんがどうにかしてくれるんじゃない?」


「はぁ、あんたと話すと疲れる。言葉のキャッチボールって出来ないよね、前から。なんか、どんな状況でもミラなら大丈夫な気がしてきた」


「え? なんか言った、麻衣ちゃん?」


「……なんでもない」


 凄く疲れた顔をして麻衣ちゃんは、自分の席に戻った。私に指輪を渡して。

 どうしようか悩んだが、再びつける事にした。

 確か、左手の薬指だったかと。



 帰り、本当に迎えに来たらしい彼は、警察官の服を脱ぎ捨て、スーツをきっちり着込んでいた。

 どこか今朝よりも顔色が良い。良いことでもあったのだろうか?


「ひっ!」


 隣をたまたま歩いていた麻衣ちゃんが、彼を見るなり悲鳴に似た声を上げた。

 彼は麻衣ちゃんに見向きもせず、私に近寄ると「行こうか」と手を取った。とても嬉しそう。


「み、ミラ、お疲れ。がんば」


「あ、麻衣ちゃんまたねー」


 麻衣ちゃんはチラチラと不安そうな顔をしていたが、私の言葉を聞いて何かを諦めたのか、ため息をついて帰っていった。



 警察官さんに連れられてタクシーで移動中、またも難しい言葉をべらべらと聞かされていた。

 そして渡されたのが、薄い大きめの茶色い紙。


 何かの届らしいが、漢字が読めなくて、何か分からない。助けを求めて見上げれば、またも頬を染めながら「さっき了承してくれたから、さっそく記入したんだ」


「僕の名前だよ」


 指を差された欄を見れば、漢字は読めないものの、上にひらがなで「いじゅういん きょうや」と書かれている。


 おお、警察官さんはきょうやって名前だったか。


「ここ、ミラちゃんの欄だよ、名前書いて? 他は書いておいたから」


「私も書くの?」


「そうだよ。僕が全部書いても良かったんだけど、ミラちゃんにも実感してほしくて……ほら、了承してくれたから」


 りょうしょうって何だろう? でもしちゃったからな、名前くらいなら大丈夫かな。

 変な書類でもないみたいだし……。


「これ、どこかに出すの?」


「役所に提出するよ。実はね、今日は僕の誕生日なんだ。記念にね、これ今日中に出したくて。僕としては最高のプレゼントだよ!」


 やくしょって、どこだろう?

 でも誕生日なら、お祝いしなきゃ!


「じゃあ、はい! おめでとう」


 すらすらーっと名前だけ書いて、警察官――きょうやくんに手渡した。

 すると彼はみるみる目を輝かせ「幸せにする!」と私を抱き締めた。



 何がなんだか分からないが、良い誕生日になったみたいだ。



 そして私は数カ月後に事の大きさを知った。

 なぜなら今、私は結婚式に来ていて、花嫁としてバージンロードを歩いているからだ。

 隣を歩く、白いタキシードに身を包んでいるきょうやくんは満面の笑み。目の下の隈も今は全く無い。

 見上げると嬉しそうに微笑んできた。

 いつもの警察制服も似合っていたが、真っ白も似合う。彼は何を着ても似合ってしまうのだろう。





 そこでも私は呑気に「進路を考えなくてもいいのかー」と完全に主婦になる気分でいたのだから、結果オーライなのかもしれない。



クレイジーな警察官とあまり物事を深く考えないような馬鹿な女の子が書きたかったです。


警察官は。

守る人、正義って気がするから、無意識に犯罪者とは遠いものだと思ってしまいますよね。

だからどうしても警察官がよくて、そして妄想と夢と現実の区別がつかなくなったクレイジー人間にしたつもりです。

隈があるのも、その為だと作者は思ってる。

エリートで優秀だから、逆に脆さがあるというか、気軽に声かけたりとか出来なかったと思います。



女子高生は。

友達いなくても気にしないような強さがある。

世界でたった一人でも、寂しさとかも理解できずに淡々と生きていける感がある。

人の評価とか自分に対しても、どこか無頓着で無責任。


そんな二人の話でした。

書いてて楽しかったです!


こちらは短編ですが、これからも他の作品もよろしくお願いします。

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