パプリカ「王様ゲームは」
「ほ、本当にやるの?」
「あんた三番なんでしょ? 王様の言うことは、絶対、よ」
ど、どうして、こんなことに……
王様ゲームを始めて数分。
私、夏梅は、同じクラスの坂口くんに告白することになった。
ここではっきりしておこう。
私に恋心は一切無い。
でも、三番を引いたのは私な訳で……。
坂口くんは、クラスでは浮いた存在というか、無愛想で色々と目立つタイプだ。
色々、と言うのが、思ったことをハッキリと言葉にしてしまうタイプみたいなので、気を使う、という事をしない。
外見は悪くないので、近寄る人も多いが、避けられている方が多い。
坂口くんに近づくと心が折れる人、続出中なのだ。
そんな人間に、何故私が、告白?
クラスでは隅っこで、仲良しの子達としか話さない私が!
打たれ弱いので、確実に心が折れる……今からビクビクだ。
気持ち悪い、とか言われたりするんだろうな。
ブス、とか言われるのかな。
坂口くんを王様が呼びに行って数分。
私は何度も深呼吸しながら、誰もいない教室で待っている。
好きって言うだけ、好きって言うだけ、好きって言うだけ。
手汗も凄いことになって、握りしめる。
坂口くんに何を言われても、私はゲームだから告白するだけ。ゲームだから仕方無く、するだけ。
「……なに、してんの」
「ひっ!!」
下ばかり向いて念仏の様に唱えていたら、いつの間にか、坂口くんが背後に立っていた。
私は振り向いて、思わず後ずさる。
聞かれていたのだろうか。恥ずかしすぎる。
「話って、何?」
「あ、えっと、さ、坂口、くん、だよね」
「そうだけど。見てわかるでしょ」
「あ、そうですよね、ごめんなさい」
普段話したことが無いから分からないけど、なんだか機嫌が悪い?
これは早めに告白しないと、殴られたりするだろうか。
「あの、ですね、坂口くん」
「だから、何? 俺、忙しいんだけど」
「す、すすす、好きです!」
言った! 言ったよ! 私凄い! 何か言われても気にしない、気にしないよ、大丈夫。これはゲームなんだから。
チラッと坂口くんの様子を伺うと、ぽかーんと、口を開けたまま固まっている。
何か言ってよー 何か言われないとゲームですって言いにくい。
「あ、あのですね、坂口くん? これは、」
「好きって、お前が、俺を?」
突然、下を向いてボソボソと問い始めた。
躊躇なく言葉にする坂口くんにしては、珍しいな、と思いながら「そういう事に、なるね」と言った。
そして王様ゲームでしたっと、口を開けようとしたその時。
「嬉しい。俺も、好きだった。結婚しよう!」
勢いよく顔を上げたかと思ったら、赤面しながら、見たこともない満面な笑みの坂口くんがいた。
なんだか、こっちまで恥ずかしくなる。が、え、坂口くん、今なんて言った?
「え、坂口くん?」
「夏梅さんも、俺の事好きだったなんて! 夢みたいだ! 俺、ずっと夏梅さんの事見てて……でも、俺、皆からどう思われているか知ってるから、俺みたいなのは無理だろうなって、諦めようとしてたんだよね。なのに、夏梅さんから告白してくれるなんて!」
「ま、ままま、まって、待って、坂口くん!」
坂口くんの勢いが凄くて、グイグイくるから戸惑ったが、勘違いしてない?
それより、私の事好きだったのか! 一番しちゃいけないことをしたのでは、私、最低。
「夏梅さんと両想いだったなんて! 諦める必要無かったんだ。俺、勇気出して告白すれば良かった。ごめんね、夏梅さん。俺も好きだから、プロポーズは俺からするから、ね? 結婚しよう。卒業したら。いや、でも卒業まで待てるかな、俺」
「いや、全然話し聞いてないし」
興奮していて、私の言葉など全く聞いてない。
こんなことなら、さっき確認された時に、ゲームでしたって言えば良かった。
これ絶対、坂口くん傷つくよね。私本当に最低な人間だよ、泣きたい。
坂口くん、私を恨むかな? 五寸釘とか持って木に打ち付けたり、家燃やされたり、も、もしかして、殺されたり……怖い。言えない。
何しでかすか分からないのも、坂口なのだ。
噂だと、坂口くんに付きまとった女子生徒が何故か退学したらしい。その他にも、色々噂が飛び交っていて。
全部、本当か分からないけど、噂が流れるって事は、それだけ謎な人物の訳で。
今も目の前で、私の手を取りながら、興奮している坂口くんに、私はいつ真実を言えるのだろうか。
「…………帰ろうか、坂口くん」
「え、そうだね、帰ろうか、夏梅さん。俺、一緒に登下校とか夏梅さんとしたいって妄想してたんだ! 現実に出来るなんて!」
私は、考えることを、止めた。
もう、なるように、なれ!