魔法!
「それにしても・・・この子は特殊な子じゃのう。」
魔法の属性を道具もなしに読み取ることが出来るのは限られた者にしかできないこと。しかも複数の属性を見抜くとは。
そう考えているとこの子はさらにワシとシシリアの度肝を抜くことをさらっと言ってのけた。
「精霊化できるよ。」
そう言って立ち上がるとアルスはなにやら考え込むようにすると体がスッと半透明になり、風属性である薄い緑色になった。驚くワシたちが面白いのかからかうようにシシリアの体をすり抜けワシの服を風でめくったかと思うと今度は緋色の火の属性に変化し空中をふわふわと浮かぶ。さすがに突風や火災を起こしたりはしなかったがそれもやろうと思えばできるのだろう。
ふたたび風の属性に変化すると足元を見ながらゆっくりと着地して精霊化を解除した。
「おじいちゃんのびっくりした顔おもしろいねー。」
屈託のない笑みを浮かべてこちらを見上げてくれる。上機嫌なアルスとは裏腹にワシらは頭が痛くなってきた。
この子はきっと強すぎる力を疎まれて捨てられたに違いない。精霊化が使えるということはあらゆる属性の魔法が使用可能であり精霊が居るところなら魔法は使いたい放題で相手の魔法の質、即ちどんな魔法がつかえるかも手に取るようにわかるのだ。使える魔法を知られてしまうと魔法使いは手の内を知られたのも同然。対極の属性をぶつけられると魔法は最悪相殺されてしまう。この子はその気になれば相手の対極の属性の魔法をそれこそ相手の魔法を飲み込むほどの量で返すことが可能になる。
エルフやワシのような鬼や魔物でも個人差はあれどよほどのことがない限り自然には勝てない。 精霊の力とは土地の持つ魔力そのものなのだ。
この子は生まれながらにして魔法使いの頂点を目指せる才能をもっているのだ。
おそらく訓練をつめば数年でワシはもちろんシシリアすら魔法でこの子に勝つのは不可能になるだろう。
「どうしたの?」
ワシらの反応を見て不安になったのかアルスは困ったようにおろおろしだした。 かわいいのう。
「アルスは魔法の才能があるのう。」
とりあえずわかることはそれだけ。 そしてこの子はとても特殊だということだ。
普通なら誰もが欲しがる才能を持ちながら親に捨てられそして痩せたからだで人を避けるように森にいたかと思えばワシらには心を開いてくれているようだし。この子は注意して育てなければ・・・。
もしもこの子が憎しみや悪意に引きずられることになれば未曾有の被害を出すだろう。 精霊化しその土地の精霊を他所に移動させるだけでその土地は荒れ放題になり、精霊が過剰になった土地は魔物の跋扈する魔境となる。あまりに強すぎる存在じゃ。
エルフやドラゴンの中でもほとんど居ない精霊化の使い手をわずか10歳の人間の子供がいとも容易く。しかもこの様子だとまだなにか隠しとる気がする。
「凄いのう、しかしもしかしてまだ何かできるのか?」
精霊化が出来て子供だから将来性があり、見目麗しい。それだけで将来が約束されたようなものだが・・・。まだなにか、しかもとんでもないものを隠している気がするのじゃ。
「うん! 皆を止めることが出来るよ!」
「止める?」
「皆が石みたいに動かなくなる魔法使える!」
やっぱりか、しかし皆が石みたいに動かなくなるとは一体なんじゃ?そう思っていると突然アルスの姿が消えた。
「ぬおっ?!」
「ここだよ~。」
いつの間にか眼の前にいたはずのアルスが食卓の椅子に座って手を振っている。
「おじいちゃん石像みたいに固まってた。」
「アルス、私もか?」
「うん、固まってたよ。」
スピードをいくら上げたとしてもワシやシシリアの目を欺けるとは思えんし麻痺や拘束の魔法ならばそれこそ簡単に抵抗できる。それができないとなるとこれはなんの魔法じゃ?末恐ろしいわい。




