寝る子はそだつ!
怖い夢を見た。それは父親だったあの男に殺される夢。俺がアルスの中にいなかったら、そう思った時の恐怖。あの血走った眼の男が振り下ろす剣が体に吸い込まれて・・・。
「うわああああ!」
起き上がって抵抗しようとしたところで俺は誰かに抱きすくめられる。シシリアさんだった。
「どうした? 怖い夢でもみたか?」
「と、父さんが・・・ぼ、僕を・・・け、剣で」
震えてまともに喋れない俺をシシリアさんは言葉をさえぎるように抱きしめてくれる。
「此処にはそんな人はいない。 安心していい。」
シシリアさんの豊かな胸から伝わる温もりと鼓動が俺の、アルスの心を少しづつ癒してくれる。
「この村に住んでいる人は皆子供が大好きだ。 君を怯えさせる者はいない、だから安心して眠るといい。」
強張った体から自然と力が抜けていく。心地よい暖かさに俺は再び眠りについた。
「本当に怖かったんだな。」
怯えてきった体から徐々に振るえが消えて規則正しい寝息が聞こえてきたので安心する。
彼と出会ったあの森の木の洞。まるで小動物のような仕草と疑って掛かったのがバカらしくなるくらい小さな子供。びくびくしているのでどうして此処にいるのか尋ねて怯えた態度も彼の言葉で理解できた。
まさかこんな可愛い子供を捨てる親がいたなんて・・・。村には人間はほとんどっていうか医者が一人しかいないけど子供を捨ててしまう感覚が我々には理解できない。面倒だけど村長に断りを入れて家で面倒みようかと思ったけれど村長もどうやら彼を気に入った様子だった。親権をどうにか手に入れたいけど私の家は一人暮らしでちょっと手狭。対する村長の家は奥さんとの暮らしがあったから広いし子育ての経験がある分有利になって仕方なく住む場所は譲ることにした。
村長とのやり取りで今日は私が添い寝することに。嬉しさ前回で引き受けたけどしばらく経ってそれが理解できた。汗をかいてうなされだしたアルス。
心配になって隣に椅子を持ってきて様子を見てやると悲鳴と共に起き上がって来る。
怯える彼を抱きしめながら私はなんとも言えない気持ちになった。こんな細いからだで彼はどんな恐怖を味わったというのだろう。震えるアルスを抱きしめてやると彼は嗚咽を混ぜながら彼が味わった恐怖を教えてくれた。
「と、父さんが・・・ぼ、僕を・・・け、剣で」
もういい、もうたくさんだ!
私はアルスを強く抱きしめて言葉をさえぎる。こっちまで辛くなる。ありえない。
「此処にはそんな人はいない。 安心していい。」
そう言って頭を撫で、何度か声をかけてやるとアルスはようやく落ち着いたのかまた寝息を立てはじめた。
「いい子だ、もう心配しなくていいからね。」
頭を撫でてあげながら私は彼を守ってあげたいとそう強く思った。