拾う神あり。
「失礼します。」
女性に続いて建物の中に入ると一階はまるで受付のカウンターの様になっておりその手前にあるソファに老人が座っていた。
「おーう、シシリアか。」
老人はのっそりと立ち上がるとこちらに歩いてきた。身長が異様に高い、二メートルはゆうに超えている。
「村長、子供を拾った。」
「なに? 子供とな?」
老人は服越しでもわかるくらい筋骨隆々で目つきも鋭く、体には戦傷が走っている。 体格の割りに足取りが軽いことも老人の実力を示しているのだろう。
「おい、アルス。村長だ、挨拶しろ。」
「・・・アルスです、よろしく。」
このじいちゃん怖いよ!食われたりしないよね!内心ガクブルしながらシシリアと呼ばれた女性の後ろに隠れる。
「ご両親が心配しているのではないか?」
「捨てられたといっていた。」
ご老人のもっともな問いかけにシシリアが答えると老人は悲しそうな表情を浮かべて俺を見ていた。
「そうか・・・こんな小さな子だというのにのう。」
「それで、どうします?」
「追い出せというのか?そんなことしたら死んだカミさんに殺されてしまうわい。」
老人はそう言うと俺を見てにっこりと笑う。
「坊主、今日からお前の家はここだ。 寝泊りはここでせい。」
「・・・いいの?」
「いいとも、ただし朝飯と晩飯は必ずワシと食うこと、いいな?」
怖いと思っていたおじいさんはにっかりと笑うと俺の頭を優しく撫でてくれた。ああ、やばい、涙がでてきた。
「う、ふぐ・・・。」
「おお、泣け泣け。 お前さんはまだ小さいんじゃからのう。」
「ふぇ・・・うわああああああん!」
こうして俺は老人とシシリアというエルフの女性に育ててもらうことになった。
「眠ってしまったのう。」
ムキムキの老人ことこの村の村長は泣きつかれて眠ってしまった少年を抱えて頬を緩める。
老人の種族は鬼神。老いた鬼が角を失う代わりに到達できる鬼の最終到達点。 人間からみればあってないが如くの長命故に種族として子供が出来にくい体質である。エルフもそれは同様。 それ故に両種族は子供を溺愛する。
人間のように捨てたりするなどもってのほか。
「村長、それでこの子の処遇はどうする?」
「とりあえずはワシが育て・・・なんだその目は。」
「私が引き取る。」
ずるいといわんばかりの視線に村長とシシリアの戦いは勃発した。戦いは少年を起こさぬように視線のみによって行われオーラが空中で火花を散らしていた。
二人の無駄に特殊な戦いの結果、住む場所は村長の自宅に決定した。
「フゥ・・・フゥ・・・ワシの勝ちじゃぞ。」
「今日は・・・ね。」
お互い肩で息をしながら熱戦を繰り広げていたが今回は村長に軍配が上がったようだ。しかしながらシシリアは諦める気はないようだ。
「それにしてもお前さんがこの子を気に入るとはのう。」
「それはお互い様でしょう・・・。」
二人の視線が太い筋肉質な腕の中で眠る少年に向けられる。少年が何歳なのか二人は知らないがまるで羽のように軽い体に少し驚いていた。
「ずいぶんと痩せておるのう。」
「7歳くらいに見えるけど・・・どうなのかな。」
シシリアは頬に手をやる、ぷにぷにとやわらかい。そしてうっすらと流れる涙を拭ってやる。そうすると少年は少し身をよじったがまた寝息を立て始める。
「うう・・・可愛い。」
最初の凛とした振る舞いはどこへいったのかデレデレと少年の頭を撫でる表情は締りがない。
「仕方ないのう・・・シシリア、今日はお前さんが添い寝してやれ。」
村長が呆れたように言うとシシリアは眼を輝かせる。
「いいのか?」
「つれてきたのはお前さんじゃろう、それにこの子もワシより女性のお前さんの方が良いじゃろ。」
抱いて寝てやるのは女性の務めじゃて、と村長はそう言うと大きなあくびを一つしてシシリアに少年を託した。
「一応今日はワシの家の客間に泊めてやっとくれ知らん子供がいると皆驚くからのう。」
「わかった。」
シシリアは短く答えると軽い足取りでゲストルームの寝室へ向かった。