畜生が・・・
「ハハハハハ! 傑作だよな、勘当してくれたから俺は
誰もがうらやむ才能を開花させた。」
笑い声と話かたが変化したことに気付いたのか父親だった男デイビット・サルーン伯爵は表情を憤怒に染めている。妾腹の子に貴族たる自分がコケにされているのが腹立たしいのだろう。だがそれはこっちだって同じだ。
「さて、ここからは馬車で3時間は掛かるよね。」
そう言うと俺は剣から足をどけて、この薄情な男に背を向けてみせる。そして間髪入れず俺は時間停止を発動させる。
「っぐ・・・結構キツイな。」
解放されたばかりの不十分な力と幼いからだでは時間操作は厳しいらしい。心臓が一瞬止まったような激しい不快感が体を駆けるが魔力異常回復のお陰で魔法を発動し続けることは容易だ。
魔法というのは重いものを持ち上げるのに似ている。地面に置かれた重量物を持ち上げる際、勢いと体力を使う。もちろん維持にも同等の体力が入るがこちらは体力を持ち上げるよりかは小さく継続して使うので回復力と拮抗していれば問題ない。
なのでこのギフトがあるお陰でいくらでも時間は止められる。ただし連続して止めるのは難しいが。
息を整えて汗を拭うと俺は期待しないで後ろを振り返る。
「やっぱりコイツ人でなしだな。」
背後にはわが子の背中を切りつけようとする父親の姿。どうしようもない、屑野郎だな。 俺はその刃を潜って御者のいない馬車にまたがると時間停止を解除する。
「もう話したくもないな。」
馬に鞭を入れ、馬車を発車させると後ろから怒鳴り声を上げる人でなしを置き去りにして一足先に屋敷へと向かった。
「ただいまー。」
屋敷に帰ると使用人達がそれぞれ自分の仕事をこなしていた。食事はすませていたがなんとなく物足りない。そう思ってキッチンに向かうと居残って仕事をこなしていた料理人たちがこっちを見たがすぐに何事もなかったように仕事に戻っていく。
よくもまあこんな扱いができたもんだ。妾腹とはいえ元跡継ぎだぞ。 ナメきってやがる。
「悪いんだけどステーキをもらえるかい?」
近くの料理人に頼むと露骨に嫌そうな顔をし、食料庫を顎で示す。作る気はないな。
しかも食料庫は鍵が掛かっている。料理長以外は空けられない。
俺は鍋をかき混ぜている料理長に近づいて頼むことにした。
「料理長、ステーキを焼いてくれないか?」
「こんな時間にですか? アンタ自分の立場がわかってるんですか?」
一応敬語だが敬意も遠慮も感じられない言葉だ。そうかい、まあ、いいさ。そろそろ丁寧に頼むのもバカらしくなってきたところだ。
「わかってる、さっさと作れ。」
俺はそう言うと火の魔法を発動し、近場にあったフライパンを溶解させる。 火が俺の怒りを代弁してくれているみたいでとてもとても気分がいい。
「火の扱いが苦手でさ、俺がすると人が丸焼きになりそうなんだ。」
笑顔でそう言ってやると料理長は冷や汗を流し始める。そりゃそうだ、今まで犬畜生のように扱った相手が虎だったんだからな。
「た、ただいま!」
我に返った料理長は震える手で鍵を開けると中から牛の肉を取り出し、慎重に焼き始める。
「あー、パンが食べたいな、それも宜しく。」
「は、はい!」
そういうといつも食わされていた黒パンじゃなく不純物を除いた高級な小麦を使ったパンがトーストされて出てきた。
「いい匂いだ、いままで食べてきたものとは大違いだ。肉もいい具合だね、これが君達の本気かい?」
「は、はい・・・準備が整えばもっと良い物も出せます。」
「へー、じゃあ今まで俺に出してた料理はなんだったんだよ。」
ステーキを口に運びながらそう尋ねると料理長とコック達は怯えながら目を泳がせる。
「ステーキもパンも、この葡萄酒も!皆皆食ったことなんか俺の記憶にない!なんでだ!俺が何をした?」
俺が敵意を隠さずに問いかけると俺の視線を受けたものは例外なくヒッと悲鳴を上げる。