会合の一コマ10
それぞれの思惑が交差する中最初に動いたのはミノタウロスのヴァネッサ。おもむろに席を立ち、アルスの隣に移動すると目線を落としてにっかりと笑う。
「私はヴァネッサってんだ。 宜しくな。」
「・・・あ、アルスです。よろしく。」
「おー、アルス!かわいいなオマエ!」
くしゃくしゃと頭を撫でる力は存外優しい。その気になれば立ち木を引っこ抜く馬力とスタミナを持つ彼女だが以外にも子供の扱いには慣れているようだった。
「ん・・・。」
目を細めて気持ち良さそうに目を瞑って頭を撫でられる姿がまた可愛らしい。
ロッチナを除くほかの面々は出し抜かれた悔しさ半分、可愛い姿を見ていたいという欲望のせめぎあいに苦しむ羽目になる。
そんな中、状況を打開すべく動いたのはシシリア。彼女もおもむろに席を立つとアルスを手招きする。
「アルス、おいで。」
「?」
彼女が手招きするとアルスは椅子から降りるとトコトコとシシリアの元まで移動すると彼女に抱き上げられる。
「アルス、難しい話をしている。 外に行こう。」
「うん、わかった。」
少し照れくさそうにしながらもアルスは彼女に寄りかかって体を預ける。
(くっ・・・年数の差が出た!)
ヴァネッサは心の中で舌打ちする。子供は何と言っても一番面倒を見てくれた人に心を開くもの。 シシリアはなんだかんだいって面倒見のいい女性なので子供が懐くのも無理はない。
そして出遅れたコロロとアックスはドアを開けて出て行くシシリアを見送ると少し残念そうにため息をついた。
(こりゃ完全に出遅れたニャ、ヴァネッサで無理なら今回は私には手に余るニャ)
ポーカフェイスですばやく考えるとコロロは追いかけても挽回が難しいことを悟り
時期を待つことにする。アックスもアルスに興味こそあったがシシリアほど執着も愛情もないのでちょっと残念、程度に考えていた。
「ったく、先に行きやがって・・・それじゃ俺もフケるぜ!」
ヴァネッサはそう言うと首をゴキリと鳴らし退屈そうに部屋を出て行った。
「私も今日はお暇するわ、何日か滞在するつもりだから話があったら呼んで頂戴。」
歯抜けになったテーブルに続いてロッチナが席を立つ。 もとより彼女はカイゼルの話にそれほど興味はない。そしてアルスが取り扱いの難しい物件であることも知っているので個人として以上に関わるつもりがないことも大きかっただろう。
「ふむ、昼飯も済んだし今日はこれくらいにしとこうかの。」
何人かが抜けたところで主催のカイゼルも席を立つと空になった食器をまとめて片付け始めた。
カイゼルがそういうので残りの面子も席を立ち思い思いの場所に向かった。




